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    ・現パロWV(牧台、葬台は決めていません。お好みの解釈でどうぞ。)

    寝ぼけてもーにん社会人  ピッと声を上げたところでヴァッシュが頭を叩いた。もそりと布団から顔を上げれば、沈黙した目覚まし時計は午前七時少し前を示す。 今一度布団に顔を埋めると、諦めたような長いため息が漏れた。
     気だるい気だるい社会人の一日が今日も始まる。

     午前七時。
     本日は週の真ん中翌日の木曜日。あと二日、されどまだ二日。疲労が溜まりに溜まった木曜日。朝の気分もそれはもう低いもので、起きねばと体を起こしたヴァッシュの眉間には深々と皺が寄っていた。
    「……るふっど、おきて、あさ」
     掠れた声で横の恋人を叩けば、不機嫌そうな唸り声が返ってきた。起きたくないとは言わせない、と今度は手で物理的に叩いてやると、開ききっていないウルフウッドの目がこちらに向けられる。
    「……あと五分」
    「ダメ……それ」
     今度こそ起きてくれとのしかかってやると、ほかほかと温かいウルフウッドの体温がヴァッシュに伝う。寝ている時の彼はいつも以上に温かくて心地よいのだった。
     と、思い出したのは目覚まし時計がリベンジだと叫び出した時だった。

     午前七時十五分。
     寝坊したと慌ててキッチンに駆け込み湯を沸かす。ドタバタと洗面所に飛び込むと、顔をびしょびしょに濡らしたまま船を漕ぐウルフウッドの姿があった。
    「ねぇ、溺れるよ」
    「んあ」
     肩を揺らしてやるとびくりと体が跳ねた。お疲れなのは分かるが、朝から頓痴気な理由で医療機関の世話にはなりたくない。タオルを渡してやると、今度はそれに顔を当てたまま船を漕ぎ始めた。
    「お!き!て!」
    「はぁぇっ」
     肩を揺さぶりウルフウッドを起こす。今日は本当にダメらしい。このまま放っておくと今度は歯ブラシが喉に詰まるかもしれない、と終始見守ってキッチンに戻ると、沸かした湯はすっかりぬるまっていた。

     午前七時三十分。
     ウルフウッドが出かけるまであと三十分しかない。相変わらず寝ぼけているらしい彼はワイシャツのボタンを止めるのに難儀していた。後頭部には元気な寝癖が顔を覗かせている。そんな後ろ姿を愛おしく思いながらも、ヴァッシュは心を鬼にしてウルフウッドを急かす。
    「ほら、あと三十分だよ。コーヒー置いておくから」
    「おん……おーきに」
     何とか身支度を整えたウルフウッドがソファへ倒れ込む。ぼんやりとテレビを眺める目は焦点が合っていない。何度目かの二度寝をしようとするウルフウッドに痺れを切らしたヴァッシュは、致し方無しとキッチンから助っ人を呼び出した。

     午前七時三十五分。
    「ていっ」
    「のわっ!?」
     ソファで微睡み始めたウルフウッドの頬にひんやりとした痛みが走った。呼び出しを受けた保冷剤が眠気を貰いに馳せ参じたらしい。一気に眠気を吹っ飛ばされたウルフウッドが振り返った先には、ご機嫌な寝癖を連れたヴァッシュが立っていた。
    「おはようウルフウッド。目は覚めたかな?」
    「おん……おはようさん……元気な頭デスネ……」
    「え?!ウソ?!」
     助っ人を放り出して洗面所へと駆け込む後ろ姿を見送り、ウルフウッドは用意されたコーヒーを啜る。
    「っぶはっ……」
     ヴァッシュ特製、粉末コーヒー山盛り四杯分の寝ぼけコーヒーはウルフウッドの目を完璧に冴えさせた。

     午前七時五十五分。
     小さくて可愛い殺伐としたショートアニメを見終え、玄関へと向かう。ウルフウッドの後頭部には聞かん坊の寝癖が居座っていた。
    「そしたら行ってくるで」
    「うん、気をつけて」
     ウルフウッドが腕を広げる。ヴァッシュはそこに飛び込むとそのまま背中に腕を回し、互いにぎゅうっと力を込めた。
     彼に悪い事が降りかかりませんように、無事に自分の元へと戻ってきますようにと祈る彼らの日課。朝の一番大切な時間だった。
     玄関からは朝の軽やかな風が部屋へと流れ込み、ヴァッシュとウルフウッドを包む。この風が時間を経て重みを増す頃まで、しばし別れの時間。少し寂しいのは否めないが、疲れていても寝ぼけていても、ここへ重い夜風を二度連れ帰らなくてはならない。
     それが無事の帰宅を意味するのだから。
    「いってきます。ヴァッシュ」
    「いってらっしゃい。ウルフウッド」
     今度は軽く唇を合わせる。照れくさそうな笑い声が風に流され空を舞った。

     ただいま、と、おかえり、まで。
     今日も一日ご無事で!
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