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    れに☔️

    @rainy_blue10

    鯖ぐだ︎︎ ♀とぐだ♂鯖が好き

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    れに☔️

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    松ぐだ♀
    ぐだちゃんが告白してふられる話。高杉さんが途中途中出てきます。

    「それは気の迷いではありませんか?」
    一世一代の告白。今まで誰にでも言ってこなかった言葉を、目の前の彼は言葉で突きつけた。
    「え、どうしてそう思うんですか。松陰さん」

    松陰さん、こと吉田松陰。松下村塾の塾長で安政の大獄で斬首された人。一度、維新都市サイタマで発生した微小特異点でマスターである私を含め、ヘクトール、佐々木小次郎、そして彼の教え子の高杉晋作の前に立ちはだかった。あろうことか高杉重工ならぬ、吉田コンツェルンの総帥として君臨していた。そんな人がカルデアに召喚されたのだ。とても嬉しかったし何より会って話をしてみたかった。
    日本史、特に幕末から明治維新にかけてが好きな人は知らない人は居ないらしい。教えを解く彼に私はいつしか恋焦がれていた。

    気の迷いを突きつけた彼は私を振った、ということになるだろうか。

    「気持ちは嬉しいですが、僕から比べて君はまだ若い。それに人理を救うという使命があるでしょう。ですから僕のようなサーヴァントに現を抜かすことはして欲しくない」
    貴女は今を生きる人だから、と微笑んでそう言った。
    「そう、ですか」
    「ええ」
    これはあまりにも冷酷だ。所詮、私はマスターでこの人から見れば十代の小娘だろうか。泣きそうになるのを堪えて私は踵を返す。
    「私が、貴方に対しての告白を聞いてもらっただけでも嬉しかったです。では、また何かあれば呼びますね」
    と逃げるように松陰さんから遠ざかった。呼びつけたのは自分のくせに、と呪いながら。






    「見てましたよ。ひっどい振り方じゃないですか、先生」
    生前から思っていたが、よく通る声だ。声の主を見て息を吐く。
    「見てたんですか」
    「見てましたよ。マスター君に用があったんですが、先生が居たんでいつ話しかけるか様子を伺ってたんですけど、まさか告白とは思いませんで」
    肩を竦めて彼はそう言った。シャドウボーダーの談話室、いつ誰が入ってきてもおかしくない状況。彼が来ても何ら不自然は無い。

    遡ること数分前。折り入って話がある、との事でマスターに付いてきた。その際彼女は
    「松陰さん、私、貴方が好きです」
    と真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。
    「好き、とはどういうことでしょう?」
    「あ、えっと……その、貴方をお慕いしてますと言えば、分かりますか……?」
    顔を赤らめてたどたどしくマスターは言った。ああそうか、彼女は僕をそう見ていたか。思ってもいなかった。
    彼女は人理保証機関カルデアのマスター、人理最後のマスター。それを除けば十代後半の、今を生きる少女。そんな彼女が僕に向けて好きだと、慕っていると言ってきたのだ。驚きを隠せない。
    僕のような、日ノ本を変えたい、世界をこの目で見てみたい、その一心で大政奉還の道へと目指した結果、斬首となった。今を生きるどころか過去を生きた影法師にしか過ぎない、一介のサーヴァント。だからこそ、気の迷いではないかと思ったのだ。

    「気の迷い、ねえ」
    高杉君から僕が彼女に向けて言った言葉が放たれる。
    「なんです、そこから見ていたのですか。趣味が悪い」
    「いやいや、先生こそ。彼女にとっては一世一代の大勝負のようなもんですよ。僕が見た限り、サーヴァント全員には分け隔てなく接してると僕は踏んでたんですが、ねえ?」
    へらへらと口が回るものだ。
    「何が言いたいんですか」
    「先生は何か隠してませんか?それか感情に蓋をしてるとか」
    何を根拠に言うのだろう彼は。
    「何の意図で君がそう言うのは知りません。では僕はこれで」
    「ちょっ、先生、まだ話の途中ですよ!」
    呼び掛けを無視して談話室を後にする。この感情は、この思いは誰にも言うつもりはないのだから。


    ▢▢

    今の感情は彼の言う通り気の迷いなのだろうか。たどり着いたマイルームの扉を閉めた瞬間、堪えていた涙が溢れてきた。
    確かに憧れかもしれない。それでも松陰さんに言いたかったことは伝えれたのだから。
    そう思うと余計に涙が止まらなくて、嗚咽が漏れるのも嫌で、ベットの枕に押し付けるようにして、わんわんと泣いた。

    いつの間にか寝ていて部屋の呼び出し音で目が覚めた。微睡みの中だるい体を起こす。誰だろう。
    「……はーい」
    泣きすぎて嗄れた声のまま、モニターをつける。
    『やあ、マスター君!』
    飄々としたよく通る声。
    「高杉さん……?」
    『随分と探したぞ。どこへ行っても居ないじゃないか』
    モニター越しの高杉さんの顔が呆れている。
    「すみません、寝てました」
    『それより中に入れてくれないか。立ち話もなんだし』
    「えっ」
    数時間前まで小さい子供のように泣いていた。そんな訳で瞼は腫れて、目は赤くなって、とても見せられたものではない。この顔を見せるのがよりによって松陰さんのお弟子さんにあたる人。
    「嫌です」
    『つれないこと言うなよ。君の自室に邪魔するんだ、手土産を持ってきたんだぞ。喜ぶといい』
    モニターへ写るよう、取っ手の付いた箱をずいと見せてきた。手土産を理由に入って来ようとする辺り、どうしてもこちらへ入ってきたいらしい。
    「分かりました。今鍵開けます」
    中に入っているものは何だろうか。


    「ひっどい顔だな」
    苺タルトをつつく私に彼は言った。
    「顔、見ないでほしいんですが」
    「いや、見るだろう。部屋に入れてくれた時から様子がおかしいと思ってたんだ」
    出来れば何も聞かないでほしいと思ったが、そうはいかない。明らかに泣き腫らした顔の私を前にして何も思わないはずがない。
    「昔、喧嘩して泣いてないと意地張ってた妹を思い出すよ」
    妹。そういえばこの人、史実を調べたら4人兄弟の長男で尚且つ下は妹3人。面倒みの良さはそこから来ているのだろうか。
    私が黙々と食べていると、彼は私が出したお茶を黙々と飲んでいた。それから一呼吸置いて沈黙に耐えきれず
    「何も聞かないんですか」
    と言ってしまった。
    「話す気が無いのならそれでいいさ、泣くほどのことなら尚更。泣いてた訳を聞いてほしいのなら喜んで聞こう」
    優しいのかそうじゃないのか。分からない。でもこの人になら話していいのではないか。好意を抱いた人の教え子だから、あの人のことを知っているはず。
    「実は……」
    とそれを皮切りに、松陰さんが好きなこと、数時間前に談話室へ呼び出したこと、気の迷いではないかと言われたこと、それから泣いていた理由を高杉さんへ全て話した。
    頷きつつ実の妹の話しを聞くような顔が、何故か全てを話していいと思えたのだ。
    「なるほどな。先生も酷なことを言うものだ。それで、君は気持ちの丈を全て伝えたのか?」
    「はい。その上でああ言われて」
    「先生は君へ対してどう思ってると?今を生きる人としての君ではなく、君自身への気持ちは」
    あれ、そういえば私へ対してどう思ってるか松陰さんに聞いていない。人として、今を生きている者はこうあれとしか。
    「そういえば聞いてないです。それ以外は」
    高杉さんは大きくため息をつき、頭を抱えた。
    「肝心なことを聞いてないじゃないか。駄目だろう。先生も先生だ。マスター君を突き放しておきながら、本心を言ってない」
    呆れられてしまったのだろうか。暫くして高杉さんは私の目を真っ直ぐ見て言った。
    「よし、僕が手を貸してやろう」
    口に運ぼうとした苺が危うく落ちるところだった。
    「へ?ど、どうして急に」
    「君、知りたくないのか。先生が君に対してどう思っているか」
    知りたい。それは喉から手が出るほどに。でも特に何も思っていないかもしれない。
    「私、怖いです。それと同時に知りたいとも思っています。少しでも好意を抱いてくれるならって」
    「そうだろう、そうだろう」
    と目を輝かせて彼は頷く。だがどうすれば、松陰さんの気持ちを知ることができるのか。私には検討がつかない。
    「実際どうすればいいんです?もう一度話してみて言ってくれる気がしないんですけど」
    不安が募る中、恐る恐る聞く。
    「どうするかは今から決めようじゃないか。こういうのはどちらかと言えば得意分野でね」
    「なあんだ、何も決めてないじゃないですか」
    何を思って手を貸すと言ったのか。
    「僕の提案が君に受け入れられるかどうか、そしてそれを良しとするかしないか。それが大事な事だ。だから今から決めるんだよ」
    「はあ」
    「あ、それから持ってきた菓子は全部食べてくれていいぞ」
    そういえば、箱の中には苺タルトの他にプリンや柑橘の入ったゼリーもあった。
    「いいんですか?」
    嬉しさのあまり、前のめりになってしまう。
    「やはり、女性は甘味を前にすると笑顔になるな。妹達もそうだった」
    懐かしそうな顔を浮かべる彼を他所に、柑橘のゼリーに私は手をつけた。



    ◇◇◇

    あれから、彼女の行動が変わった。
    以前まで僕の話しを嬉しそうに聞く彼女が、かつての教え子と行動を共にするようになった。
    『気の迷い』という言葉をマスターに告げた翌日からではないだろうか。
    突きつけた言葉に臆したか、はたまた失望したかそれはどうあれ効果はあったようだ。
    人理を守るための旅路。未だ彼女の旅路は続く。だからこそ自分のような人間に現を抜かしてほしくはない。だがしかし、赤橙の髪をどうしても追いかけてしまう。
    僕の知らない特異点、異聞帯での出来事を聞くのはとても有意義だった。己の目で確かめないと気が済まない性分の僕なのだが、その場に居たいほどになることもあり、聞くだけでは物足りないほど。
    楽しいこともあっただろうが、辛いことも同時に経験しているだろう。それと同時に彼女への関心が湧いていたのだ。

    赤橙の髪を追いかけるように、紅梅の長い髪が靡くのを目にする。僕の知る彼の髪色では無い。本人曰く、染めたものらしい色。
    生前同様、誰かと話すより聞くより知識と見解を広めたい。そのはずなのだが、何故こんなにも手がつかないのだろう。
    気になってマスターに話しかければ断られることが多く、大体はマスターとしての責務。と同時に少し前に召喚された教え子の必要素材集めに勤しみ、僕と彼女が行動を共にすることが減った。
    あからさますぎないだろうか、それとも僕の何が嫌だったか。聞けずにいる。

    告白を受けてから数日。余りにも避けられるので話の場を設けたいと思いマスターへ話しかけた。だが。
    「マスター君、いいかい?」
    と僕の言葉を遮るように邪魔が入った。
    「晋作、何の用で?」
    「先生には関係ないじゃないですか」
    ぐいと彼女の肩を抱き、こちらを睨みつける。
    「ちょっ、高杉さん」
    と言いながら困った表情を見せ、やや抵抗する。だが剣術を免許皆伝になるほどの腕前の彼に歯が立たない様子だった。
    「いつものアレ、頼めるかい」
    「へ?え、あ、アレですか」
    彼女に何という顔をさせるのだろう。気まずそうな、恥ずかしそうな顔で彼女の肩を抱く男を見ているのを見せつけられる。まるで特別な間柄のように。
    「じゃあ、そういうことですんで。先生」
    そのままマスターを連れ去ってふらりとどこかへ行ってしまった。

    意味を含ませたような行動と言動。
    それを教え子に言われたことに腹がたったが、同時にひとつの感情が湧き上がる。
    何故彼なのか、何故僕ではないのか。


    ▢▢▢▢

    高杉さんと取り決めた作戦はこうだ。
    就寝、風呂、ブリーフィング以外は行動を彼と共にすること。
    「どうだい、単純だろ?」
    「そうですけど。これで松陰さんが何かしてくるとは思えないんですけど」
    聡明な彼がこんな単純なことに引っかかってくるとは思えない。
    「よく言うだろ。押してだめなら……って。あっちが本当にその気が無ければ気遣って話しかけても来ないだろう。もし君に気があるのなら僕らを睨みつけでもするはずさ」
    「本当ですかね……」

    実行に移してから数日間、視線が痛かった。
    視線の痛さに気づき振り向くと松陰さんが居る。だが、顔馴染みと話しているか本を読んでいるかのどちらかで、そちらは見ていませんという素振り。
    もし気があるとするなら、高杉さんの言葉通り睨みつけているのかもしれない。
    「僕と先生との付き合いはそれなりにある。痺れを切らしてそのうち話してくるだろ。その時僕が何度か邪魔立てして、みるのもいいかもな」
    「それって煽ってません?」
    実際一度高杉さんは、松陰さんへ対してそういったことをしている。その時の目が普段見る優しい目つきではなく、険しい目つきでこちらを見られた気がした。
    「そろそろ頃合だ。マスター君、今日は一人で行動するといい。僕は別件があるんでね」
    そう言われ、数日ぶりの一人行動となった。美人は三日で飽きると言うけれど、色男が隣に居るのは案外慣れるもの。暫く共にして、ひとつ気になるのなら何かと世話を焼くことか。彼本来の気質なのだろうが、兄妹ではないから世話をやくのは止めてほしかったが。

    さて、今日は何をしよう。高杉さんの欲する素材はもう集め終わったし、他のサーヴァント達に会いに行きたい。メイヴやクレオパトラ、女性サーヴァントと会話にお茶会、刑部姫やガネーシャに巴、ゲーム女子会もいいな。
    などと考え事をして廊下をフラフラとしていた。
    「マスター君」
    数日間聞いていない声。それにどきりとした。
    「は、はい!」
    驚いて声がひっくり返ってしまう。後ろを振り向くと、そろそろ来るであろう人物。
    「少し話をよろしいですか」
    瓶底の様な眼鏡越しに奥から怒りさえ見える気がした。それ故にここから今すぐ逃げたい。
    「今は、ちょっと」
    「待ちなさい」
    静止の言葉がかかる。
    「数日僕を避けては居ませんか」
    真っ直ぐに見つめて来るので下手に逸らせない。疑われてしまう可能性がある。
    「いいえ」
    「本当にそうですか?意図的に思えましたが」
    その言葉と共に腕を掴まれた。不味い、これでは逃げることも出来ない。
    「離してください」
    「そんなことをすればまた君は逃げてしまうでしょう」
    掴まれた腕が先程より強く締まっていく。振り切って逃げたいが男女の力の差がある。逃げれるはずもない。私はただ、彼の気持ちを知りたいだけ。それだけなのに。

    「何してるんです?先生」
    紅梅色の髪が靡く。本日は別行動だと言ったはず。何故ここにいるのだろう。
    「晋作、君には関係ない」
    「ありますよ。それより腕、離してあげたらどうです?」
    先程力が篭っていた手が嘘のように離れていく。それでも私を彼は強く見つめている。
    「今日は別行動じゃなかったんですか」
    と私が聞くと「そのつもりだったよ」と返事が返ってきた。
    ちらと高杉さんの目線が松陰さんへ移る。
    「なるほど。晋作が関わっていたと」
    「まあそういうことです。マスター君と作戦を練った上で実行させていただきました」

    先生、何か彼女に言い忘れていませんか。
    恩師を見据えて高杉さんはそう言った。
    「何のことでしょう」
    傍から聞いている私は気が気でない。一触即発の気配がする。
    「先生に言うつもりがないのならそれまでですが……。マスター君、言ってやれ。君の本心とやらを」
    そうだ、私、私は───

    「松陰さん、私をどう思っていますか?マスターとしてじゃなくて個人として」
    「個人、ですか」
    と言って私から視線を外し、高杉さんを見た。
    やはり彼を気にしているのか口は閉ざされたまま。
    見かねたのか高杉さんが口を開く。
    「僕は部外者ですからそろそろ消えますね。これ以上睨まれたくないので」
    上手くやるんだぞと私の肩を叩いて行ってしまった。

    ▢▢▢▢▢

    二人分の足音だけが廊下に反響する。
    個人としてどう思っているかを問いかけたはいいが、如何せん返事がない。呆れて返事すら返されないのかもと頭によぎる。

    「僕は」
    ふと彼は足を止めて私に話す。
    「僕は君への思いに無礼なことをしたと思っています」
    「無礼、ですか」
    「君へ話そうと思ったきっかけがあったんです。えっと、坂本君の伴侶の……」
    ああ、お竜さん。
    松陰さんはお竜さんに面識があったのだろうか。
    「彼女に厳しいことを言われてしまいまして」

    松陰さんは高杉さんより召喚されたのが後だった。古今東西の英霊は居るが、何せ顔見知りは少ない。
    カルデアに来たからには知識や知見を広げたい余り、図書室か自室に居るのみとなってしまった。そんな彼を見かねてか、高杉さんや坂本さんと話すようになったらしい。
    作戦実行中の期間だった私は高杉さんと行動を共にしていたので、必然的に坂本さんと他の面々と話すように。そんな時だった。
    どうしても気になって、私を見ていた時に一言お竜さんが松陰さんへ向けて言った。

    『お前、そんなに気にするなら言えばいいだろう?』
    その言葉に不意を突かれた松陰さんは、私に言った事を思わず、お竜さんれ零してしまった。そして続けざまに彼女はこうも言った。
    『馬鹿だろう。すごく大馬鹿者だ。思いの丈を言われたのに振ったなんざ、乙女心がまるで分かってないな。言え、言ってしまえ。お前がどう思ってるか』

    愛した人に尽くしてきた彼女の一言は、乙女心を無視した人に対して、かなりの一撃だったのかもしれない。

    「何度も牢獄に入っていましたが、その時にも心許す女性が一人居ました。ですが僕は彼女に思いを伝えず、何も残すことなく獄を出たことがあったのです。君のもとに召喚された今は獄に入ることも、君に反旗を翻すこともない。だからこそ、言わなければいけない」
    真っ直ぐに私を見つめてそう言った。群青色で綺羅星のような光を抱く目。私はそれに見つめられるのが弱い。
    不意に私を抱きしめて松陰さんは言った。

    「僕は、君を心から思っています」





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