依頼が無事に片付いた、とある週末。「たまには香さんも息抜きしましょうよ!」と、美樹ちゃんが飲みに誘ってきた。香は尻込みしていたが、せっかく誘ってくれたんだから行ってこいと、背中を押してやった。こんな仕事をしているせいで、香の人間関係は自然と裏の人間が多くなっちまう。当然、身を守るため、無闇矢鱈に飲み歩いたりはしない。それでもこんな風に誘ってくれる友人がいるのは、ありがたいことだ。
美樹ちゃんがついていてくれるため、そんなに遅くならんだろうと踏んでいたが、香は日付が変わろうとする頃になっても帰ってこなかった。当然、連絡はない。探しに行くかと支度を始めた矢先、ちょうど美樹ちゃんから連絡が入った。ゴールデン街のとある店にいるが、香が酔い潰れてしまったため、迎えに来てほしいとのことだった。俺はすぐに店へ向かった。
香は、カウンターに突っ伏して伸びてやがった。
「りょ……。ごめ……」
「……ったく。楽しかったのはわかるが、加減しろよな!」
足元が覚束ない香を背負って、俺は店を後にした。営業時間中のゴールデン街は、まだ煌々と店のネオンサインが灯っている。香の具合からすると、遠回りはしない方が良さそうだ。俺は家への最短距離を歩むべく、進みだした。
ほどなくして、だらりと垂れ下がっていた香の腕が、俺の首へぎゅっと強く巻き付いてきた。
「りょおの背中、あったかくてきもちいい……」
香の身体が密着すると同時に、その柔らかな胸が押し当てられる。否応なく、俺の素直な下半身に、じわじわと熱が集まりだした。
「おまぁ、誘ってんのか……?」
香は、そんなつもりは毛頭もないのだろう。だが、俺に都合よく解釈すると、どうしてもそうなっちまう。香からの明確な返事はなかった。背中にかかる体重が、少し重く感じる。どうやら香は寝ちまったようだ。
「おいおい……」
俺は大げさに、溜息をついた。この状況で寝るとか、ありえねぇし。それでも、首筋にかかる規則正しい寝息を感じていると、心のどこかでこの眠りを妨げてはいけないような気がしちまった。――そういや初めてこいつを背負った時にも、同じように思ったっけな。随分昔のことだ。
「いつまで経っても、手のかかるシュガーボーイだな……」
俺は軽く膝を伸ばし、香の身体を背負い直した。香はこのまま、本格的に寝ちまいそうだった。家に帰ったとして、前後不覚になった香と無理やりヤルのは、興醒めしちまう。反応のない香とのもっこりなど、つまらないに決まっている。どうやら俺は、このまま寝る羽目になりそうだ。お目覚めしたもっこりを宥め透かすには時間が掛かりそうだが、おまぁが目を覚ましたら、とことん付き合ってもらうとしよう。
了