大切な記憶を手繰り寄せて組み立てた、思い出の場所。
あの日唐突に奪われた日常。
家族と再び暮らすことを夢見て作った、大事な大事な新しい家。
この生活が始まって一年ほど経ったけれど、フィンが待っていると思うと、どこにいても愛しい我が家を思い出して、すぐに帰りたくなってしまう。
柔らかいオレンジの光が照らす室内、十年前に焼けて消えた実家と同じ、豪奢なシャンデリア。全て同じものは手に入らなかったけれど、家具もなるべく近いものを用意して、完璧に作り上げた僕達の家。
部屋の真ん中に置いた大きな椅子にいる、大切な大切な弟へ帰宅の挨拶を告げる。
「ただいま、フィン」
俯きがちの姿勢のまま、こちらを見ない瞳を覗き込む。翡翠のような翠緑両目、けれどそれはどこか濁ったように焦点があわず、何も写していないようだった。
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