東京に立った。
難しい楽譜に連なった16部音符のように人が流れている。
みんな何かに急いでるように足早に通り過ぎていくのを見て大は自分もゆっくりしてる暇はないんだと気合いを入れる。
新宿駅を抜けて街を歩く。歩く。歩く。
仙台より暖かいせいもあってまだ春なのに額には汗が浮かんだ。
東京には夢と希望がたくさんある。でも、同じ位人もたくさんいた。
東京は空気が悪いって聞いたから、多分疲れたのはそのせいだろう。
翌日、高校時代の友達の家に行った。作成通りのアポ無しだ。インターホンを鳴らすと安っぽいチャイムの後に慎重にドアが開き、警戒心でいっぱいの顔が覗いた。
大の顔を見るなり大層な警戒心も解けきり大層驚いてる友人に経緯を説明し数泊させてもらう事に成功する。
「まだ片付けてないからきたねぇぞ」
「なんもいいっちゃ。ありがとな玉田!」
玄関を跨ぐと、東京の悪い空気が薄れてよく知ってる玉田の匂いがした。ふと体が軽くなった気がする。
まだ段ボールが積み重なってる部屋をぐるっと見渡すと部屋の隅で空気清浄機が静かに作動していた。
なるほど、きっとこれのおかげで東京の悪い空気がなくなったんだ。
「ほー、良い部屋だな」
「良すぎて居着くなよ」
玉田が笑いながら悪態をつき、冷蔵庫からキンと冷えた麦茶をだしてくれた。
先程まで感じていた重だるい疲労がどんどん消えていく。
空気清浄機の機能はすごいな。そう思いながら大は冷えた麦茶をグッと一気に胃におさめた。