酔「ノクチュアおばさん……アン……。セバスチャン…」
手元が覚束ないせいで零れそうなほどゴブレットを傾けたオミニスが朦朧と呟いた。
「君ってやつはよく飽きもせずにここに居ない人間ばかり呼ぶね」
寝床に戻ろうと肩に手をかけると淡い虚のようなその瞳が揺れる。
「セバスチャン」
呂律の回らない声で呼びながらオミニスが痩せた腕を首に絡ませてきた。
「ここにいてくれ」
「呼んでたのは、今の僕じゃないだろ」
苦笑いしながら言うと、彼はほとんど回ってないだろう頭で少しだけ考えて、
「セバスチャンに会いたい」
と迷子の子供のように鼻を鳴らした。
「眠れば会えるよ」
「うん」
こちらに体重を預けて頷いたオミニスはすぐに寝息を立て始めたので、寝室に運び込む。こういう時だけは魔法使いで良かったと思う。ぐずぐずになった大人を運ぶなんてうんざりだ。
「おやすみ」
艶の衰えた金髪を撫でてやると、少しだけ安心したように彼の寝顔が和らいだので、部屋を後にする。寝室の扉をそっと閉じて、セバスチャンは呟いた。
「僕だって、たまには本当の君に会いたいよ」