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    sasara100

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    9/21忍FES.33の雑伊無配です。
    コンパで出会ったミスターコンの佐藤くんが《いさちゃん》の幻影を追っているお話

    #雑伊
    #忍fes.33

    佐藤くんといさちゃんとアングラ男【雑伊】俺の名前は佐藤。
    ◯◯大学医学部医学科に通う三年生。
    両親はそれぞれ外科と形成外科で働く医者であり、当然自分も両親と同じ道を歩むのだと信じて疑わず、小学生の時に書かされた将来の夢の欄にはいつも迷いのない筆跡で「いしゃ」と大きく書いていてなるべくしてここまできた男だ。

    その頃から成績も優秀でいつも学年で1、2を争うレベル、習い事のサッカーではエースナンバーを任され六年生ともなると可愛らしかった顔も精悍に整っていき、高学年の女子のほとんどが自分のことが好きだというカオスな事態に巻き込まれることも多々あった。
    学区内の自宅はちょっとした観光名所になっていて風邪でもひいて休もうものなら、届ける必要もないプリントを届けるのだと女子たちが教室内で大乱闘スマッシュブラザーズ(実写)になったほど。男子から羨むこと止むなしといった視線を多く浴びせられていた。

    その後も挫折することなく難関とされる医学部の入試を一発でクリア、三年生になった今年は学祭のミスターコンクールにもノミネートされるほど学内外での人気を集めて、その生活は順風満帆、無敵街道まっしぐら……。かと思われていたが、最近その表情は薄曇りで浮かないことが多かった。
    なぜそんな顔をしているのか、その理由は自分自身が一番よくわかっている。

    「佐藤ー、お前ゆなちゃんと別れたってまじ? 早くね?」
    「別に。向こうが付き合いたいって言ってきたから付き合ったけど正直好みじゃなかったし」
    「おまっ、あの子アイドルの練習生やってんだぞ!? 顔ちっちゃくて色白で目デカくて髪サラサラでめっちゃ可愛いだろうが!」
    「これからアイドルで有名になるんなら付き合ってる男がいるとか変に傷がつく前に別れた方がよかったろ」
    「……まぁそれはそうか。ただそれを傷って言うならああいう子は歴戦の猛者くらい傷負ってそうだけど」

    黒髪ロングのストレートの清楚系、キャンマジ5番ブラックで直径13.9mmに盛られた大きな瞳で上目遣いに覗き込んでくる彼女は確かに可愛らしい容姿だったが、とある飲み会で「この子俺のダチの元カノだわ」「俺の先輩とも付き合ってた」「バイト先のマネージャーと出来てた」などなどまるでマルチの被害者が如く過去の恋愛遍歴が露見し、さらにその中には現在進行形の関係のものまでありすっかり気持ちが冷めてしまったのだ。

    「俺はああいう子よりもうちょっと素朴な子の方が元々好きだよ」

    周りが羨むくらい顔の可愛い彼女ではあったが、その彼女と別れたことが今の憂愁を生んでいるのではない。
    自分に寄ってくる子と自分の理想の子との違いに終始顔を曇らせているのだ。

    両親が医者で金もある、自分も医大生で顔も頭も良いときたら寄ってくるのは派手なタイプだったり、先日別れたゆなちゃんのような清純さを装いつつ打算的で遊びなれた子だったり……能力の振り分けを全て知性より外見に振り分けた子が多かった。
    遊ぶだけならばそれで構わないだろうがハタチも超えて将来の見通しを立てたい歳になってくるともっと落ち着いた素朴で家庭的で気持ちが安らぐ、そんな子を求めたくなってくるわけで……。

    「そういやこの間うちの学祭に来てた大川大学の子との交流会ってどうなった?」
    「あれな! 向こうも人数集めてくれてるらしくてさ。お前も行くだろ?」
    「んん……でもあそこの大学の子も結構ガツガツしてそうだよなぁ〜」
    「わかんねぇよ? もしかしたらお前の好みの子を呼んでくれるかも知れねーじゃん」

    そう、最初は乗り気でもなかった交流会にまさかこんなにも運命的な出会いが待っているなんて思いもしなかった。

    先日まで付き合っていたゆなちゃんとは真逆、ふわふわとした茶色の癖っ毛に若干の猫目、健康的な肌色で気取らず朗らかに笑うのが印象的な彼女は一瞬でこちらの気持ちを攫っていった。

    「医学部だし、手は大事にしないとね」

    そう言ってこちらの手を取り絆創膏を貼ってくれた女の子、あの名門大川大学医学部に特待生で入学できるほど優秀なのにそれをひけらかすこともせず、慈愛に満ち溢れた彼女はまるで傷を負った兵士たちを見舞うナイチンゲール。
    この子と付き合えたら、いやゆくゆく結婚できたら、きっと成績優秀な子どもができて順風満帆な家庭を……しかしそんな願望は彼女と出会って二時間半後に打ち砕かれることとなった。

    「いさちゃんあの、その人は……」
    「あ、うん……その、彼氏」

    まさか彼氏持ちだったなんて。
    彼女に手を差し出した男は大企業に勤めているらしいかなり年上の男で、しかも見た目に関して言えば同期に貸してもらったアングラ漫画に出てくるような風貌で正当に金を稼いでいるとは思えない男だった。
    あの交流会が終わった後も優しいあの子のことだ、上手いこと言いくるめて騙されているのではないかと思って悶々とした日々を送るほど。

    そしてそんな折に自身の考えをじわりと確証に近づける話を聞いてしまったのだ。

    「なあ知ってる? この間コンパで会った《いさちゃん》なんだけど」

    それは彼女が大川大学の提携している施設で育ったらしいという噂だった。
    お金が無くて騙されて……と妄想したこともあるが、彼女だって医大生だ。高い入学金を払って入学できているならそこまで生活が困窮している家庭事情ではないはず、と思っていたのだが、そこに降って沸いた話に思わずカフェテラスの椅子を後ろに倒して立ち上がってしまった。
    いくら特待生で入学したからといって施設から出てしまえば自由なお金も制限されるいち学生だ。
    もしかしたら騙されているというよりも言いなりにならざるを得ない状況なのかもしれない。医者を目指す彼女の借金を肩代わりする代わりにあの男が好きなように言うことを聞かせて……無きにしも非ず。

    もしそうならば彼女のことを放っておくわけにはいかない。それが再び自分を立ち上がらせたきっかけだった。

    「待ってて、いさちゃん……!」

    *****

    「スマホはあの男に監視されてるかもしれないし(A:そもそも連絡先を交換してない)」
    「交流会だって何か理由があって脅されて参加させられたのかも(A:医学部女子に脅されて参加)」
    「直接会っていさちゃんの口から聞くのが早いか。この間のお礼もしなきゃいけないし(A:絆創膏一枚分)」

    大川大学の学祭は11月の末。文系学科ある一番大きなキャンパスで行われていて医学部は展示や学内案内がメインで他の学部に比べると例年活動的ではないらしい。
    なので彼らは主に自身・及び友人たちのサークルや部活動の出展を手伝うことが多いらしいのだが、大川大学はサークルの数が多く彼女がどこにいるかなど全くもって検討がつかなかった。

    「せめて仲のいい子の学部とか聞いておけばよかった……」

    広い構内を歩きつかれ一旦どこかで休憩をするかと地図をみると、一番近くにある国際交流館内のサークルが目に留まった。

    「えーっと、作法サークル? の和喫茶?」

    作法サークルとは一体どんな活動をするところなのだろうか。想像するに日本の伝統的な茶道華道をはじめとした礼儀ある習わしを学ぶ場所なのかもしれない。
    「(もし、いさちゃんがこのサークルの手伝いをしてたら和服とか着てたりするのかな……似合うだろうな)」

    作法サークルの和喫茶は国際交流館を入ってすぐの一階フロアの数店舗あるうちの一角にあった。
    外の屋台に比べていくつか簡易的なテーブルが置かれていたりする分休憩はしやすいだろうが、そのエリアに足を踏み入れた途端休憩だのなんだのという考えはどこかに吹っ飛んでしまった。

    「えっ……」

    茶色のふわふわの癖っ毛……あの時の三つ編みとは違いハーフアップに大きな赤いリボンをつけた彼女の姿、桃色の着物の上に重ねてるフリルのついた白のエプロンがその純真さを表しているようだ。
    連絡を入れたわけでもない、このたくさん並んでいる出店の中でここを選んだのも偶然、そうともなればこれはやはり運命と呼べる何かなのではないだろうか。

    「い、い、いさちゃんッ……」
    「えっ、え あ……佐藤くん」

    突然呼ばれて振り返った彼女も驚いて持っていたトレーを床に落としてしまうほどだ。
    うっかり声をかけてしまったが彼女から「誰だっけ」と言われなくてよかったと内心ホッとしたのは秘密にしておこう。

    「どうしてここに?」
    「あーえっと、その、友達の付き合いで」

    流石に連絡先もまだ聞いていない彼女に対して、君に会いたくてわざわざやってきましたと言うわけにもいかずありきたりな嘘をついて誤魔化す。

    「それよりいさちゃん、その格好は?」
    「ぼ……私も付き合いで。友達がサークルで和喫茶するから手伝えって」
    「すごい可愛いよ。いさちゃんって和服も似合うんだね」
    「えへへ、ありがとう。今は友達と別行動なんだ?」
    「あ、ああ、別の友達に会いに行くって言ったから別行動にしようって。喉が渇いたから休憩しようとしたんだけど……えっとこれ入って大丈夫なやつ?」

    そう尋ねたのは指差す先で何やら和喫茶のオーダーとは別の行列ができていたからだ。
    彼女から差し出されたメニューを見ると、オーソドックスなドリンクメニューに加えてお手製ハーブティーなるものも目を引いたがそれよりも注目すべきは、よく地下アイドルやコンカフェ界隈で見るラインナップの文字だろう。

    「チェキ?」
    「2ショットとピン写と、あとはセットメニューだと全部ついてきてお得になるみたい」
    「へー……いさちゃん可愛いし人気なんじゃない?」
    「ううん、私は時々呼ばれるくらい。私より私の友達が人気で……」

    視線の先にはひっきりなしに押し寄せる客とツーショットを撮る黒髪ストレートの美人の姿があった。クールビューティーで女子からも男子からも好かれそうな彼女がこういう状況になるからといさちゃんに接客をお願いしたのかもしれない。
    「(確かに美人だけど俺はあの子より……)」
    席についてチラリと視線を上げると彼女は自分には縁がないとばかりにメニューを差し出してハーブティーの説明をしてくれた。
    それはまるで最初に出会った日、隣同士に座った自分たちが一緒にドリンクを決めた夜の光景でついしんみりとしてしまう。

    「ハーブティーのブレンドはいさちゃんがしてるの?」
    「そう! だから色んな人に飲んでもらいたくて。佐藤くんはこの頃身体で不調なところとかない?」
    「不調なところ? あー……最近寝不足なことは多いかな?」
    「ならこの間沖縄から仕入れたクワンソウのお茶がいいかな。ちょっと準備してくるから待ってて!」

    彼女が持ってきてくれたお茶は黄金色で爽やかな香りの立つもので、恐る恐る口に含んでみるとほんのりとした甘みがあって飲みやすいお茶だった。
    ただ向こうの席では胃腸にいいからとセンブリ茶を飲まされた客が呻き声をあげているので、これはハーブティーというより薬草茶と呼ぶべきではないかと思わなくない。
    彼女の用意してくれたお茶は確かにリラックス効果があり気持ちが安らぐが、お茶よりも《彼女がそばにいる》という事実に気持ちが安らぐのだ。
    そんな彼女が辛い目に遭っているのなら自分はそれを救ってあげたいとお茶を置いて彼女の手を取った。

    「佐藤くん……? どうしたの?」
    「いさちゃん、俺聞いちゃったんだ……。君の生い立ちというか育った環境について」
    「施設のこと? 隠してるわけじゃないんだけどそんな大したことじゃ……」
    「君はもしかして生い立ちが原因であの男に頼らざるを得なくなってるんじゃないか!?」
    「え、え? なんのこと? あの男ってもしかして雑渡さんのこと?」
    「あの男が勤めているのは実は年利1000越えの違法金融会社のフロント企業で」
    「完全に見た目に引っ張られてる……」
    「君は両親の残した借金返すためにあの男の言いなりに、施設の子達を巻き込まないように一人犠牲になってあの男に付き従っている」
    「佐藤くん文系の才能もあるかも」
    「今日ここで働いているのも友達の手伝いって言いつつ風俗で働けるか試されてるんじゃ……!」
    「もしかして最近闇金ウシ◯マくん読んだ?」
    「もしも君が金銭面を理由に無理やりあの男に付き合わされてるのなら……俺は君の力になるから」

    両親は医者、自分も医者になる予定、金なら今後も心配することはない。
    彼女の借金がいくら残っているかわからないが二人で手を合わせればきっといくらだって……! そう決意して彼女の手をより一層強く握った時だった。

    モーセの十戒が如く人波を割って入ってきた黒スーツの集団が国際交流館の一階の自動ドアを抜けてそのまま和喫茶の方へとやってきた。
    見覚えのあるその背格好に自分よりも動揺していたのは目の前の彼女の方だ。どうやらこの来訪は彼女にとってもイレギュラーだったらしい。

    「ええええ なんで来たんですか」
    「そりゃ来るでしょ、可愛いいさちゃん見たいじゃない」

    口振自体は揶揄っているようだがその目つきは剣呑に握ったままだった手を睨んでいるので思わずその圧に怯んで手を離してしまう。
    どうやら彼の周りの人間は部下らしく、やけに目つきが鋭いものだったり逆に目元がわからないものだったり、よくここまで警備員に止められずに入って来れたなとその場にいる全員が思っただろう。
    先程まで撮影会で引っ張りだこだった彼女の友達もこの謎のスーツ集団のことは見過ごすわけにはいかなかったらしく、綺麗な黒髪を靡かせながらその仰々しい姿に苦言を呈す。

    「こちらは風営法に則ってやっていますよ。おたくの島は荒らしてないですから」
    「ははは面白いねぇ〜。そうだな、こっちとしては《嬢の引き抜き》にやってきたってところかな」

    彼女の肩を引き寄せるとその手に握られていたメニュー表を奪い取って《チェキ》の文字に目を留めた。

    「チェキ?」
    「ピン写のものはあの壁に貼り出されてるものから選んでもらうシステムです。ツーショットはそこの衝立の前で順番に撮っていきます」
    「ふぅん、ちなみにいさちゃんのピン写チェキは何枚あるの? チェキのフィルム在庫あと何枚?」

    間違いなく枯らそうとしてる。
    自分と以外ツーショットなんて撮らないでとお願いするでもなく元から根絶やしにするつもりだ。おとなげなく大人の力を存分に使おうとしている男に対して彼女はひとつ息をついてから苦笑いをする。

    「私のチェキなんてもらっても楽しくないですよ」
    「楽しいよ。こういうのって飾ったりするんでしょ? 残ってる30枚全部買って奥の部屋の壁にたくさん飾ろう」
    「あそこ客間ですよね お客さんいらっしゃった時に私のチェキが四方八方に飾られてるのちょっとした儀式ですって!」
    「じゃあわたしの書斎に飾ろうか」
    「それはそれで事件の香りがする気が……」
    「仕方ない……じゃあ会社に」
    「「「絶対やめて」」」

    彼女と男の部下の声が見事にシンクロする。どうやら彼らとも交流があるらしく「いつもすみません」「いえこちらこそ」とお互い保護者のような会話をしているのにどこか嬉しそうに髪を揺らして微笑む彼女の姿が印象的だった。そこからは脅されてるだとか騙されているという雰囲気は一切感じられない。

    「(結局のところ、彼女の恋人が悪いやつだったらいいのにって思っていたかっただけなんだよな)」
    「(遠慮なく嫌いになれる理由があればよかったのに)」
    「(彼女を知ろうとすればするほど思い知らされるだけだ)」

    順風満帆を生きてきた人生は結局周りに流されて生きてきただけだった。だからここまできて自分の状況や感情を捻じ曲げる方法を知らないのだ。
    そんなこちらの状況を知ってか知らずか、渦中の男は周りのお小言をすり抜けてこちらに近づいてきたかと思うと、ヌッとその長身を軽く曲げて顔を覗き込み何が面白いのか愉快そうに目のふちを半月型に歪める。

    「もしかして佐藤くんもいさちゃんのチェキが欲しい?」
    「は……?」
    「あぁでも欲しいのはチェキじゃなくてあっちかな?」

    そういって目配せした先には友人と笑い合う彼女の姿があった。
    相手が試すような口ぶりで言ってきているのもわかってる。それがこちらに向けての挑発だってことも。
    それにわざと乗っかりながら、ごくりと唾を飲み込んで大きく息を吐くようにしなだれそうだった胸を張る。

    「こちらが《欲しい》って言って、あなたが簡単に《どうぞ》っていうような男なら、こっちだって奪い取るために戦いますよ」

    目の前の男はふふっと笑うと君がもっと自分にあぐらをかいてくれてる男だったらなぁとつぶやいて、さらにひと言「それでもごめんね」とわかりきったような詫びをこぼす。

    「あいにく、こっちも写真の一枚すら《どうぞ》って言えない男でね」

    男がひらりと指に挟まれた絆創膏を見せつけてきて、慌ててポケットの中を確認する。今日彼女に返そうとしていたそれをいつの間に。

    「これはわたしから返しておくよ」
    「もらうのもあげるのもだめってか……」

    力無く椅子に腰をかけて可愛いあの子が淹れてくれた薬草茶をひと口含む。ぬるくなったクワンソウ茶はほんのり甘かったはずなのに、いつの間にやらセンブリほど苦くなっていた。
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