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    8kawa_8

    @8kawa_8

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    オズレノです。クリスマスイベ始まる前からテンションが最高潮で、いいのか、こんな、わたしに、都合の良いことが……?!ってしています。注意事項参照の上読むことを決めてください。

    #オズレノ

    【オズレノ】歩くよりも、ゆるやかに※注意※

    5年目クリスマス(叶わぬ吹雪に願いを灯して)ガチャSRオズ様のホーム台詞を題材にしたものです。

    オズ様を引く予定があってネタバレを避けたい方へ。
    是非引いてオズ様をホーム画面に置いて台詞を確認してから作品を楽しんでいただければと思います。


    *******


     暖炉の火。早朝の細氷。それから十数年前から変わらないままの、愛しいあの子の屈託ない笑み。
     魔力と共に心が摩耗した時、オズが無意識に求めるのは不変のもたらす安堵であった。とはいえ氷漬けにするでもして、時間を奪い去ったあとのものを欲しているわけでもない。不規則に、目まぐるしい変化をひとときも絶やさずに繰り返し続けているそれを、果たして不変と評して良いのか。きっと意見が分かれるところであるのだろう。
    「オズ様、もしかしてお疲れでしたか?」
    「……いや、大事ない」
    「そうですか。それでは、俺の気のせいだったかもしれませんね」
     乾杯と、お互いのグラスから小さな音を立てた後。ようやく交わされた会話らしい会話が、それだった。
     暖炉の火がぱちぱちと弾け、吹雪が窓をびゅうびゅうと叩きつけ、屋根に積もった雪がぼとぼとと、次から次へと落ちていく。そうした音こそが、オズが長年身を置き続けた世界そのものだ。
     ところがこの魔法舎では、子どもたちの無邪気な声が、大人たちの羽目を外した言動が、絶えることなく響いている。
     それを聞いていると、静かな世界から連れ出され、急に嵐の中に投げ込まれたような気分になると告げた時。目の前の男は眼鏡越しの瞳を丸くして『嵐の中という表現は、どちらかといえば、元々オズ様の住まわれていた環境の方が適しているかと思います』などと口にした。
    『俺がオズ様の居城を訪ねたならば、きっとその吹雪に慣れるまでは心がざわつくかと思いますし。これまで気にしていなかった人々の喧騒を、きっと恋しく思うことでしょう』
     そうとも続けた彼の言葉は、オズの知る世界の形をほんの少しだけ捻じ曲げる。
     世界で最も強い魔法を操るということは、この世界を誰よりも深く知り尽くすことと類似している。オズにとっての静寂が、レノックスにとっての喧騒で。オズにとっての喧囂は、レノックスにとっての閑静だ。そう知り得た時に、とても不思議な気持ちをオズは抱いた。これだけ対極の存在であっても、レノックスの身はオズにとって、同じ沈黙を共有できる、同士のような親近感を湧かせるものであったから。
    「……そうだ、この間は中央の国の市場に、ミチルやリケと一緒に行ったんです」
     レノックスの唇が、言葉を紡ぐ。
     人は、彼を〝寡黙だ〟と称するし。彼もまた、自身を〝口下手だ〟などと評価する。しかしオズの基準からすれば、レノックスは十分にお喋りな性格をしていたし、その語り方に長けていた。
    「雑貨屋で二人と別れてから、俺も店内を見て回りました。そうしたら、ちょっと思いがけないものがブローチになっていて……」
     言葉数は、オズの知る中央や南の国の子どもたちよりずっと少ない。しかし彼らと同じように、人の心に寄り添い、励まし、勇気づける力が。他者がそれに耳を傾け、信頼を向けても良いと思えるだけの魅力が、レノックスの言葉にも確かにあるのだ。
    「思わず、愛着がわいて買ってしまったら。ミチルとリケも同じものを見つけたようで、日頃の礼だと言われて、プレゼントされてしまったんです。だから今、同じものが、ふたつもあります」
     雨垂れのような速さで、オズに話しかける者が多い世界で。レノックスはいつも、水がめの中の水のようにオズの傍に寄り添い続ける。聞こえていなかったことを、咎めはしない。呆れもしない。だからと二度三度と同じ話をするわけでもない。語りたいことをゆっくりと語り、問われたならば丁寧に返す。その距離感は、オズにとって心地の良いものだった。
    「……似ている」
     の、かもしれない。
     そんな予感が無意識にオズの唇から零れ落ちた。他者との対話を必要とせぬままに千年以上もの時を過ごした魔法使いの、稀有な独り言である。
    「そうでしょう、本当に良く似ていると俺も思いますし。職人たちの観察眼や、技術力がよく分かって、好きです。……オズ様も気に召したのなら、どうぞ、こちらを俺から贈らせてください。先ほども言った通り、俺にはミチルたちから受け取ったものがありますから」
     オズが我に返った時には。すでにレノックスの手が伸ばされて、オズの襟元に触れている最中であった。たどたどしいわけではないが、彼は時に魔法よりも俊敏な動きを見せるとオズはよく知っていたので。ゆっくりとした動きが、逆に見慣れないものに感じてしまう。
     きっとお互いに酔っているのだろう。そうでなければ、レノックスはこれほどまでにオズと距離を詰めなかっただろうし。オズもまた、レノックスの伸ばされた手を受け入れようとはしなかったはずだ。
    「これで良し、と。どうでしょう、オズ様」
     満足気に、レノックスが微笑んだ。さきほどまで彼の手が触れていた場所に光るのは、銀細工のブローチだ。華美さこそはないが、シンプルな造りで植物の蔦と――その中心に、羊の姿が描かれている。モチーフは一般的なものではなく、レノックスが普段から連れている羊たちだ。丸々とした愛らしい姿をしているので、魔法で小さくしたものを描いたに違いない。
    「……私は」
    「はい」
    「何故、これを。おまえから贈られた……?」
    「え」
     ずっと見ていたじゃないですか、と。レノックスは瞬きを繰り返しながら、オズに申し出た。その視線の、興味の向かう先が、どうやらレノックスには羊のブローチに見えていたらしい。
    「……オズ様、やはり、お疲れなのでは?」
    「おまえが気を配る必要はない」
     時折、こうして相手を気遣おうとする姿も。北の国の矜持を思えば噴出しても可笑しくはない苛立ちや煩わしさよりも、心地良さが勝るのだから不思議だ。その理由を紐解こうとして、オズは再び思考に耽る。
     何に、似ていると感じたのだろうか。
     それは暖炉の火であったり。早朝の細氷であったり。
     思い浮かぶのはどれだって、常に時間と共に姿形を変えながらも、本質を変えずにそこに在り続ける風景たちだ。レノックスという存在は、彼のもたらす時間や空気は、そうしたものたちに心地良さがよく似ている。そんな予感を抱いてしまう。
    「でも、もう上の空ですし。時間は早いですが、次の一杯でお開きにしましょう」
     レノックスの声は、北の国の吹雪と同じだ。
     聞こえているし、存在の認知もしている。そして、いっそ落ち着くくらいの心地良さを抱かせるというのに。その音が当たり前のように馴染みすぎて、逆に耳に入らない。それは彼の声がオズの日常に溶け込んだ証拠の、一欠けらになることだろう。
    「……気に入った」
     口元に笑みを携えたオズを見て、レノックスは苦笑する。
    「それは何よりですが。本当に、次の一杯で終わりにしますよ」
     おおよそ、オズの零した感想が数拍前のブローチに対するものだと思っているのだろう。誤解を解けるだけの話術は、オズの持たないものであったし。誤解をわざわざ解こうという努力をする気にもなれなかった。体の内側からむずむずと痒くなるような、ベリーのタルトでも食したような、甘酸っぱいなにかが身体にまとわりつくような予感がして。それは避けたいと、彼の本能が小さく囁き続けていた。


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