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    8kawa_8

    @8kawa_8

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    8kawa_8

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    ブラレノです。二人で酒飲んで愉快に二次会(概念)に行く話です。5周年読みました? ありがとうございました。

    #ブラレノ
    braleno

    【ブラレノ】たまにはこんな夜も! あ、と。その一言を発したのは果たしてどちらが先だっただろうか。
     ひっくり返したボトルから、ぽたんと。ひとつの雫が落ちていく。グラスに琥珀色の波が広がって、それ以上増幅することなく消えていった。
    「終わっちまったな」
    「終わってしまった」
     感嘆詞と同じ、喪失の寂しさを乗せたような落胆の声をお互いに口にして。ブラッドリーとレノックスは、相手の赤色の瞳を覗き込み合う。何を考えて、何を望んでいるのか。酒に酔って、しかし酔い切れなくて、愉しさと物足りなさとが綯交ぜになったそれらを感じ取りながら、先に言葉を発したのはレノックスの方である。
    「他に酒はあるのか?」
     ふっと、ブラッドリーのロゼ色の瞳が細められた。白い頬には、その瞳と同じ色が化粧のようにわずかに混ざり、消さない勲章の傷跡も普段より存在感を強めている。「あるぜ」と答え、彼は大きく指を鳴らす。途端にふわりと浮き上がったのは、部屋に鎮座する宝飾品たちと並んで飾られたブラッドリーのお気に入りの美酒たちだ。
     そのまま彼らは卓上へと行儀よく並び、持ち主と客人とに丁寧に吟味され、選ばれしものが彼らの喉を潤し舌を愉しませる権利を得る――はずであったのだが。ブラッドリーの表情も、レノックスの表情も、どちらもいまいち浮き切らない。それらは間違いなく名品揃いで、希少価値も味だって申し分のないものだ。しかし強いていうならば、彼らの気分が乗らなかった。
    「これじゃねえよな」
    「ああ、なんというか……勿体ない気がする」
    「わかる、勿体ねぇよな、こんな夜にこの酒は」
     安酒がいい、というわけでもなかったが。希少な酒の味や物語をゆっくりと掻い摘みながら楽しむよりは、慣れ親しんだ酒を前に相手の話を肴にしたい。この場の主役は琥珀色の液体ではなくて、葡萄色に近かった。
     ただその色を有しているのは大人しくしている瓶ではなくて、血の通った、粗雑な一面もよく目立つ、目の前の男でいてほしい。そんな願望がお互いの間に眠っていることを、短い言葉のやりとりで確信しあった後のことだ。
     よし、と。その一言を発したのも一体どちらが先だっただろう。
    「やっぱ、同じ酒が飲みたいよな。スモーキーで、ガツンとくる、あのウイスキー」
    「ああ、全く同感だ」
    「これは西のパイプ飲みの持っていた、最後の酒瓶だったよな。ネロも同じ酒は持ってない」
    「あるとすればオズ様の部屋かもしれないが……それより南の国に行く方が確実だ」
    「だけど、箒で南まで悠々と飛び続けるのも怠いよな?」
     お互いに、頷き合う。
     ブラッドリーは、ソファに脱ぎ置いていた自身のコートを羽織って立ち上がる。一方でレノックスはというと、部屋の中に放していた羊を呼んで、その胸に優しく抱いた。
    「覚悟はできたか」
    「おう、おまえこそ」
     いくぞ、と。レノックスは短く言葉を吐き出した。
     そのままブラッドリーの腕を掴み、もう片手で羊を彼の顔面に近づけた。状況を把握しきれていない羊の無垢な瞳がブラッドリーと一瞬かちあって、そのままピントの合わない距離にまで接近する。「メェ」、と。僅かに暴れる素振りを見せたのは酒気のせいではないだろう。酒を理由にするならば、レノックスもとうに嫌われているはずだから。精々、ブラッドリーの日頃の行いといった線が濃厚だ。
    「は、は……ハクション!」
     ブラッシングされたばかりの柔らかい羊毛に擽られ、ブラッドリーの豪快なくしゃみが部屋にこだまする。それと同時に周囲の景色ががらりと変わり、一面の星空と、オーロラと、それらの感動を一蹴するかのように突き刺さる強烈な冷気とが現れた。険しい自然の土地は南の国にもあるが、そうと楽観するには北の国の精霊たちの鋭い気配があまりにも邪魔だ。
    「南と北って、真逆じゃないか」
    「うるせぇ、俺様だって好きにコントロールできねぇんだよ、数打ちゃ当たるだ」
    「狙撃手なのに、その発言はどうかと思う……」
    「本当にうるせぇ、置いていくぞ」
     それは困るし、意地でも掴まる。そう言うや否や、レノックスはもう一度ブラッドリーの鼻先へと羊の身体を近づけた。
    「馬鹿、急すぎんだろ!」
    「寒かったから……」
     二度目のくしゃみは、魔法舎の近くへ。平生であれば喜ぶはずの結果であったが、今回ばかりは不服そうにブラッドリーは口元を歪ませる。三度目、四度目……。繰り返しながら、二人の軽口は弾んでいく。
    「ところで、南の国にはこんな時間までやっている酒場があんのか?」
    「ない」
    「ないのかよ! じゃああれか、おまえの家に酒があるとか?」
    「それもない」
    「ないのかよ! なら、南の国に着いたところで骨折り損じゃねぇか」
    「だけど、今の時間でも確実に酒を手に入れる方法なら知っている」
    「自信満々じゃ、ねぇ、か、は……ッ、クシュン! ……聞かせろよ兄弟」
     七回目のくしゃみだった。ブラッドリーにとっては、おもわず脱力してしまうような、どうにも気分や気迫の削がれるような。レノックスにとってはすっかり慣れ親しんだ、癒しともとれるような、精霊たちの気配がする。
     レノックスは羊を鞄の定位置に置くと、代わりに箒を取り出してゆっくりと空へと飛び立っていく。真っ暗な空の下、雄大な景色を見下ろして。指さしたのは、とある一つの湖だ。
    「あそこの、湖に面した大きな建物にある」
     ブラッドリーもまたレノックスに倣い、箒と共に空を飛ぶ。そして彼の指の先を確認し、瞳を細めて目を凝らした。
    「他の家よりでかいな、何かの施設か?」
    「フィガロ先生の診療所だ。鍵なら、急患の対応もあって常時開いている」
     ブラッドリーは思わず目を丸め、大きく笑った。
    「そりゃあいい、フィガロの酒を盗もうって魂胆か! てめえ、盗賊の才があるんじゃないか?」
    「盗賊にはならない。だが、この前、フィガロ先生に『どうせ飲まないだろう』と俺の酒を勝手に持って行かれたから……。どうせ、ミチルに見つからないように隠している酒だ。彼だって飲まないだろうから、お相子様だ」
    「折角の酒も、飲まないものなら価値がない。俺様たちが有用に扱って、価値を与えてやらないとな」
     口が上手いと、レノックスが笑う。口数そのものが少ないだけで、おまえも同じだとブラッドリーも微笑んだ。
    「しかし、このあとに魔法舎に帰るのも億劫だな……」
    「なら俺の家……は遠いな。昔使っていた山小屋の方が近いから、そこで呑み直そう」
    「中央の兄ちゃんや東の小さいのに悪いな」
    「はは。たまにはこんな日があってもいい」
     たまにはな、と。ブラッドリーも同意するように言葉を零した。
    「あ、でも……」
     レノックスが何かを思い出したかのように、すこしばつが悪そうに口を開いていく。
    「明日、ミチルに叱られるだろうから。そこまでは一緒にいてくれ」
    「嫌だよ、ガキの説教を一緒に受けるなんざ」
    「母親に似たのか、本気で怒ると口調が結構キツくなるんだ。心が折れる、一人じゃ心細い」
    「尚更嫌だよ、チレッタ譲りだなんて御免だ!」
     毎日、とするにはこの時間は騒がしすぎる。物静かな空気の方を、平生であれば好む二人だ。自分たちでも信じられないくらいに口数多く、分かりやすく酔いに溺れる日が多くなれば多くなるほどに、この関係も煩わしく感じる日が近くなるだろう。
     だからたまにで十分だと、ブラッドリーもレノックスも、もう一度顔を突き合わせて。大きく口を開いて、南の夜空の下で笑い合った。




    (たまにはこんな夜も!)


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    8kawa_8

    DONEブラレノです。二人で酒飲んで愉快に二次会(概念)に行く話です。5周年読みました? ありがとうございました。
    【ブラレノ】たまにはこんな夜も! あ、と。その一言を発したのは果たしてどちらが先だっただろうか。
     ひっくり返したボトルから、ぽたんと。ひとつの雫が落ちていく。グラスに琥珀色の波が広がって、それ以上増幅することなく消えていった。
    「終わっちまったな」
    「終わってしまった」
     感嘆詞と同じ、喪失の寂しさを乗せたような落胆の声をお互いに口にして。ブラッドリーとレノックスは、相手の赤色の瞳を覗き込み合う。何を考えて、何を望んでいるのか。酒に酔って、しかし酔い切れなくて、愉しさと物足りなさとが綯交ぜになったそれらを感じ取りながら、先に言葉を発したのはレノックスの方である。
    「他に酒はあるのか?」
     ふっと、ブラッドリーのロゼ色の瞳が細められた。白い頬には、その瞳と同じ色が化粧のようにわずかに混ざり、消さない勲章の傷跡も普段より存在感を強めている。「あるぜ」と答え、彼は大きく指を鳴らす。途端にふわりと浮き上がったのは、部屋に鎮座する宝飾品たちと並んで飾られたブラッドリーのお気に入りの美酒たちだ。
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    8kawa_8

    DONEブラレノです。
    マーキングされるブラレノというお題でしたが、多分お題をくださった方の意図していない男にマーキングをされています。すみません。筆が乗ってしまった。
    NTRを書こうと意気込んだわけではないのですが、略奪的なテーマが含まれている不思議な話になっちゃいました。
    【朗報!】ボスが羊飼いを口説き落とすのに成功してお付き合いしてる世界線
    【ブラレノ】残滓は捨てて、飲み干した げぇ、と。言葉を口にしたわけではなかったが。きっとその表情に台詞を当てるとなったら、そんな音が適切だろう。
     眉間に皺を寄せて、如何にも不快感を露わにしたブラッドリーを至近距離で見つめながら。そんなに嫌だっただろうかと、レノックスは問いかける。その問いかけにブラッドリーの眉間の皺はますます深まり、「おまえ、本気でそれを言ってるのかよ……」とかぶりを振った。
     単刀直入に言うならば。レノックスから、フィガロの魔力の気配がしたのだ。


     フィガロといえば、現在は南という厚すぎる皮を被っている、北の国の魔法使いだ。ブラッドリーよりも千年以上もの長い時を悠に生きる魔法使いで、多くの北の魔法使いにとってはオズや双子に並んでの天敵ともいえる。単純な魔力の強さを測ればオズほどに圧倒的なものを持っているわけでもないので、たとえばミスラを味方につけたブラッドリーであれば勝機は見えるのかもしれない。しかし実際にはミスラを手玉に取って意のままに操りながら、フィガロの智謀の裏を掻く必要があるわけなので、その勝利の仮定はあまりに現実的なものではなかったのだ。
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    8kawa_8

    DONEブラレノです。二人で酒飲んで愉快に二次会(概念)に行く話です。5周年読みました? ありがとうございました。
    【ブラレノ】たまにはこんな夜も! あ、と。その一言を発したのは果たしてどちらが先だっただろうか。
     ひっくり返したボトルから、ぽたんと。ひとつの雫が落ちていく。グラスに琥珀色の波が広がって、それ以上増幅することなく消えていった。
    「終わっちまったな」
    「終わってしまった」
     感嘆詞と同じ、喪失の寂しさを乗せたような落胆の声をお互いに口にして。ブラッドリーとレノックスは、相手の赤色の瞳を覗き込み合う。何を考えて、何を望んでいるのか。酒に酔って、しかし酔い切れなくて、愉しさと物足りなさとが綯交ぜになったそれらを感じ取りながら、先に言葉を発したのはレノックスの方である。
    「他に酒はあるのか?」
     ふっと、ブラッドリーのロゼ色の瞳が細められた。白い頬には、その瞳と同じ色が化粧のようにわずかに混ざり、消さない勲章の傷跡も普段より存在感を強めている。「あるぜ」と答え、彼は大きく指を鳴らす。途端にふわりと浮き上がったのは、部屋に鎮座する宝飾品たちと並んで飾られたブラッドリーのお気に入りの美酒たちだ。
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