Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    8kawa_8

    @8kawa_8

    🐏飼いさんを右に置く人間です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💚 🐏 💪 🌋
    POIPOI 27

    8kawa_8

    ☆quiet follow

    ミスレノです。ミスレノかな(自信喪失)
    ミスレノ好きなお友だちのお誕生日お祝いです、短めです。

    #ミスレノ
    misreno

    【ミスレノ】信じられないものをみた。 東の国の北部にある、国境付近の森。ここは獰猛な獣と魔法生物が多く生息する土地であって、弱い魔法使いの鍛錬にうってつけの場でもあった。ルチルを連れてきた時はその非力さに命の危機さえ感じて鍛錬どころではなくなったが、シノの場合は意気揚々と魔物たちと対峙して、良い経験を詰めたと本人も手ごたえを感じた様子でミスラに感謝を述べていたことが記憶に新しい。
     だから同じように鍛錬が好きで、かつミスラにとっては強くなってもらう必要のある魔法使い――つまりはフローレス兄弟の保護者役をしているレノックスだ――をこの森に連れてこようと考えたのは、ミスラの抱える事情を汲めば自然な流れであったし。そうして森に投げ込まれた男が、人間の気配を嗅ぎつけた獣たちから身を守るために戦う姿勢を見せることも、当然のことではあったけれども。
    「あなたって、本当に魔法使いなんですよね?」
     ミスラが空間の扉を繋げて男を迎えに行った時、ミスラはその光景に絶句したのだった。なにせその森の一角が、いつの間にやら立派な野営地へと変わり果ててしまっていたから。
     焚き火へ呑気に薪をくべながら、レノックスはミスラの姿を見つけると「戻って来たのか」と微笑みかける。火の傍では串に刺さった川魚が数匹、じっくりと遠火で焼かれていた。光景がただのキャンプそのものであったからこそ、彼の足元に転がる動物の死骸とマナ石がなければ、ミスラは自分が何のためにこの場所を訪ねたのかを忘れてしまっていたことだろう。
    「おまえがいつ迎えに来てくれるか分からなかったから、それまでの間に野営の準備をしたんだ」
     レノックスの心配は尤もだ。他に関心を向ける出来事に遭遇してしまったら、ミスラは森に残した男のことを忘れたことだろう。だからと本人が、それを懸命な判断だとして賞賛することはなくて、「そうでしたか」と返すだけに留まってしまったが。
     ひとまずは生存していたことへの祝福と、それなりの数の野生動物たちを相手にしたことへの労いも込めた拍手を送った後。
    「少しは魔法の使い方にも慣れました?」
     とミスラは疑問を口にする。レノックスはその問いに、呆気にとられたような瞬きを繰り返して。「あ」とだけ口にした。
     よく見れば、彼の足元には棍棒状の長物が置かれている。動物の死骸とマナ石の間には、何本も、何本も、折れた木の枝が横たわっていて。更にはこの短期間で白骨化するわけもないというのに、動物の脚の骨だろうか、長いそれが木の枝と同じような姿で混ざっていた。
     レノックスのその反応と、日頃の言動。そしてこの状況。誰の目から見ても、明らかな事実がそこにある。
     この男は、魔法を使わずに獣たちの群れと対峙をしていたのだ。
    「まったく、信じられませんよ」
     落ちていたマナ石を選定し、その辺の石ころとそう変わりない輝きのものはエレベーター用の動力源としてレノックスに渡す。輝きがいくらか強いものは、腹にも魔力にも大した足しにはならないだろうけれども、ミスラが喰らうことにした。レノックスが石を食べることを、拒絶したためだ。
     口の中に放り込んだマナ石からは、錆の味がする。それが何だかミスラにとっては新鮮な心地がした。ミスラが口にするマナ石は、消し炭のような香ばしさであったり。氷菓子のような冷たさであったりが伴うことが大半であったからだろう。
     その普段と違うマナ石をミスラが喰らう一方でレノックスはというと、折角焼き始めた魚を回収するのももったいないからと、本格的に自炊の用意を進めていた。焼き魚だけでなく、その傍に吊るされた飯盒には汁物が用意されているらしい。容器と水は、普段から鞄の中に常備されているものだったが。その具材は急ごしらえの釣り竿で釣った魚と同じで、周辺の草木の中から栄養価に優れているもの、毒の心配がないものを中心に選んで摘んでいったようだ。
    「慣れるまでは、当たることもあったんだが。最近は美味いか美味くないかの二択で悩むくらいで、当たることはなくなったな……」
    「で、これは美味いんですか?」
    「……栄養価と食感は、それなりに良いと思う」
    「ふぅん」
     どれ、と。ミスラの興味が、レノックスの作った汁物に向けられた。飯盒の蓋を魔法で開けると、そのまま一口。豪快に口内へと放り込む。
    「ああ、たしかに。なかなか歯ごたえがいいですね、これ」
    「み、ミスラ……」
    「はい、なんですか」
     その光景にレノックスが目を見開いて、驚愕の眼差しを向けていた。
     ミスラが小首をかしげると、レノックスは言葉に迷ったように暫く動きを止めてから。「……火傷は、していないか」と問いかける。まるでそれしか言葉が出てこないとでも言いたげな表情であった。
    「するわけないじゃないですか、こんな生温い温度で」
    「そうか……なら、一応は良かった」
    「それより、この料理気に入りましたよ。今度魔法舎でも作ってくださいよ」
    「それは……すまないが、難しいな」
    「どうして?」
     どうしてって、と。レノックスは説明に困ったように、目を逸らした。
    「おまえが食べているものは……料理じゃなくて、飯盒の蓋だから……」
     ミスラの手と口元が、黒い煤で汚れている。バリ、ゴリ、ととても食料を口にしているとは思えない音を聞きながら、レノックスは目の前の光景から得られる情報を必死に脳裏で処理していた。
     ひとまず、ほとぼりが冷めたら。この男が口にしている用品を買い足しておくべきであったし。その時は予備の存在も検討すべきであるのだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯☺👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works