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    fumidesuga313

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    6/15星願の原稿進捗。
    尻叩き用に随時更新予定(予定は未定)

    #洋三
    theOcean

    洋三  飲み屋で仲良くなったおっちゃんがたまたま母校の用務員だったもんでそれはそれは話が盛り上がって、それからというものなんだかんだと飲み仲間になって定期的に酒を酌み交わす仲になった。
     話す事なんてなんでも良くって安い酒と美味いツマミ時々仕事の話なんかしたりして歳は結構離れてるけど割とウマが合った。
     おっちゃんをずっとおっちゃんって呼んでたから3回目か4回目に一緒に呑んだ時に初めて名前が田中だって知った。
    『ようちゃん、結婚は?』
    『いい男なのに勿体ない』
    『うちの娘なんてどお?まだ高校生だけど』
     おっちゃん、俺もう三十路過ぎだよ。高校生は流石に犯罪だわ~なんて、酔っ払うと何回も同じ話して、またそれも面白いから笑いながら呑んで、おっちゃんとの酒の席は飽きなくって良い。
     人好きするような穏やかな笑顔と優しい声色。父親を何となくしか覚えてない俺からしたら親父ってこんな感じなのかもな、なんてちょっとセンチメンタルな気持ちになっちゃったりして。
     そんなおっちゃんが足を骨折して松葉杖で現れた時は流石に俺も『呑んでねぇで家で寝てろよ!』と言わずには居られなかったが、用務員の仕事で学校の草刈り作業があるのに仕事が出来ないと珍しく落ち込んでるおっちゃんを見て普段だったら全然姿も表さない俺の親切心がひょっこりと顔を出した。
     話を聞けば1日の作業で終わる程度だったし、まぁ代打でボランティアしても良いかな。一応母校だし。なんて安請け合いしたのだった。

     学校に訪れて今年一番の衝撃的な出来事があった。
     おっちゃん、俺聞いてねぇよ。まさかミッチーが先生やってるなんて。
    「お前、水戸だよな……?田中さんの紹介で来てくれるボランティアの人ってお前……?ボランティアって柄じゃなくねぇ?」
    「俺だってそう思うよ……」
     卒業後何度か体育館に顔出しに来た時に会って以来十数年ぶりに会って、花道を筆頭に周りの奴らがバスケを続けてるから勝手にこの人……ミッチーもそうだと思い込んでたが大学でバスケをやりきって先生になったらしい。
     別に嫌いとか苦手とかって訳じゃないけどさ。おっちゃん心臓に悪いから事前に教えといてよ。まぁ、なんも聞かなかった俺も悪いんだけど。
     挨拶もそこそこに用具を揃えてとっとと仕事に取り掛かる。今日はなかなか暑くなるらしいので体が茹だる前にさっさと終わりにしちまおう。タオルを頭に巻いて草刈機のエンジンの紐を力強く引っ張った。

    「おー、ボランティアご苦労。随分綺麗になったな。」
     草刈りをある程度終えて一休みしていたらミッチー……三井先生が冷たいコーヒーを持って近付いてきた。受け取ってお礼を言うが、どうも直ぐにこの場を去るつもりは無いらしい。特に積もりに積もった話なども無く、特段仲が良かった訳でもないので正直この距離感で二人きりは気まずいものがある。
     気温差に水滴が滴る缶コーヒーのプルトップに手を掛けた。
    「なぁ、水戸今日この後空いてるか?」
    「え、何?空いてるけど……」
     ミッチーはジョッキを持つアクションをして一杯行かねぇ?なんて誘ってきて、二人で酒飲みながら話する事なんてある?なんて思ったけど、こんだけ汗かいた後のキンキンに冷えたビールは美味いぞ?と悪魔の囁きに思わず俺の喉はゴクリと鳴った。
     思わず誘いに乗ってしまって、頷いてからちょっと後悔したけどキンキンに冷えたビールの美味さを考えて後半の草刈りに勤しんだ。
     絶対この草刈り後のビールは最高に美味い。ジリジリと焼けるように感じる皮膚の感覚に日焼け止め塗っときゃ良かったかな~なんて思ったりした。

    「お疲れさん!」
     カチン、とジョッキがぶつかる音が心地良い。近場の居酒屋はガヤガヤと賑わっていた。
     流し込んだ冷えたビールは乾いた体にぐんぐんと染み込んでいってまるで生き返るようだった。
    「田中さんとどーやって知り合ったんだよ」
     頼んだ焼き鳥を一口頬張りながらミッチーはビールを流し込む。
    「おっちゃんとは呑み仲間。すげぇ良い人でちょくちょく呑みに行ってるよ」
    「へぇ、確かに田中さん良い人だもんな。今回も職員でやるつったのにボランティア頼んだからって言われてよ。」
    「え!?マジで?じゃあ今日俺が行った意味は??」
    「んふふふ、実は全くない。でもオレは田中さんに感謝だぜ。お前に会えたからな」
     摘んだ枝豆からぴょこりと豆が飛び出して床に転がっていった。そんな、おっちゃん……俺の労力はなんだったの?
    「まぁんな顔すんなよ。今日は先輩が奢ってやるから」
     軽く胸を叩いて先輩ヅラする目の前の得意げな顔がいやに鼻につく。大体そんなに仲が良かった訳でも懐かしむような思い出もある訳じゃない俺を誘い出してあたかも昔から気にかけてました、みたいな先輩ヅラに無性に腹が立った。
     寧ろ懐かしむどころか思い出したくねぇような目を背けたくなるような思い出しか俺達の間には無いだろう。主にミッチーに。
     それとも男って年取るとそんなの全部いい思い出になっちゃうわけ?だとしたら俺はそんなオッサンにはなりたくねぇな、なんて思った。
    「……じゃあゴチになります。でもミッチー先生、良いのかよ。俺相当呑むよ?」
     数多の酒豪を潰してきた大ザルだ。教師って職業はあんまり給料が良くないと聞いたことがある。アンタの財布大丈夫?って警告だ。
    「……おぅ、上等だ」
     ちょっと声が上擦っている。ミッチーの上がった口の端がひくりと震えるのがわかって気分がいい。今日の酒は美味しく呑めそうだ。
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