ニーズに沿わせて頂いて 着信画面に出た名前に誰こいつ、と考え思い至り舌打ちをした。電話帳から削除する手間も惜しかったのだ。しかし着信拒否にする手間くらいはかけるべきだっただろう。二度と関わる事がないと確信していたのに悔し紛れの勘など当たらない。しばらく悩み、しかしわざわざ自分にかけてくる理由をいくつか考え、更に数コール見送ってから通話ボタンを押した。機械越しの声で別人かと思ったが、話し方でさめざめと思い出すのは寝ていた所為だろうか。
「……はい」
柴です、と出るのは躊躇われた。お前に名乗るような名はないわという思いもあったが相手の出方も見たかった。躊躇いなく名前を呼ばれ、こういうやつだったと煙草に手を伸ばす。あーこいつ、男と別れたな。
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