君の子腹をそっと摩る。膨らんだ腹部に宿った命が反応するように腹壁を蹴ってくる。
腹部が張ってもう動くのがしんどい。
腹部を抑えたまま、足を開き、ゆっくりと座り込んだ。
「おなか、痛い」
「探偵社に訪ねたら手前はもう帰宅したと聞いたが、こんなところで座りこんでいるとはな」
「中也」
こんなところに来るなんて思わなかった。探偵社近くの路地裏、マフィアが絡むような事件は何一つ起こっていない。なのにこんなところに現れるとは・・・
膨らんだ腹を隠すように外套の前を締め、ゆっくりと立ち上がる。
「こんなところで会うなんて偶然だね」
「最近手前が避けているんだろ」
「避けてなんかないさ、少し忙しいだけ…ッ」
中也に掴まれた手をあわてて振り払おうとするが、その拍子に外套を抑えていた手が離れてしまった。
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