砲撃 朋花との帰り道は緊張する。いろいろな理由があるが、まず未成年と共にいるということに、成人済みの身分である千鶴はひどく責任感を覚えてしまう。できれば他の大人が一緒だとありがたいのだが、朋花がなぜか「千鶴さんと帰ります」とにこやかに言うと皆が従ってしまうのだ。確かに朋花には緩やかな威圧感が……悪い意味ではない……ある。千鶴もそれに気圧されることがしばしばある。
「今日も暑いですね~」
朋花はぱたぱたと手で己を仰ぎながら千鶴に振った。千鶴ははっと意識を戻し
「そ、そうですわね」
と返す。
「こんなに暑いと、溶けてしまいそうです」
つぅ、朋花の頬から、首へ、汗が滴るのを見た。いけないものを見た気になって千鶴は目を逸らした。
「ねぇ、千鶴さん」
千鶴は気まずさを隠しながら朋花に目をやり、なんですの、と返した。
「私、千鶴さんのことがすきです」
「はい?」
「すきなんです」
千鶴はつい立ち止まり、朋花もそれに倣った。今、この子はなんと言った? 思考が止まる。千鶴は、しばらく考えて……しかし顔はぽかんとしたまま……言った。
「それはその……どのような意味で?」
「こんな風にわざわざ告げる、すき、の意味なんて、おわかりなんじゃないですか?」
朋花は笑うような、はたまた無粋だと怒るような言い方で、こてんと小首を傾げた。その仕草は幼く愛らしい……なんといったって庇護対象! 千鶴はふらふらと眩暈がする。なんと言って断るのが理にかなっているだろう?
「……朋花」
「はい」
「気持ちはありがたいのですが、」
ぐぃ、ふわ。
音にするとこんな感じ。
千鶴は今、自分の身になにが起こったのか、わからなかった。ただバランスを崩して一歩踏み出したことは理解した。視界が朋花の顔で埋め尽くされている理由は、判然としなかった。
「……ふふ」
ぱっと、解放された。そこで初めてなにが起きたのか、少しだけわかった。
ぐぃ、は、胸ぐらを掴まれた音だ。
ならば、ふわ、は?
「女性アイドル同士が夜道でキス、なんて」
朋花は小悪魔みたいに目を細める。
「文春に載っちゃうかもしれませんね」
千鶴は、さぁ、と血の気が引くのを感じた。そしてひと言、小さく漏らした。
「洒落に、ならないですわ……」