膨張説を信じますか こんな夢を見た。
休暇をもらった。アイドルになってはじめての長い休暇だった。どうやら劇場のアイドルが交互に休暇をもらっているらしく、たまたま朋花が同じ時期に休暇の期間となっていた。
「旅に出ませんか、千鶴さん」
朋花がそう打診してきたので、千鶴は了承した。金銭面の心配はあったが、朋花も立派にアイドルとして……生々しい話だが……稼いでいるし、それをきちんと管理しているであろう実家も太そうだから、まぁ良いかと思った。
朋花とは駅で待ち合わせた。迷いませんでしたか、と朋花は来ていちばんに問うので、慣れていますから、とうっかり言いそうになるのを抑えて、送っていただきましたから、と答える。朋花はにっこり笑った。こうしているとただの中学生の女の子なのにな、とふと思った。
電車に乗った。平日なのでひとは疎らだった。朋花を端にしてふたり並んで座り、たまにぽつぽつ会話を交わした。朋花に従って何度か電車を乗り換えた。どこに行くのか聞いても、秘密です、と朋花は微笑んだ。千鶴は電車賃が少し心配になった。
ふ、と自分の膝が目に入り、千鶴は自分が眠っていたことに気がついた。電車に揺られるとついこうだな、と顔を上げると
「あら?」
窓の外が真っ暗で、千鶴は素っ頓狂な声をつい上げてしまった。いつの間に夜になったのだろうか。朋花は、と横を見ると、にこやかにそこにいたので、少し安心した。
「わたくしが寝ていたから、起こさなかったんですの?」
「いいえ?」
朋花に指さされて今一度外を見た。よくよく目を凝らすと、それは夜ではなかった。否、厳密には夜と同じ色をしているのかもしれなかったが、少なくとも自分が時間経過で得られる夜ではないものがそこに広がっていた。
そこは信じ難いことに、宇宙だった。星々が遠くで近くできらきらちらちら煌めいている。冷たそうな空間の中にいると思った瞬間に寒気がした。自分をつい抱くようにすると、朋花が言った。
「乗っていた電車から、キャトルミューティレーションされたようです」
なんだそれは? 千鶴が顔を訝しげにしたことを理解した朋花が、電車の中のものだけ誘拐されたようなことだと説明してくれた。
誘拐、という言葉にぞっとした。未成年の朋花と共に何者かに誘拐されたのだと思った瞬間、目眩がした。どうしてくれよう、とあたりを見回すと、中には自分たち以外誰もいないらしかった。
「だいじょうぶです、そういうツアーなので」
「ツアー?」
「宇宙を走る列車に乗って、果てまで旅をする。そういうツアーです」
朋花はあくまでも正気に微笑んでいる。千鶴は、なにを言われているのかよくわからなかったが、とにかく身の安全が確保されたのだということには安堵した。
「これが、今回の旅、ということですの?」
「そうですよ」
「どうして伝えてくれなかったんですの?」
「その方が、驚きが大きいと思って」
確かに心底驚いた。千鶴はへにゃりと背もたれに身を預けながら、窓の外に目をやった。そこにはきっと空気がないと思うと恐ろしかった。しかし、宇宙は美しく、どこまでも澄んだ暗い空間が広がっていた。
朋花が、きゅ、と服の裾を掴んで
「ところで千鶴さん」
蠱惑的に笑う。
「宇宙の果てって、どこなんでしょうね?」