日本人女性における指輪の平均号数は9号らしい「ジュリアン見て見て!」
茜が会うなりジュリアに手の甲をぐいっと近づける。ジュリアは「うぉっ」とかなんとか、言いながらのけぞった。茜の手の甲がきらきらと晒されていた。
「なんだよ急に……」
「ファンの子にもらったのだよ、ふふん」
茜の手のきらきらの正体は、どうやら指輪らしかった。見たところステンレスだろうか、シルバーコーティングの細身の指輪。茜はそれをあろうことか左手の薬指にはめている。
「いいでしょいいでしょ〜! それでね、指輪と一緒に贈られた手紙に書いてあるわけなの! 『茜ちゃんをお嫁さんにください。』って! キャ〜! 茜ちゃん、罪な女……」
茜は己の頭を抱えながらそんな感じではしゃいでいた。ジュリアの溜息。
「はいはい、良かったな」
「反応うっすいな〜。もっと喜びなよ! ねぇねぇ、茜ちゃんがウェディングドレスに身を包んだらどうなると思う? 世界中が歓喜して、茜ちゃんにひれ伏し、涙を流すに決まってるよね?」
「そうだな」
「わぁいすっごい棒読み! だけどいっか〜!」
茜は指輪を眺めてはきゃいきゃいと喜んでいる。そんなプレゼントは初めてだったのだろう。ジュリアの二度目の溜息。
「アカネ」
「にゃ〜?」
ぱし、と茜の手を取る。茜の目がくりくりとジュリアを見つめて、きらりと煌めく。ほんとうにかわいい顔をしているな、とふと思った。
「残念ながら、その結婚は無しだ」
「え〜? ジュリアンそういうとこ介入しちゃう〜?」
「そうじゃなくて」
ジュリアはぐっと黙ってから、ぼそぼそと言う。
「アカネはアタシが嫁にもらうんだから……その結婚の懇願は届かないって言ってんだよ」
「うにゃ……」
情けない声と共に顔がみるみる赤くなった。するり、茜の手がジュリアの手の中からいなくなる。
「それは、その……」
茜のもじもじした声。
「ジュリアン、茜ちゃんのこと、めっちゃすきってこと?」
「……そうなるな」
薬指から不意に指輪が抜け落ちて、からりと音を立てた。
「もっとちゃんとしたサイズの指輪、贈ってやるから」
「……うん」