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    甘味処

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    甘味処

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    少年の一生あるところに少年がおりました。その少年はなんてことないありふれた少年で、誰の目にもつかないような人でした。人並みに、生きて、死ぬような人でした。
    彼には家族がいました。姉がひとりと、兄がひとり、父と、母です。少年は一番下でした。喧嘩が弱くて、泣き虫で、大声で泣いていたので、周りからはよくやっかまれたのですが、全く自覚がないまま順当に大きくなるのでした。

    毎日通っている学校の先生が、優しいひとになろう、と、よく言うので、真っすぐで素直な少年は優しい人になろうと頑張ります。真面目に取り組んだ少年は思いました。優しいひととは、いったい、どんなひとのことを指すのでしょうか?
    「優しい人」とは、そのこどもにとって、まだまだ未知のものでした。
    優しさには、どうやら、痛めつけてはいけない、とか、ともかく相手が嫌がることをしてはいけないよ、だとか、言い方にはいろいろあるようです。そんなことをぼんやり考えていた少年にとって、輪をかけて不思議に思う出来事が起こるのでした。

    また、なんてことない日の事です。
    いつものように、授業が始まっています。走る回る男の子や、おしゃべりの止まない男の子、女の子、机を彫ってみたり、鉛筆を食べてみたりする子。手遊びに一生懸命なちょっぴり汚れた風貌の男の子……。教室はいつだってとってもにぎやかです。
    いい天気で、大きな窓から、もしかしたら砂埃なんかも風に乗っているかもしれません。カーテンがぶわり、ぶわり、何度も舞い上がるのが面白くて授業なんかそっちのけで、少年も外ばかりみていました。
    聞こえない音が、ぽん、と転がってきました。どうやら斜め前の席の女の子が消しゴムを落としてしまったようです。少年は少し恥ずかしい気持ちで、そっと拾い上げて「はい」と机の隅にちょんと乗せました。女の子は「ありがとう」とは言いませんでした。
    その様子を見ていた先生が「それは、お節介、と言うのよ」と言ったからでした。少年は初めて聞く「お節介」という言葉にとても戸惑いました。なぜなら、先ほどの行いは、教室ではよく見られる「優しい」行いであると思っていたからです。
    それから、少年にとって「お節介」と「優しさ」は隣り合わせになりました。人に手を差し伸べるのは、お節介? それとも優しさでしょうか? ……それから少しだけでも、距離を置いたり、正しく推し量るには、少年はあまりにも幼かったのかもしれません。

    あのときの少年は大きくなってもきっと、そうやって考えたり、考えなかったりを繰り返して、ぼんやりと生きて、そして死んでいきますが、さほど悪い気はしません。
    「それはね」と、少年は言います。
    あの日の幼い自分が傍にいて、ただ間違いを繰り返すだけでよかったのだと。
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