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    直弥@

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    直弥@

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    ラーメン食べたい

     駅前繁華街の片隅にある昔ながらの拉麺屋に中原と太宰は居た。
     こじんまりとした店内の壁際のテーブルに向かい合うように座り、目の前に並ぶ食事に手を付ける。
     出汁の効いた醤油ベースのスープには縮れ麺。トッピングはよくある叉焼に麺麻、味付き卵は君が半熟で海苔が丼の縁を彩っている。その横には長皿に乗せられた羽つきの餃子が香ばしい香りを放っていた。
     長めの後ろ襟を適当に結んでいる中原の前には、更に大盛りの白米。小柄なその体によく入るものだと麺を啜りながら太宰はやや呆れた様な顔をしてみせた。
    「それで」
    「あ?」
     大股開きで椅子に座り、豪快に麺を啜っていた中原がその箸の先を餃子へ向けたところで、太宰が口を開く。
    「釈放おめでとう、は良いんだけど君、三日もじっとしていられたの?」
     太宰の言葉に中原は少しだけ考えて、先に餃子を口に放り込んだ。
    「やることなさすぎてずっと筋トレしてた」
    「うわぁ。想像に難くない見事な脳筋」
     呆れた様に告げて太宰は再び麺をすする。味の染みた叉焼が口の中で溶けるのを味わっていれば、中原が白米を掻き込みながら続けた。
    「他にやることなかったんだよ。完全に外部と遮断だぜ」
     雑誌は渡してくれたとしても、数時間もすれば読み終わってしまう。それ以前に中原自身が活字に興味がある方ではない。
    「まあ、そのへんは融通効いたのかなんなのか、職員のトレーニングルームから幾つかマシン貸し出してくれたしなあ」
     恐らくは監視カメラも付いていたであろう部屋で、せっせと筋トレをするポートマフィア幹部。それも武闘派。だというのに、トレーニングマシンを貸し出すとは、異能特務課も思い切ったことをしたものだと太宰はため息を、スープと併せて飲み込んだ。
    「つか、手前のところにも情報は行ってんだろ?どうなんだ?」
     それはことの発端となっている異能者連続殺人事件のことだろう。
    「それなんだけどねえ。皆、気にはしているんだけど、取り扱いは所轄の警察ではないから依頼もないし。何より乱歩さんが乗り気じゃないんだよね」
    「そりゃどういう?」
    「さあ。君の方はどうなの?」
     肩を竦めて餃子を食べる太宰に中原は暫し考え込む様に沈黙を流した。
     その沈黙を埋める様に、二人は同時に麺を啜り始める。なんだかんだ言っても中原はポートマフィアの幹部であり、太宰は今は武装探偵社の社員だ。嘗ては太宰がポートマフィアの幹部であったとしても、今は話せぬこともあるだろう。
     しばらくの間、黙々と食事が進む。
     それにしても、だ。マフィアの幹部となればそれなりに会食やら何やらに引きずり出されるだろうに、こうして拉麺を豪快に啜っている姿はとてもではないが行儀が良いとは言えない。ちゃんとした席ではきちんとできように尾崎に散々躾けられたのは間近で見ているので知っては居るのだが、こうして人目がなくなれば嘗ての生活の名残があちらこちらに見られるのがなとも言い難たい気分にさせられる。
    「見てくれは悪くないのにねえ」
     頬に落ちる一筋の髪を避けてやりながら太宰が呟けば、中原の眉間に皺が寄った。
    「見てくれだけは、良いってのは手前のほうだろうが」
    「おや、私の容姿を評価してくれるのかい」
    「その見てくれに騙されて泣きを見た女を嫌ってほどに見てきたからな」
     鼻で笑う中原に太宰は苦笑を禁じえない。事実ではあるが。
    「今は、君だけなんだけどなあ」
     ぼやくように告げればため息を一つ付いて中原は答えた。
    「知ってる」
     たった一言で終わらされてしまえば太宰のほうが気がすまなくなるのは悪い癖である。
    「なあにその態度。私が、わざわざ、君一人だと言っているのに」
     情人ならばもう少し可愛らしい態度を示すように告げれば、口端を上げて中原は鼻で笑って、箸で太宰を指した。
    「元が俺以外を横に置けねえのは知ってんだから今更だろ」
    「それを言うなら中也もでしょう」
     行儀が悪いと箸を持つ手を軽く押さえれば、中原は再び意識を食事に向ける。
    「作戦も仕事も、私とが一番気持ち良いくせに」
     勿論、セックスもと続けた太宰に中原は黙って何かを考え始めた様子。人が多くざわめく店内とはいえ、ここで大声を出すのは流石にはばかられるのだろう。夜の繁華街にある拉麺屋など酔っ払いの巣窟。下手に騒げば店を追い出されるか、下手をすれば警察が直ぐにすっ飛んで来る。このへんの警官は実に勤勉であるのだ。
     先に食事を終えた太宰は中原が次に何を言うのかゆっくりと待つ。
     やがて最後の一口を終えた中原が箸を置いて口を開いた。
    「吊り橋効果、だろ?それからセックスが気持ち良いのは当たり前だな。手前がせっせと頑張ってんだからよ」
     人を食った笑みを浮かべて中原が告げた言葉に太宰は頬を引き攣らせた。
    「手前と俺が組むときは通常のぬるい仕事じゃねえ。そりゃあ、気分も高揚するんもんだろさ。危険な仕事であればあるほどアドレナリンが出て高揚すんだから気分も盛り上がるってもんだろ。実際、それで負け無しなら尚更だ」
    「君、そんな言葉よく知ってたね」
     プラスチックのグラスに入った氷を口の中で砕いて中原は、それはもう面白いとばかりの表情で続ける。
    「セックスに関してはいえば、手前の無駄に高いプライドと女遊びで覚えた技術の自負があるからな。寧ろ、俺が良くないならそりゃあ、手前の沽券に関わるだろうから必死だろうよ」
    「君ねえ」
     図星、とまでは行かないが心当たりが無くはない太宰はため息を付いた。
    「手前相手に恥じらいも何もねえだろ」
    「そうだけどさあ」
     大体、と太宰は恨めしげに中原を睨む。
    「久し振りの逢瀬が拉麺屋なんて色気はないし、餃子まで食べてるとか本当に何なわけ?」
    「三日間、まともすぎる飯だったから仕方ねえだろ。大体、餃子に関しては手前もだろうが」
    「君が食べるのに私が我慢しても仕方ないでしょう」
     言いあいながら、長居をしては店の迷惑とさっさと席を立った。一応、釈放されたお祝いということで太宰の奢りだ。
     威勢のいい店主の声を背中に店を出れば、そこそこに夜は更けているもののネオンに溢れて居る街並みはまだ当分眠りそうにない。
     レジに置かれたサービスの飴を口に含んだ太宰は先を行く中原に並ぶ。
    「暫くは大人しくしてなきゃなんねえし、手前は明日仕事が終われば休みだろ」
     不意に告げられた言葉に太宰は宙を仰ぐ。つまりはそういうことだ。
    「明日は早く帰ることにする」
    「そう言って、仕事押し付けんじゃねえぞ」
    「えー」
     いつの間にか中原の手には煙草。太宰は口の中で飴を転がす。
     不意に、中原が太宰の腕を引いた。たたらを踏むでもなく引かれた太宰は、ビルとビルの間、そこだけネオンも照らさぬ暗闇、に引きずり込まれる。
     壁に押し付けられた太宰の首に火が付いた煙草を持ったままの中原の腕が回され、当然の様に太宰も中原の腰に腕回し引き寄せた。
    「軍が絡んでる。首領に直接警告が入った」
     唇が重なるほど近づいた距離で中原が告げる。
    「だから動かねえ。手前なら解るだろう」
     暗闇の中、灰簾石が間近で輝いた。
     太宰は微かに微笑んで、その頬に手を滑らせる。それでも、その鳶色の瞳に浮かぶのが闇だ。
    「そういうことにしておくよ」
     はたから見れば暗闇で睦み合う恋人にしか見えないだろう。その距離でも甘さなどどこかに置いた空気が流れていることに、気付くものなど居ない。
     目を合わせたまま唇を重ね、舌を絡ます。
     拉麺と餃子に加えて煙草と甘い林檎の飴が混ざった口吻は、離れた瞬間に互いに口を抑えてしまう程に不味いものであった。
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