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    直弥@

    長編の下書き

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    直弥@

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    書くとだいたい形になってくる

    拾壱 アインシュタインリグというものがある。
     重力レンズにより引き起こされるそのリングは、本来であれば広大な宇宙でのみ観測されるものだ。
     それを地上で目にした中原は、その光源となる場所へと横浜の街を跳んでいる。ビルの屋上から屋上へと監視カメラのない場所を文字通り跳んで行けば、それは港湾の倉庫街。明かりが華やかであり、最近では夜景の見えるクルージングなんかもやっているらしい。しかし、目的地はその華やかなライトの先、ガントリングクレーンの超頭部だ。
     クレーン部分の先に飛び移れば、そこには小柄な一人の少年がいる。少年は中原が正面に立ったのを見ると、先程までライトの一つの前に浮かせていた小さな鉄球を手元に戻した。
    「はじめまして。中原中也さん」
    「おう。わざわざこんなめんどくせえ呼び出ししてなんの用だ?」
     正面に立つのは、色素が薄いミドルティーンの、そして話には聞いていたが、同じ年代だったころの中原と同じ面立ちである少年だ。
     それでもやはり育った環境の違いか、中原にくれべたら比較的穏やかな顔立ち、に見えなくはない。
    「用、というか前から貴方と話がしてみたかったんだ。最近、やっと外に出れるようになったし」
    「研究所での生活に飽きたか?」
    「どうだろう?少なくとも俺はそんなに不満はないかな」
     首を傾げる少年の発言に嘘は感じない。そもそも生育条件と環境が違えば考えも受け取り方も変わるものだ。
    「ただ、あんまり力比べとかできないから。貴方が相手なら問題ないかなって思って。先生が『自分の限界を知るのも一つだ』って言ってたから」
     純粋にそう告げる少年に、中原は一つため息をつく。
    「先生ってのはTってやつか?」
    「先生は先生だ。名前なんて知らない」
     少し剥れるように返って来た言葉にそれもそうか、と中原は頷いた。
    「どのくらい動けるのか、見てやるよ」
    「じゃあ、行くよ!」

     部屋で中原を腕に抱きしめて太宰はその話を聞いていた。
    「あいつは俺じゃねえ。羊も知らなければポートマフィアの構成員でもない。だからあいつは俺じゃねえ」
    「どうしたい?」
    「あいつが誰かに無理やり従わせられてるならどうにかしてやりてえが、そうじゃねえなら首領のいうように首挟まねえ」
    「ヴェルネイルさんが話してみた様子だと無理やりどうこうしようって人とは思えないらしいけど」
    「それでもこいつらの存在を表に出し始めている以上は何らかの理由があるってわけだろう」
    「そこなんだよね。花袋さんが探ってくれるって言う話だけど、軍相手にあまり無理はできないしねえ」
    「まあ、俺としては積極的に動く理由は今のところねえな」
    「 わかってる」
     襟足に伸びている髪を指に絡ませる太宰に中原はくすぐったいのか首を竦める。
     そのまま首筋を指でなぞると、太宰はその喉仏に歯を立てた。 小さくくぐもった声を抑える中原を見て、太宰は小さく笑う。
    「よく私にこうして急所を晒せるよね」
    「そりゃあ俺が手前の情人だからな」
    「なあにそれ」
    「手前は形から入るってことだ」
     喉奥で囁くような笑い声を上げて視線をあわせた二人は、 自然目を閉じて唇を重ねた。 じゃれるように幾度も啄む太宰に中原はくすぐったいのかその顔を遠ざけようと押しのける。 その腕を取って今度は掌を喰み、やがて指先にたどり着くと口に咥えた。

     ファーストフードのイートインコーナの小さなテーブルで向かい会う二人は、用紙が似ているから兄弟に間違われてもおかしくはないだろう。
    「暴れたら腹が減るのは共通案件だな」
    「俺、こういうの初めて食べた。いつもは栄養第一の味気ないやつだ」
    「社食みたいなやつか。まあ、ジャンクフードなんて研究所に居る人間からしたらあんまり食わせたくねえだろうよ」
     栄養を鑑みた食事を与えているならばなおさらだろう。そうは言っても、世界レベルでチェーン展開をし、味も追求している店舗努力を考えれば食べることを止めるのもおかしな話だ。成長期の間食には丁度いい。とは言ったところでこの少年に深入りしてはいけないことはわかっているし、下手なことを聞くのもやぶ蛇になりかねないと思えば会話選びも慎重になる。
    「普段は何してんだ?」
     平素であれば当たり障りもない質問だが、何が出てくるのか少々緊張した。最も、自分にとって研究所に身を置いていた時代は青い闇に包まれていただけだから純粋な興味もある。
    「異能の訓練とか勉強とか?あとは研究の手伝いとかもしてる
    「研究の手伝いできるとか手前、凄えな」
    「勘違いしてるみたいだけど、荷物運びとかそっちだよ。だいたい、そんな頭あると思ってるの?自分を顧みなよ」
    「あー。そこは育った環境じゃなかったかー」
    「どうせ弄るなら、そっちも調整してほしかったよね」
    「でも親は医者だから問題ねえ筈なんだよ」
    「貴方を見ててもその要素が見当たらないから俺は諦めてる」
    「そこまでか」
    「そこまでだよ」
     大きなバーガーにかぶりつく姿はなんともまあ小生意気。自分もこんなだったかかと思い返せば小生意気で済むような少年時代でもなく。
    「考えるのは頭がやりゃあいいんだよ」
     頬についたソースを拭いながら、中原は苦笑して告げるのだった。
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