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    直弥@

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    直弥@

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    食べ物描写難しい

     真白のクリームに紅い苺の乗ったショートケーキ、ふんだんに使われている果実一つ一つにナパージュがかかり飴のような輝きを放つフルーツタルト、艷やかな焦げ茶にココアを掛けたチョコレートケーキの断面にはラズベリーが見え隠れしている。粉砂糖が掛かった一口大の小さなシュークリームはクリームを使ってタワーになっており上からチョコレートソースが掛かっており、その横には色とりどりのマカロンが並び、スコーンの付け合せにはクロテッドクリームが用意されていた。
     白磁のシュガーポットには真白の角砂糖が輝き、ミルクポットには新鮮なミルクが並々と履いている。茶器に注がれるのは上質なダージリン。その香りが洋菓子の甘い香りと混ざり、カトラリーは美しい銀の輝きを放っており、毎度のことながらちょっとどころではないお茶会だ。
     街を一望できる窓は普段は通電遮光されているが、今は茶会に相応しく、窓本来の姿を現し明るい青空を映し出している。差し込む明るく暖かな光が、執務室を隅々まで照らし出し、この部屋の持つ本来の意味を忘れさせるような穏やかな空気を齎していた。
    「今回の件なんだけど」
     その茶会に招待され、席に着いた中原を見届けた森も同様にテーブルを囲み、殊更穏やかさを取り繕いながら口を開く。
    「立原くんを通して軍から忠告を受けてしまってねぇ」
    「立原が、ですか」
     ポートマフィア構成員の一人であり、武闘派組織の黒蜥蜴の十人長。それでいて、軍警の猟犬と呼ばれる部隊に所属している間諜、基、潜入捜査官である。本来であれば身分がばれた時点でポートマフィアによる粛清を受けるなり、猟犬に戻るなりと鳴るのであろうが上にも下にも面倒見がよく戦闘能力も高い彼を手放すのは惜しいと森に進言したのが、黒蜥蜴百人長の広津であればその意見を無下にも出来ず。その件を知っているのがごく一部の幹部に限り、且つ、潜入捜査の目的がポートマフィアの殲滅ではなく森の動向を探る為のものであれば早々に害はならないという判断もある。どのみち、新しい人間が派遣されることを思えば確かに現状有用な人物を手放すのは惜しい。
     外部に出せぬ機密情報に触れることはないが、組織全体の動きを肌で感じることができる立場に居るのだからと、猟犬の方でも見てみぬふりをしてそのまま継続して潜入捜査をさせているのだからあちらもなかなか規格外なのだろう。
     何よりあの芥川が、嘗ての幹部が諜報員と親しい友人であり今現在付かず離れずの関係を築いて居ると言えばもう、立原本人の意志などあってないようなもの。あの芥川ですら引き止めるように動くのだから、これは決定事項となった。
     かくいう本人はそうと決まったのであればと腹を括って二重生活を卒なくこなしており、その辺も踏まえてなかなかに優秀であるのが見て取れる。坂口といい立原といい、当然といえば当然であるが、潜入捜査を行う人間とはどうして後も優秀で有用なのか。森としては苦笑を禁じえないところだ。
     些か気になるのが、立原が異能力者であることが判明して以降、梶井が『芥川の遊び相手が増えた』と言っていること。ビルが破壊されないことを祈るばかりだ。
     中原の前の席に着いているエリスは、何も反応なく笑顔でケーキを食べている。
    「そういうことだからポートマフィアとしてはこの件には手を出さないことになったのだよ」
     穏やかさを崩さずに告げる森に中原は軽く目を伏せた。
     重力使いと軍、この二つが並べば否が応でも思い出すのは、六年前の事件。
    「N、ですか」
     中原の出生に深く関わった一人の科学者。最悪の印象しか残っては居ないが、確かに彼は優秀であったのだろう。それ故に、戸籍を始めとして存在の全てを秘匿された人間だ。
     しかし、彼は六年前の事件で確かに死んだはず。
     それを口にすれば、森は微苦笑を浮かべた。
    「あれだけの規模のであれば、一人で研究していたとは限らない、というところかな」
     中原には分からぬが、嘗て軍に所属し異能に関する研究をしていた森にはそういうこともあると事例を知っているのだろう。確かに研究に関して一人で行うには限度がある。ポートマフィアきっての狂科学者である梶井とて、資金提供として森からの支援を受けて居るのだ。
    「だとして、何で今更表に出てきたんですかね」
     六年前は、更に昔の十五年前からの流れで中原を中心のことが起こったが故に、Nが表とまでは行かないものの自分達の前に現れた。今は、そういった事情がないにも関わらず、何故その研究結果である重力使いが外に出ているのか。
    「探ろうにも猟犬に警告をされてしまったからねえ。私としても下手に藪をつつけないのだよ」
     困ったように笑いながらもその瞳に浮かぶのは中原に対する警句である。
     事情が事情なだけに、中原が動くの見越して先に止めに入ったのだ。この件は捨て置く様に、と。
     中原の心情を考えれば、どうしたってその真相を知りたくなる。己の出生と同じくする同胞が居るのであれば、その能力が良いように利用されているのであれば開放を、と望むのは致し方がないというのは理解しているのであろう。それを踏まえてもポートマフィアに損益を出すわけには行かない。
     現状、やっと落ち着いてきた世情と同時に未だ危ういバランスをかろうじて保っている横濱租界を考えれば、それは当然の帰結。それでも命令という形を取らないのは、ポートマフィアを家族と呼ぶ中原への配慮だ。それは上司と部下であると同時に親と子の様な二人の関係性を示す一端でもあるのかもしれない。
     中原は少しだけ温くなった紅茶を一口、口に含んだ。
    「出てくるのが蛇どころか、とんでもない化け物だってわかっている所を突いたりはしませんよ」
     中原の口元に浮かぶのは穏やかな笑み。
    「中也君」
    「どちらにしても暫くは俺にも監視が付くでしょうし、下手に動いてポートアフィあの不利益になるようなことはできないですから」
     中原の言葉を受けて森は微笑んだ。
    「この事件が解決するまでは窮屈になりそうだねえ。一層のこと横濱から離れてみるかい」
    「いえ。それはそれで面倒な事になりそうですので。まあ、大人しくしています」
     どのみち、今のところは中原が先陣を切るような抗争の気配もない。
     ならば下手に大きく動くこともないだろう、と中原が告げれば森も同意するのであった。
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