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    buti_erik

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    buti_erik

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    オクタヴィネル寮長とアズールの話続き~!
    つながってないようだけどこのあとつながる!

    『カポドリオ・ファーム・スナッフフィルム』2 ユウたち四人組の間で、ホラー映画がちょっとしたブームだった。

     きっかけはエースが借りてきた話題のホラー映画。マッドサイエンティストの悪霊が、人間に乗り移って自らの身体を実験台にするやつだ。ジャンケンで負けたグリムが途中買い出しに行き「マッドサイエンティストのゴーストを見た!」と大騒ぎした事件があった。
    「その映画を貸してくれたのがキュリアス先輩」
     四人で廊下を歩きながら、エースがディスクの入ったパッケージを見せるように軽く振った。これは例の映画の次にエースが借りてきたものだ。中身はまたマッドサイエンティストもので、それに懲りたグリムが「次はオレ様が選ぶ!」と言い出したので、みんなで返却と別の映画を借りに行くところだった。
    「キュリアス先輩まじでイカレててー、正直ユウには会わせたくなかったんだよな」
    「エース、先輩に対してその言い方は、……まあキュリアス先輩は確かに変わった人だとは思うが」
     言いずらそうにしながらも、デュースまでもが同意した。
    「そんなに変わった人なの? この学園では変わってない人を探す方が難しいと思うけど」
     ちょっとした冗談のつもりで二人を見ると、二人は示し合わせたようにぴたっと顔を見合わせ、「うーん」と唸った。
     デュースが顎に手を当てて斜め下に視線を逸らす。
    「怖いもの知らずというか」
     エースが、少し引きつった笑顔で斜め上に視線を泳がせる。
    「怖いものを知りすぎてマヒしてるっていうか」
     そんな二人をグリムが胡乱な目で見上げて、ふん、と鼻を鳴らした。
    「変な奴らばっかりだから、オレ様もうどんな奴が出てきてもおどろかねぇ」
     それってフラグなのでは。

     着いたのは比較的小さな空き部屋が並ぶ、一階の廊下だった。
    「ここって、部室に使われてたりする……」
     このあたりの部屋は、ほとんどが倉庫代わりになってたり、文科系の小規模部活動の部室に宛がわれている事があるらしい。
    「そ。キュリアス先輩はホラー映画研究同好会。会員本人一人だけど」
    「ふなっ!? 同好会でも部室もらえるのか!? オレ様も部室が欲しいんだぞ! それでツナ缶で部屋をいーぱいにする!」
    「学園長が美食研究同好会を認めてくれてるのって、部費や部室の申請してこない無害な同好会だからじゃないかな……」
     デュースはマジホイ同好会を却下されたことがあったと聞いたけど、NRCで同好会を立ち上げるのは、学園長の許可さえあれば難しくはないらしい。丸めこむ、とも言う。
     かといって部費や部室を貰えるかは話が別だろうけど。
    「あの人、問題児としての匙加減が上手いんだよなぁ」
     とエースが呟きながらスマホを取り出した。
    「……あ、キュリアス先輩! 今部室前着いたんでぇ、開けてー」
    「ん? 鍵でも掛かってんのか?」
     グリムが丸い取っ手をがちゃがちゃ引っ張るが、木製の扉はびくりとも動かない。たとえ鍵がかかっていても、扉は多少なりとも揺れるはず。
    「魔法、か?」
     デュースも首をかしげる。
    「まあ、見てろって」
     なぜかエースが得意げにマジカルペンを取り出し、にっと笑った。
     すると、鍵穴の中からしゅるしゅる、と蛇のように模様が這い出て、鍵穴の周りで円を作りぼんやりと光った。魔法陣だ。
     デュースと一緒になって「お~」とぱちぱち拍手すると、グリムが「ここに魔法をかけるんだな? オレ様やりたい!」とぴょんぴょん跳ねた。
    「で、これはフェイク」
    「え?」
     目を丸くした自分たちを尻目に、エースは隣の部屋の前に歩いて行くと、鍵穴に魔法をかけた。すると、魔法陣が渦潮のように鍵穴に吸い込まれていく。
     ――がちゃん、と音がして多分鍵が開いた。
    「先生たちがよく許したな、こんなの」
     デュースが感心したように鍵穴をじっとのぞき込む。確かに。寮内では学生の自治の元、寮のルールがあるが、校内には校内のルールがある。
    「なんか、鍵はちゃんとスペア預けてあるらしーよ。そういうとこ、ちゃんとわかってやってんだよなー」
    「こんなに警戒するって事は、もしかしてお宝を隠してるのかもしんねーんだゾ!」
    「それは見てのお楽しみ」

     扉を開くと、そこはホラー映画の迷路だった。
    「うわ……」
     デュースとグリムと三人そろってぽっかりと口を開けるしかなかった。
     両側には壁のようにスチールラックがそびえ立つ。そこにはびっしりと上から下までホラー映画のパッケージが収納されていた。
     一歩足を踏み入れ、扉が閉まると、その薄暗さに一瞬心臓が縮む。なぜかラックの下から薄緑色のライトが灯っていて、お互いの顔すらうっすら不気味に見える。
     扉は二人並んで入れる幅があったが、両脇のラック一つ分と直角に配置された別のラックに目の前が阻まれる。入口からL字に通路が作られているようだ。
     エース、デュース、グリムの後に続いて左に曲がると、さらに通路は狭くなる。一人通るには問題ないが二人すれ違うにはお互いに横歩きする必要がありそうな狭さだった。

     時折角を曲がり、びっしりとホラー映画が並んだ左右の棚を目移りしながら進んでいく。『怨霊の棲む家』『ウィンチェスターハウス』『死霊館』『タワー・オブ・テラー』……。
     なんとなくタイトルが『家』とか『館』とか『ホテル』で纏まっている。
     上を見上げると、ラック同士を繋げるように取り付けられた太いチェーンに〈ゴースト・館系〉と書かれたパネルがぶら下がっている。なるほど。
     そのまま通り過ぎた棚のパネルに目を向けると〈ゴースト・人形〉。どうやらこのあたりはゴーストエリアらしい。タイトル順ではなく、完全に恐怖の対象順でジャンル分けされている。ホラー映画がこんなにあるとは思わなかった。
    「あれ?」
     ふと前を見ると、誰もいない。
     目の前は袋小路で〈トラップ〉の棚が視界を塞いでいた。
     『CUBE』から始まる続編作品が三本並び、『パーフェクト・トラップ』『スケープ・ルーム』。トラップは閉じ込められる系の話なのかもしれない。
     そして『SAW』という作品が十タイトルも続編が並ぶ。人気シリーズなんだろうか。
     パッケージの背表紙だけではどんな作品か分からない。少し気になる。
     指を掛け、手前に傾けた。
    「おーい、ユウ! こっち!」
     背後を振り向くと、二つ前のラックの間からエースの腕が生えて、手を振っていた。
     そこに曲がり角があったらしい。引き出しかけたパッケージをそのまま仕舞い、引き返す。持ってきてしまうと戻す場所が分からなくなってしまいそうな迷宮だ。

     エースたちは〈殺人鬼・サイコスリラー〉のラックの前で待ってくれていた。
    「ごめん、言い忘れてたわ。上見て」
     エースが指さした先にはラック同士をつなぐ太いチェーンがある。よく見ると、黒く細い配線コードのようなものが絡みついている。
    「あのコードが道順になってんだよ」
    「全然気付かなかった……」
    「ああ。ライトの配線コードにしか見えないな……」
    「ちなみに、この目印。不定期で変わるらしい。棚の位置も。こだわりがやべーよな、ここがホラー映画の中って感じ」
    「棚も!? こんな重いものどうやって……あっ、浮遊魔法か」
    「そうそう、キュリアス先輩って、浮遊魔法めちゃくちゃ使い慣れてるじゃん」
     浮遊魔法は持ち上げる物の大きさや重さで難易度が全然違う。グリムは授業でペンをぴょこんと跳ねさせただけだ。何故か納得している二人に理由を聞こうとしたところで、グリムがしびれを切らした。
    「もうオレ様飽きた! 目印が分かればこっちのもんだ! 下から潜ってやる! にゃはは~、先に行って待ってるんだゾ」
    「あ、こらグリム!」
     止める間もなく、ラック下の五十センチほどの隙間をひょいと潜って行ってしまった。
     床は埃もなく綺麗に掃除されてるみたいだったが、さすがに自分たちが這いつくばって潜るのは余計に大変だ。
    「ったく、しょうがないやつだな」
    「まぁ、キュリアス先輩ならグリムがなんか言っても怒ったりしねーから大丈夫でしょ」
     少し心配だったが、エースがそう言うなら意外と温厚な先輩なのかもしれない。トレイ先輩もケイト先輩もハーツラヴュルの三年生は面倒見がいい。
    「ちなみにここから先の棚、全部、殺人鬼モノだから」
    「えっ」
     〈殺人鬼・カニバリズム〉の棚を指差し言ったエースに、やっぱりちょっと怖くなった。

    「ふぎゃーーーーーー!!!!」
    「グリム!?」
     ラックの少し奥から聞こえたグリムの悲鳴に、エースが「やべ」とこぼし、少し足を速めた。走りたくても何度も曲がり角のあるこの通路じゃそれが限界だった。
     数回曲がると、すぐに開けた場所にでた。腰を抜かしたグリムがこちらに気付き、涙目で足の後ろに隠れた。
     デスクライトとパソコンの光。その逆光に照らされた人物が、肘置きに腕を立てて頬杖をついていた。丸眼鏡が不気味に光を反射し、にやりと笑う。
    「コイツ! さっき見た映画のマッドサイエンティストだ!」
    「失礼だよ、グリム」
     腕をぴっと伸ばして指し示したグリムの腕を下げさせる。グリムが言うのは、最初に借りた方じゃなく、今返しに持ってきた方の映画だろう。確かに丸眼鏡はしていた。でも目の前の人物は、帽子のような物をかぶった隙間から髪の毛がちらりと見えている。映画の博士に髪は無かった。それに丸眼鏡も黒いサングラスだった。
     何故かエースとデュースは「あー……」とどこか納得したような声を上げた。
     丸眼鏡の人物が喉の奥で、くっ、と笑う。
    「へえ、なんでそう思った?」
     地の底を這うような、かすれた低い声だった。
    「丸い眼鏡! それに車椅子! その帽子だって脳みそがこぼれないようにしてるんだろ!?」
     よく見たら、椅子だと思っていたそれは車椅子だった。確かに、博士は頭が蓋のようにぱかっと外れて、脳みそをよく落としていた。帽子、これはボンネットだ。鍔が広く顔の輪郭に添わせるようにして、リボンがしっかり首の下で結ばれている。
    「でも、あの博士に、脚はあっただろう?」
     ゆっくりと、見せつけるようにして、その指先が制服のスラックスに包まれた太ももを辿り、すぅっと裾を持ち上げ、はらりと落とした。膝から先が空っぽだった。
    「ぎゃーーーーー!!! 脚もねぇ~~~!! 博士のゴーストだ~~~!!」
    「俺の脚をお探しか? ほら、ならそこに……」
     パソコンデスクに立てかけるようにして、脚がそこにあった。
    「脚のゴーストだ~~~!!!」
     グリムはもう完全に泣いていた。どう見てもそれは義足だったのに。
    「ははっ! あはははは! もうダメだ! 我慢できねぇ! キュリアス先輩脅かし慣れしすぎでしょ」
     エースが耐え切れずに噴き出し、腹を抱えて笑う。
    「んんっ、グリム。大丈夫だ。キュリアス先輩はマッドサイエンティストでもないし、ちゃんと生きた人間だ」
     デュースも笑いがこらえ切れていない。
     そこで部屋がぱっと明るくなった。見上げるとちゃんと天井にもライトがついてる。
    「いやぁ、脚のゴーストとは恐れ入ったな。その発想は斬新だ。ホラー映画の才能があるよ、グリム。それにオンボロ寮の監督生。よろしく、ハーツラヴュル寮三年のキュリアス・マーチだ」
    「ユウです。よろしく」
     声は地声だったのか、少しかすれている。
     それになんだか目立つ恰好の人だった。正直制服に似合ってるようには見えないボンネットもそうだし、丸眼鏡にはストラップチェーン。彼が動くとチェーンに着いたパールが揺れる。大きな目と意思の強そうな眉。そして何より気になったのが、その首。
    「何をしてリドル先輩に首を撥ねられたんですか?」
     最近では見かけることが減った、リドルのユニーク魔法だ。
    「一週間授業をさぼった。リドルの散々の忠告を聞かずにな。映研と合同で撮る映画の台本書いてたんだ」
     あまりにも妥当な判断だったし、この人は全然反省していない。
     彼が視線で示したパソコンには文字がびっしり並んでいた。今も執筆中のようだ。
     きっと出席日数も補修も織り込み済みで、〝首を撥ねられるぐらいですむ〟と考えてるのがあっけらかんとした口調から想像できた。
     エース達が「怖いものを知りすぎてマヒしてる」と言った意味がよくわかる。
    「ヴィル先輩そういうの怒りそうですけど」
    「だから内緒な」
    「オレ様主役になってやってもいいゾ」
     キュリアス先輩がホラー映画の住人でないとわかった途端、グリムはすぐに調子を取り戻した。
    「せっかくだが、俺は役者に合わせて台本書くタイプなんだ。そのうちグリムにしかできない役でお前のための台本書いてやるよ」
    「やめといた方がいいと思うぞ、グリム。先輩が書くならきっとホラー映画だ。それの主役なんてきっと一番怖い目に会う」
    「ふなっ!?」
    「俺の教育が行き届いてるようで嬉しいよデュース」
    「ねえ、せんぱーい、なんかいい映画ない?」
     すっかり勝手知ったる様子で、ラックの間をうろうろしていたエースがひょこっと頭をだした。
    「雑な聞き方なぁ、オイ。せめてジャンルを言え。それか、いい映画が観たけりゃ配信サイトで星5がついた作品観とけ」
    「あーあー、スミマセンでした。毎月サブスク料金払うほど映画観ねぇんだもん」
    「『クリムゾン・レイク』。若いころのエリック・ヴェニューの怪演はすごいぞ」
    「山奥のコテージで殺人鬼に次々殺されるやつでしょ? 殺人鬼モノはパス」
    「なんでだよ」
    「オチが分かってるんだもん。誰か最後一人生き残って終わり」
    「痛そうすぎるのもちょっと」
     エースの言葉尻に乗っかる。
     キュリアス先輩はむすっとした顔をしながらも、エースの失礼な言葉の数々に、怒りはしない。グリムの失礼な態度にもからかって返す余裕があった。
    「なんでホラー映画観ようとしてんだお前らは。『羊たちの沈黙』は? ミステリー寄りだから展開も楽しめる」
    「それ、〈殺人鬼・カニバリズム〉の棚にあったでしょ」
    「サイコスリラーはスラッシャー映画じゃないだろ」
    「そういうこだわりいいんで」
    「俺、ミステリーとか話が複雑すぎるのもちょっと」
     今度はデュースが乗っかる。
    「注文が多いな。かわいい一年生どもめ。〈ゴースト・感動〉系の棚は来る途中にあっただろ。『アザーズ』『シックス・センス』『ババドック』『MAMA』勝手に持っていけ」
    「サンキュー先輩!」
    「ありがとうございます! キュリアス先輩!」
     そう言ってエースとデュースはラックの向こうへ姿を消した。グリムも「オレ様にも選ばせろ!」とついていく。
     それを見守って、キュリアス先輩が、はぁ、と深くため息をついた。
    「お前ら、殺人鬼に襲われたらどうするんだよ」
    「どうする、って……」
     ホラー映画は映画の中の話だ。ゴーストはいるけど、殺人鬼と言われるとピンとこなかった。実体験で思い出すと、怖い存在と言えばむしろファントムだ。
    「ネットニュースは見るか?」
    「えーっと、最近だとアザラシ保護施設に寄付が集まって、」
    「ここ数年だと同一犯だと言われている〈完全密室女性連続焼死体事件〉が既に5件。同一犯かは不明だが〈少年バラバラ死体遺棄事件〉が最初は薔薇の王国で2件。1年前に輝石の国で北から南下するように3件。1ヶ月前にはここ、黎明の国で。賢者の島の真南にある地域だ。世界中で行方不明者が何人いると思う? 身元不明遺体の数は? 死体すら発見されてない可能性もある」
     目が血走っていた。大きな目を見開き、瞬き一つしないで。車椅子から転がり落ちそうなほど身を乗り出している。ガリリ、と音がした。見ると肘掛けに爪がめり込んでいた。手に血管が浮き出て、爪が剝がれそうなほど強く。
    「あの……!」
     自分でもびっくりするほど大きな声が出た。事件の話より、何より、さっきまで優しかった面倒見のいい先輩の豹変が怖かった。
     キュリアス先輩は、ぴたり、と口を閉じ、ゆっくりと目を閉じた。背中を車椅子に戻し、大きく鼻で息を吸って、止め、また大きく口から吐き出した。
     数秒。先輩はまだ目を瞑っている。
     心臓の音が早すぎて、自分の胸から鳴っていると今ようやく気付く。
     ぱっと先輩の目が見開かれる。
     そして、にこっと音が出るような笑み。
    「怖かったか?」
     な、
    「なんなんですか、も~~~」
     どっと、体中の強張った筋肉が緩んだ。無意識で歯を食いしばっていたのか、顎が痛い。酸欠で頭がくらくらした。
    「アザラシ幼稚園かわいいよな。動物系の映画もあるから好きに持って行っていけ」
     そう言うとキュリアス先輩は器用に車椅子を動かして、パソコンに向き直る。
    「……ちなみに動物って?」
    「サメ、アナコンダ、鳥、蟻」
    「ちなみに、人間はどうなります?」
     嫌な予感がして、聞くと、キュリアス先輩は少し振り向いて、
    「ここにあるのはホラー映画だけだぜ」
     にやり、と笑った。
    「実は羊もウサギもカブトガニもナマケモノもある」
    「ナマケモノも!?」
     ちょっと気になってしまった。

     ホラー映画迷宮から脱出すると、廊下で三人が待っていた。
    「ユウ、見ろよこれ」
     はずむような声で、エースが白い箱状の物を顔の前に突きつける。反射的に受け取った。白い部分はカバーケースのようだった。中身を取り出すと本体の黒いプラスチックがあらわになる。
    「これって」
    「ビデオテープ! すっげーアナログだよなぁ」
    「なあ子分! はやく戻って観てみようぜ!」
     真っ黒いビデオテープ。ラベルも何も中身の手がかりになるものはない。
    「エースが持ってきたんだ。他のとは違うから、まずいんじゃないかって話してたんだ」
     そう言うデュースも中身が気になってるのは同じなようだ。強く反対するつもりはなさそうだった。
    「戻って先輩に聞けばいいのに」
    「ばっか、お前、中身が分からない謎のビデオテープだから面白いんじゃん」
     確かに。何も映ってないテープだとしても、それを確認するまでのスリルを今すでに感じて、どこかわくわくした気持ちになっている。
    「大丈夫だって。〈ダスト〉って棚にあったんだから、ゴミなら問題ないだろ」
    「まあ先輩も好きに持っていけって言ってたしね」
     大事なものなら自分たちが手に取れるところに置いたりはしないだろう。
    「ところで、これどうやって再生するの?」
    「「あ」」
     エースとデュースの声が重なり、グリムはきょとんと首を傾げた。

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