白い肌には赤面が映えるから「なぁ、キスってどんな感じ?」
勝手に部屋でくつろぎ尽くしている悟が、不意にそんなことを口走った。傑は読んでいた本から顔を上げて、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「なんだい、突然」
「いやずっと気になってたんだよ。どんな感じなのか」
「悟ってキスしたことないの?」
「俺がそんな遊びできるような身分だと思う?」
なるほどね、と傑は悟の灰色の青春を思う。いや、なにも恋愛に明け暮れることだけが青春のすべてではないのだが。傑にとっては切っても切れない事象だっただけに、それを許されてこなかったひとというのは興味深い。
ふむ、と傑は少し考える。
「ここは私と悟以外、誰もいないよね?」
「は? そうだけど」
ベッドの上に座る悟の隣に手をついた。じっとこちらを見つめる蒼の瞳はきらきら少年のように煌めいていて、眩しかった。
「特別だよ、悟」
傑は息をするように顔を近づけて、悟の大きな手がぎゅむりとそれを阻む。傑がなにをするつもりか察したらしい。
「本気か?」
「うん」
「ふぅん」
悟の手はすぐに退いた。白いまつ毛がひゅうと立ち上っていて、平然とそこにあった。
「わかった」
「聞き分けがいいね」
「まぁな」
「そう」
傑は鼻がぶつからないように少しだけ角度をつけて、悟に口づけた。ふわり、悟の香り……言い得ない不思議な香り……。悟の唇は柔らかく、つやつやして、甘かった。これは迂闊に人間が触れて良いものではないな、と傑はふと思った。
しばらく両者ともじっとしていたが、傑が口を離すと、悟が無意識にか息をすぅと吐いた。呼吸を止めていたらしかった。
まだすんとしている悟に、にこりと傑は微笑む。
「感想は?」
悟は顔横の髪をちょいと触りながら、小さく言う。
「……傑、意外と唇やらかいのな」
「はは、そう?」
「サンキュ」
悟はベッドからのそのそ降りて傑から遠ざかっていく。
「どこ行くの?」
「トイレ」
「そう、いってらっしゃい」
ばたん、部屋を出た音。ひとり残された傑は、
「……かわいい」
と、妖しく微笑んだ。