一生残らない「悟」
無視した。悟は自分の胸元にできた瘡蓋を触っていた。かり、かり、と無機質な音が部屋に響く。
「悟、やめな」
「んー」
「やめなさい」
「ん!」
びり、と破れたような気配。目を向ければ瘡蓋だったそこはまた傷跡に戻り、血が出ていた。それを認めたのは傑も同じで、
「あーあ、知らないよ」
と溜息をつく。悟は血を指ですくって舐めて、すくって舐めて、を繰り返す。傑が手首をぎゅっと取った。
「それもやめな。悪い癖だよ」
「いーじゃん別に」
簡単に振り払える力しか込めていなかったあたり、本気で止める気だったわけではないのだろう。
「傑が痛いわけじゃ無し」
「心が痛むってものさ」
「心なぁ」
外は初雪を披露していて、そのおかげか妙に静かだった。傑の部屋には暖房がうぉんうぉんと稼働する音だけが断続的に響いて、しかし些かの肌寒さを横たえていた。
1047