8/28無配(予定)パソコンのディスプレイに『送信完了』の文字が映される。それと同時に鳴子章吉は背後のクッションに倒れこんだ。
「あー、やっとレポート倒したで……。こないにキツかったんか、レポートっちゅー奴は」
いつの間にやら日も落ちて、暗くなったワンルームでグダグダと独り言ちながら、鳴子は寝返りを打った。時刻は午後十一時半。大学生になって初めての期末レポートも無事終わったし、このままシャワーを浴びて寝てしまおう。そう思いながらふと意識を周りに向けると、視界の端で充電中のスマートフォンの画面が点灯した。
何気なく拾い上げ、ロック画面を確認する。画面に映るそれはメッセージアプリの通知であった。送信者の名前を認識した瞬間、レポートで枯れ切っていた鳴子の脳は再び働きを取り戻す。映し出された『今泉俊輔』という名前と、『おやすみ』という端的なメッセージに、鳴子は思わずロックを解除しメッセージアプリを開いた。既読をつけて『起きとったんか』と返す。それからしばらく画面とにらめっこしてみたが、既読の二文字はつかない。諦めて悶々とする感情を引きはがすように立ち上がると照明を点けカーテンを閉め、風呂場へと向かう。頭の片隅でスマートフォンを気にしながら服を脱ぎ去り浴室に入ると、シャワーのコックをひねった。
――最後に今泉と会ったのはいつだろう。
四月、いや五月?シャワーを浴びながら鳴子は頭をひねる。大学生とは暇なようで忙しいもので、鳴子は空きコマがあれば自転車部の自主練やアルバイトを予定に詰めていた。それは今泉も同様らしく、二人の時間は確実にすれ違っていた。高校の頃は毎日のように顔を合わせていたのが、大学に入ってからはだんだんと減っていった。アプリでやり取りするメッセージの回数も、そもそもそこまで頻繁ではなかったものの、物理的に会わなくなるとなんだか気になってくるもので、柄にもなくその日のやり取りを見返したりなどしてしまうのであった。シャンプーを泡立てながら、自分がそうしてしまうということは今泉にだけ特別であり、他の人間には一切したこともなかったし、今後もしないであろうと鳴子は思った。なぜなら今泉と自分はいわゆる恋人同士だからだ。関係は高校生の頃から続いていて、卒業する時も引っ越す時も特に関係の変化を言及しなかったが、だからこそ続いている。そう思うのだが。
お互いがどれだけ相手のことを好きかは十二分にわかっているつもりだ。しかし、時折その信念が揺らぐことがある。
鳴子はそこまで考えて、らしくもない弱音を鼻で笑い、シャワーを済ませて自室に戻った。
癖で取り上げたスマートフォンの画面に、新着通知の表示はなかった。