人魚の恋表面上は仲のよい兄弟として振る舞ってはいるが、竜胆はずっと兄に恋い焦がれていた。
兄の横にいるのは常に自分だったし、モテる癖に女っ気がない蘭に安心しきっていたが、ある日兄と三途の情事を目撃してしまう。
激しくショックをうけるが、兄に問い質せずにいる竜胆。
そんな折、抗争の後始末として蘭、竜胆、三途の三人で梵天優位での和解を行うべく会食に参加する。
会食は滞りなく終わった。
しかし、帰り際、迎えの車に乗り込もうとしたところで和解内容に納得のいかない若いチンピラが鉄砲玉よろしく飛び込んでくる。
手には拳銃とライター、腰にはダイナマイトを巻き付けていた。
蘭は咄嗟に竜胆を、三途は蘭を庇う。
爆発音の後、竜胆が起き上がるとそこには血に濡れた兄と三途が倒れていた。
特に三途は兄を庇い爆発をもろに食らったため、もう助からないことが一目でわかる有り様だった。
「竜胆…」
呆然と立ち尽くす竜胆を三途が呼ぶ。
「蘭は無事か?」
「あぁ…。」
「俺はもうダメだわ。痛みすら感じねぇ。最後にアイツ抱きしめたかったけど、腕が…ねぇや…。」
三途が笑う。
竜胆はただただ立ち尽くすことしかできない。
「アイツはけっこう脆いところがある。だから…ずっと…側に…い…てやっ…て…」
ゆっくりと事切れる三途。
「言われなくても、ずっと側にいるよ…」
竜胆はそう答えるだけで精一杯だった。
蘭を守った三途、蘭に、延いては三途守られた自分。竜胆は言い様のない敗北感を味わう。
蘭は重症ではあったが、命に別状はなかった。
ただ爆風のせいで目が見えなくなっていた。
面会の許可がおり、竜胆は蘭の見舞いへと向かう。
蘭に会えるのは嬉しい。しかし、三途の死を伝えなければならないことを考えるとその足取りは重かった。
三途の遺品である、あの日着ていたスーツの上着を手に竜胆は病室に入る。
「春千夜…?」
上着に染み付いた香水の匂いに蘭は愛しい三途が見舞いに来てくれたのだと思い、声をかける。
「無事で、よかった…よかった…」
包帯に覆われて見えないが、その声は震えていた。
唯一の将と崇めていたイザナが死に、何よりも大切にしていた天竺がなくなり、六波羅で望まぬままサウスに付き従い、梵天で多くの死を間近に見てきた。
ギリギリのところで保たれていた蘭の精神は三途の死で完全に壊れてしまうと思った。
だから、だから…。
竜胆は三途として生きていくことにした。
幸い、身長や髪型は似ている。口の傷はマスクで隠し、声を出すとばれるので喉を負傷したことにして、蘭の手に指で文字を書くことで会話する。
数ヶ月の入院の後、蘭は退院する。
角膜移植でもすれば、目は見えるようになるかもしれない。だからといって、すぐに角膜提供者が見つかるわけではないし、今は休養しろとの温情で蘭は無期限の休暇となった。
No.2の死は痛手である。だから、竜胆が三途のフリをすることを組織としての梵天は容認した。
しかし、昔から馴染みの幹部たちは問う。
お前はそれでいいのか、と。
悲願であった兄を恋人として独占ができるのことに竜胆も最初のうちは幸せだった。
けれど、情事の際に甘い声で呼ばれる名前は自分ではない男。
最初の日に安否を確認された以外、自分の名前は出てこない。
兄が求めているのは自分ではない事を嫌でも自覚させられる。
あまりに蘭が三途の名前を呼ぶので、何もかも放り出したくなり、自分は竜胆であること、三途は死んだ事を告げ、無理矢理蘭を抱く。
竜胆として蘭を抱くことができた満足感は一瞬で、あとは罪悪感だけ。
「ごめん…」
そう一言残して竜胆は蘭の前から消え去ってしまう。
数ヵ月後、蘭に角膜提供者が現れ完全にではないが日常生活を送れるほどに蘭の目は回復する。
それから数年。
蘭は竜胆を探し続け、ようやく見つけ出す。
見つけ出した竜胆の目は光を失っていた。
蘭に角膜を提供したのは竜胆であった。
「本当は三途が死んだって分かってた。でも、受け入れられなくてお前の優しさに甘えていた。愛してる。だから、もう何処にも行かないで。」
「兄ちゃんはずるいね。」
結局、死んだ男には敵わないと理解しつつ、それでも蘭と一緒にいることを竜胆は選択した。
そんな雰囲気でおわり~。
ちなみに地獄のオメガババージョンも考えたけど、蘭がかわいそ過ぎてさすがに止めた。
三途はギリ生きていたけど、嫉妬に駆られた竜胆にトドメをさされる。
蘭に三途と誤認させたのは上着に残ったαのフェロモン。
ヒートに苦しむ蘭は海の泡に消え、
俺がしたかったのはこんなことじゃないんだと後悔する竜胆。
うん、地獄すぎる。