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    天庭まほろ🌱

    マイハ関係やうちの子のSS多しだよ!

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    天庭まほろ🌱

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    幸せそうな🔒君のリクエストを受けて書き書きしました!

    いつかの音楽室で マインドハックを完了させるには 更生対象の意識の奥深くのソースコードに触れなければならない。

    「うう…」
    今回のマインドハック対象、イーヴリッグ君、いや…コウスケ君が苦しそうにしている。相手の意識に干渉する接続は少なからず脳に負荷がかかっている。施術は速やかに行わなければならない。が、今回は珍しく、少々難航していた。
    「(もっと…深く…深く潜ろう…)」
    私は集中し、彼の深淵へ手を伸ばす。周りにはバグらしき黒い結晶がいくつも漂っている。その一つ一つに彼の記憶が浮かび上がっている。その一つが私の目に止まる。
    「これは…」
    それに触れた瞬間、ふと目の前が暗黒に呑まれ…
    気がつけば、私は見知らぬ土地に立っていた…。

    「ここは…?…さむ…」
    周りは一面に雪が積っており、今もなお粉雪が降り注いでいた。私の服装は施設内と同じスーツの一着だ。凍え死んでしまいそうだった。
    「なーなー!帰ったらお前ん家で遊ぼうぜ!」
    声に顔をあげると、目の前には古びた、年期がありそうな建物。その中から子供が3人話し合いながら出てきた。
    「ねえ君たち、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
    そういって声をかけようと近づいた瞬間だった。彼らは自分を通り抜けて道路沿いに繋がる門から出ていってしまった。まるで幽霊になったみたいだ。
    「そうか…皆には私が見えないのか」
    最初はぼんやりしてた頭が少し回ってきた。きっとここはコウスケ君の記憶の中なのだろう。とすると…近くにコウスケ君がいるはずだ。彼の事を知るためにもこの記憶を探らねばならないな。
    とにかく外は寒いので建物の中に入って適当に歩き回ってみた。そうしてわかったが、ここは小学校みたいだ。下駄箱に、渡り廊下、理科室…。過去をあまり思い返す事をしないせいか、懐かしいとはあまりならなかったけど、放課後の静かなこの場所は少し気に入り始めていた。
    「…?リコーダーの音?」
    階段の上の階から、僅かに聴こえる笛の音に耳を傾けながら辿る。その部屋は音楽室と書かれていた。静かにそのドアをスライドさせて開けてみると、子供が一人、ポツンと、机の上の楽譜を必死に見ながらリコーダーを吹いていた。その音色はお世辞にも上手いとはいえないものだった。
    「わ…誰ですか?」
    ドアを開けて入ってきた私に向かって、子供は驚いた表情を浮かべていた。
    「……私が見えるのかい?待って、君は、コウスケ君?」
    「…どうして僕の名前を?…先生の一人じゃないですよね…見たことないもん」
    「あ…えーと… …そう、私は音楽室の幽霊さ」
    「え!?ゆ…?」
    「音楽室といえば幽霊だろう?」
    と、どこで見た怪談話で正体を誤魔化した。
    「それより君は何をしてたんだい?」
    「え、と…リコーダーの練習。明日テストなんだけど、全然上手くできなくて…」
    「へえ、なんの曲?」
    私は彼が弾いていた楽譜を覗き込んだ。
    「ああこの曲は知ってるよ。古いけど私の好きな曲だ」
    「そうなんですか…?」
    楽譜を少し借りるねと手に取り、私は音楽室の隅に置かれたピアノの楽譜置きに置いた。ピアノの蓋を開けて、ポン…と鍵盤を指で鳴らす。
    「幽霊さん。ピアノできるの?」
    「嗜む程度にはね」
    ポロロンと調整が行き届いてるのを確かめると、私は楽譜の音符の調べに合わせて指を走らせる。


    パフ 魔法の竜が 暮らしてた 低く秋の霧 たなびく入江
    少年ジャッキーは 友達で 毎日仲良く 遊んでいた


    「わあ、すごい…」
    「隣に座りなよ。少年」

    座ってる椅子から少しずれて彼を呼ぶ、オドオドしながらも彼は私の隣へ座った。


    パフはボートを 漕ぎながら ジャッキー尻尾に乗せて 海原をゆく
    海賊船は 驚いて すぐに旗を下ろし 挨拶した


    「リコーダーの練習に必死すぎて気づかなかった。こんな歌詞なんだ…」
    「音楽は楽しんでやらないとね」
    「そうですね…でも僕何も上手くできなくて」
    「…まあ今は肩の力を抜いて、曲を楽しんでみたらどうかな」
    「曲を…」

    やがてジャッキーは 旅に出て パフはただ独り 寂しく暮らす
    そして今も 入江には パフの声がして 海が騒ぐ

    ひとしきり演奏を終えて、ふうと息を漏らす。
    「…ねえ幽霊さん。ジャッキーはどうしてパフを置いて行っちゃったの?」
    「…さあ、歌詞には旅に出たと書いてあるけど、大人になって、他に友達ができて、パフを忘れてしまったのかもね」
    「…友達だったのに?なんか…かわいそう」
    「うん…かわいそうだけど、人は変わっちゃう生き物だからね。…君がパフをずっと忘れないでいてあげればいいんじゃないかな?」
    「……僕が?」
    「そう、パフを思いながら吹いてごらん」
    私は再び冒頭の音をピアノで奏で、彼はリコーダーに息を吹き込んだ。辿々しくも、さっきよりも情緒的な音色を紡ぎ始めた。私は今まで、こんなふうに誰かに音楽を楽しむことはなかったけれど、いつもより…何か…

    『ドクター。これ以上のセッションは脳に負荷がかかりすぎます。ここまでにしましょう。お疲れ様でした』

    ポーン。の音と共に、私は現実に引き戻された。
    『体に異常は感じられますか?少しバイタルの乱れが感じられます。今日はここまでにしましょう』
    「うん…今回はちょっと手こずってるかも。心配してくれてありがとうフォーマット」

    ガラス越しに私はコウスケ君の方を見た。彼もまた疲れた顔をしていた。
    「(…ちょっと楽しかったな)」
    なんて、私は少し思いながらデバックルームを後にした。


    ーーハックを受けた後は、少し意識がぼんやりする。頭をいじられてるんだから、そりゃあするとは思う。でも今回は何か少し違った。いつものような乗り物酔いみたく気分が悪くなったりはしなかった。かなり長い間、あの先生と繋がってたみたいで、時計を見るととっぷり日が暮れている時間だ。ただ僕の宛がわれた部屋に窓はないから、宵闇を拝むことは叶わないけど。
    がらんとした部屋にベッドが一台。すぐ疲れた体を横たえた。
    「……」
    あの時、何を見たんだっけ…。

    「…魔法の竜が 暮らしてた 低く秋の霧 たなびく入江……」

    … …なんで、この曲が口から出たのだろう……何か…忘れてる気がする。

    その日の夢は、とてもはっきり覚えている。僕は霧がかる海の側に立っていた。海なんてテレビや写真でしか知らないのに、目元を吹き抜ける温い潮風の揺らぎさえ感じるほど鮮明な夢だった。知らない場所なのに、なぜかここを知っている。
    すると海の方から、大きな影が近づいてきて、波間から顔を出した。大きな体、緑色の鱗を持ち、霧を吹き飛ばしそうな翼。そして、暖かな青い眼をした竜だった。

    「パフ…?」
    竜は名前を呼ばれると、嬉しそうに目を細めて顔を擦り寄せてきた。
    「…ああ、そっか。独りにして、ごめんね」
    いつかの日、子供の頃に忘れていたものを一つ取り戻したような…そんな暖かい夢だった。
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