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まさに犯行の瞬間を目撃してしまった。
「あ! つまみ食い!」
「チッ」
畑仕事を手伝った帰りに水を一杯もらおうと厨に足を踏み入れたところだった。調理台の上には焼きたてと思われるクッキーがずらりと並べられていて、その一枚を肥前が口に入れるところを私は目撃した。
私の言葉に肥前は小さく舌打ちをすると、いかにも面倒くさそうにじろりと私を睨んだ。とても主に対する態度とは思えない。
「……うっせえなあ。別にいいだろうがよ、こんなにあんだから一枚や二枚ぐらい」
「いやいや、ダメでしょ~。ちゃんと枚数計算して作ったのかもしれないじゃん。もし『みんなに配ろうと思ったのに数が足りない~』なんてことになったら『肥前がつまみ食いした』ってちゃんと言うからね」
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