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    ひなせ

    @Late162018httXx

    物書き。マイペースにpkmnメインに書いてます。 取扱:grao
    (今後書きたい:sgao、grao←sgr
    いつか書きたい:amlk)

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    ひなせ

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    お久しぶりなグルアオ。
    めちゃくちゃ時間がかかり、時期外れもいいとこだし想定以上に長くなってしまった💦
    書きたかったシーンが上手く出来ていると良いですが…

    季節ハズレのジングルベル「わたし、その…グルーシャさんが大好きです…!!」

     一世一代の告白。雪は優しく深々と…とはいかずそこそこ吹雪いているある冬のナッペ山ジム。
    拗らせた遅い初恋は想いを伝えろと張り裂けんばかりに心に叫び続けて向こう見ずな性格も相まって今しかないと想いの丈をしっかりぶつけてしまっていた。どうなりたいかとかどうしたいのかとか何も考えず、ただ伝わってほしい、そう願って。
     下を向き固く瞳を閉じて数秒、体感時間は数十分。変わらぬ風の音とひんやりを通り越して寒さが身に染みてきた頃、眼前の人からの返答どころか交わされる言葉もなくあれ?と思いながら顔を上げ瞳を開けば微動だにせずわたしが声をかけた時の姿勢のままどこか遠くを見ているような感覚。え……不発に終わった?そんな不安なわたしをよそに漸く口を開いて語りかけてくれる。

    「…それで?ぼくと付き合いたいの?」
    「え!?あの、それは……」
    「いいけど。でも、期待はしないで。今のあんたに何かするとかないから」

     淡々とそれだけを告げると踵を返してジムに吸い込まれていくように姿が見えなくなるグルーシャさん。ひとり残されたわたしは酷い吹雪に身を委ねながらも呆けるしか術がなくてグルーシャさんの言葉の真意に頭を抱えることになる。

     
    「……………………わからない」

     吹雪の中の告白から数週間、ナッペ山より少し遅れてテーブルシティも気付けばすっかり冬模様になりテーブルシティもチラホラと粉雪が舞う煌びやかな季節。街は華やか、イルミネーションに彩られ明るい鈴の音の音楽や赤と緑を基調としたモチーフが所狭しと展示されている。その彩りを見つめる度溜息ばかりが溢れてしまう。あれ以降ジムに行くことも出来ず、かろうじて交換してあったメールアドレスにも連絡することも出来ずそして来るわけもなく、刻々と時間は進み気付けば街中が恋人たちで華やいで幸せな空間を作っている中わたしは1人アカデミーの食堂で言葉の真意を考えながら来ることもないメールを確かめては落胆しての繰り返していた。

    「そもそも……付き合うって何するの?」

     根元が理解出来ていないから余計にわからず頭を抱えてしまう。だけど、付き合うってことはお互いに気持ちが通じ合って言葉を交わし合って…とかじゃないのだろうか。テレビの押売りなのだけど。
    それに、「付き合ってもいい」なんて言っていたけど「好き」だとか、そういう言葉はでてこなかった。だから、グルーシャさんはわたしに気持ちなんてあるの?
    なんて、そんなことばかり頭を過りそして抱える、揶揄って言っていただけ?……いやいや、グルーシャさんに限って。答えの出ない自問自答を繰り返してまた初めに戻る。だからわたしは少し後悔をし始めていた、「言わなきゃ良かったのかも」と。
     過った瞬間、首を横に振り両手で頬を叩く。そして意を決して立ち上がる。迷いを振り払い、うだうだと考える前に即行動!わからないなら聞いて仕舞えばいいんだ、悩みすぎた思考は安直な考えにシフトして取り急ぎ彼の元に馳せ参じようと身支度を簡単に済ませて食堂を飛び出す。「わたしのこと、どう思ってあの言葉を告げたのか」そう訊ねるために。悩みすぎて忘れてしまっていたけれど、本来は考えるより先に身体が動いてしまう性分だったのだ。


    「こんにちはー!グルーシャさんいますかー!」

     高鳴る心臓を隠しながら普段通りに振る舞い、ナッペ山ジムの受付でスタッフさんに訊ねる。

    「おっ、アオイさん。こんにちは、なんだか久しぶりだね。今丁度ジムテスト中で、終わればそのままバトルになるからもう暫く時間がかかるなぁ。ごめんね。」
    「そ、そうですよね、いま課外活動の時期でしたね。お忙しい中すみません!大した用じゃないので今日は帰ります。また日を改めて来ます!」
    「え、折角来てくれたのに…。大丈夫?何かあったんじゃないの?少し待ってくれるなら伝えてくるけど…」
    「ご心配に及びません!本当に大したことじゃないので…、すみませんお邪魔しました!」

     向こう見ずな自分が今更ながら恥ずかしくなってきた。普通は予定を聞くのに、どうして今までそれに気づかなかったのだろう。赤面をした頬を隠し誤魔化すように笑い笑顔で会釈する。早く立ち去ろうと受付に背を向け駆け出した瞬間に柔らかいものにぶつかる。ふわりといい香りが鼻腔を通り抜けて体躯は一瞬で暖かさに包まれる。
     
    「改めなくていいよ。すぐ終わらせてくるからちょっと待ってて。」

     頭上から低い声が降り注ぐ、恐る恐る顔をあげてみると視界に広がる綺麗な水色の髪。

    「え!グ、グルーシャさん…!ごめんなさい!あの、その…」
    「何を焦ってるの。あんたらしくもない。用があったんでしょ、ココアでも飲んで待っててよ」

     勢いよくグルーシャさんから離れて慌てふためき言い訳をしようと言葉を繋ぐけれど何も思い浮かばなくて口継ぐんでしまう。それを無表情で制して受付のソファにと示唆するグルーシャさん。わたしを一切視界に入れないままだ。

    「え、でも…お忙しいそうですし」
    「しつこい。何回も言わせないで。ねぇ悪いけどアオイにココア、出してあげて」

     冷たい一蹴した言葉と視線。背筋に冷たいものを感じたわたしにそれだけを言い残し、あとは受付のスタッフさんに向けて声を上げ軽やかな靴の音を鳴らしながらバトルコートに向かうグルーシャさんの背を呆然と見送るしか出来ない。

    「……あー…えっと。言葉足らずでごめんね、とりあえず待っててやってくれる?甘いものは平気?」

     立ち尽くすわたしを見兼ねたように困ったように笑い優しく問い掛けてくれるスタッフさん。その優しさに少し安堵を覚えて泣きそうになる。

    「大好きです…。あ、あの、ありがとうございます。でもごめんなさい、急に来たからやっぱりグルーシャさん怒っちゃいましたね…」
    「怒ってるわけじゃないし悪気はないんだけど、でもあの言い方は吃驚しちゃうよね。いつもあんな感じでごめんね」
     
     慰めるようにおどけて笑い、更に泣き出しそうなわたしのために温かいココアを渡してくれたスタッフさんにも申し訳なさが沸いてくる。けれど、グルーシャさんの口調はいつも突き放すような言い方だけど言葉の奥には優しさが隠れている。それはわかっているし慣れた筈だったのに。それなのにどうしてこんなにショックを受けているのだろう。でも実は気が付かなくて、自分が良いように解釈してるだけで本当はいつも怒っていたのかもしれない。そう思うと落ち込んでる気分が更に降下して地面に真っ逆さまに落ちていくような感覚になる。
    ふと目を逸らせば窓から外のコートが見えることに気づく、そこには今始まったばかりだろうかグルーシャさんと挑戦者のバトルが勢いよく歓声とともに白熱していく。序盤からトリッキーな技に翻弄されペースを崩し焦りを浮かべる挑戦者とは対照的にいつもと同じように冷静で表情ひとつ崩さないグルーシャさん。的確に技を指示して急所に持っていき、相手は惑わされているばかりだ。
     
    「(今のわたしみたいだなぁ。バトルなら上手く出来るのに、どうしてこうも上手く伝えられないかな)」

     苛烈さを増す技の応酬と深々と舞う雪の中のテラスタルの輝き、どれも綺麗で刹那的で魅入ってしまう。高まる歓声と叫声と艶声が混ざり合っている。それでも冷たい眼差しのまま目前のバトルの行方を見つめるグルーシャさん。わたしを見る瞳もそれと同じだ。彼にとってわたしも群衆の一部でしかないのかもしれない。そう思うと更に溜息が込み上がってくる。
     
    「お待たせ。ちゃんとココア貰った?」
     
     そんなことを考えていると頭上から響きハイトーン。慌てて表情を上げると先程と同じ表情といで立ちをしたグルーシャさんが横に立っている。

    「グルーシャさん…。ってあれ?もう終わっちゃってました?」
    「あんた、何見てたの。随分前に終わってたでしょ。」
    「あはは―……」

     笑いながら誤魔化す。どっぷりとマイナスなことばかり考えていたなんて言えるはずもなかったから。そんなわたしの様子を一蹴するだけで言葉は交わさず対面になるように反対側のソファーに腰を下ろす。そして持っていたらしい缶コーヒーのプルタブを開けながら言葉を落とされる。

    「で?今日はなに。バトルしにきたの?」
    「……あ!いや、その…したいと言えばしたいんですが……」
    「じゃあコートに行こうよ」
    「いや!グルーシャさんの手持ちの子たちも休ませてあげなきゃだしすぐじゃなくて、その…」
    「煮えきらないな。何が言いたいの。」
    「………………あの!」

     眉間に皺を寄せながらコーヒーを口にするグルーシャさんを尻目にますます萎縮してしまい本来伝えたかった言葉が上手く出てこない。焦った挙句またすごく下らない話を口にしてしまう。

    「…………街、見ました?今イルミネーションとかいっぱいでとっても綺麗なんですよ。」
    「ふーん。最近下山していないからわからないな。それで?」
    「そ、そうでしたね。…じゃあ、来週末のこの日ってご予定なにかあります?」

     結局勇気がなくて本当の気持ちを言い出せなかった狡いわたしの一種の賭け。もし仮にでもわたしのことちょっとでも想ってくれてたりなんかしたら少しでも過ってくれているかもしれない、聖夜な日のことを。わたし1人だけ、胸をドキドキさせてグルーシャさんの表情を伺ってみる。次の言葉を待つ体感が長くて、息遣いまで聞こえてくる気がして背から冷たい何が流れ落ちてくる。

    「来週…?ああ、リーグの会合が入ってる。何か用事でもあるの?」
    「い…いえいえ、何も。その日辺りから寮も閉まっちゃうから実家に帰ろうかなとか思ってて、けどグルーシャさんはお忙しいのかなーとか思いまして」
    「ふーん。気をつけてね」
     
     適当なことを口走り言いたかった言いかけた言葉を飲み込む。良かった上手く笑えているし、ちゃんと誤魔化せてもいる。
    ……気付かない振りをしていてもやっぱりどこか心が痛い。やっぱりグルーシャさんにとってわたしは群衆の中の1人だし、きっと何も知らない子どもの取るに足らない告白をいなすための「付き合ってもいいよ」だったのだ。本当に気持ちがあるなら、この日を忘れるわけないのだから。夢を見てしまって馬鹿みたいだ。……だったら最初からはっきり否定してくれたら良かったのに。



     そのあと、どうやってジムを出てアカデミーまで帰って来たのか全く記憶にない。相変わらず街並みは幸せムード満開で明るい音楽と鈴の音が鳴り響きまもなく訪れるそれを歓迎しているように華やいでいる。けれどそれさえも今は無機質にしか見えない。それにアカデミーも丁度帰省の時期で良かった、勢いのまま決めて検討もしていなかった[[rb:実家>コサジタウン]]に帰ることも周りから何も言われることなくその波に乗れたからだ。帰る前にわたしはスマホロトムを取り出してグルーシャさんの連絡先を消してブロックをした。交換出来て浮かれていた自分がやけに恥ずかしくて仕方なかったから。それに。

    「(交換したって、やりとりしなきゃ意味無いもんね)」

     送ったこともなければ送られたこともない。それに送る必要も送られてくる理由だってない。用事があれば全てリーグ経由で来るのだから。
    それなのに舞い上がって告白なんかしてみてバカだったなぁ。あんな風に揶揄われただけで済んで良かったかも、もっと酷い人だったらもっと泣いてたかもしれない。なんて気落ちしながら帰宅の途につく。
    そして帰宅してお母さんの顔を見て安心したのか、はたまた普段の無茶が祟ったのか酷い風邪を拗らせ、散々な休暇になる。休暇が開けてもアカデミーすら復学出来ないほど寝込み、会わなくなってから気付けば2、3ヶ月が経って体力と共に気持ちもゆっくりと落ち着き初めていた。

    『随分としつこい風邪だったね、でも治って良かったー!アカデミーで待ってるからね』
    『うん、お見舞いにも来てくれてありがとう。早く戻りたいなぁ』

     漸く周りの友達にも連絡する元気も取り戻して、まずは帰省の傍、よくお見舞いに来てくれたネモと電話で色々とアカデミーの状況やらリーグの動きだとか教えてもらう。

    『そうそう、最近、ナッペ山のグルーシャさん。バトル中にもなんだかぼんやりすることが多くなったらしくって凡ミスが多くなっちゃってるらしいよ』

     一瞬どきり、と鼓動が跳ねた。けれども大きく深呼吸して不自然にならないように言葉を繋ぐ。

    『……そうなんだー。グルーシャさんらしくないね』

     スラスラと言葉が出てくる自分に吃驚だ、漸く恋心も諦めの方向に持っていけたのかな。だったら風邪を引いて寝込んでしまったけど結果オーライだったのかな。なんて自分に言い聞かせてみる。

    『そうなんだよね…、あ。アオイごめんね、呼ばれたから電話切るね』
    『うん、忙しいのにごめんね、またね』

     そう通話を終了させ、スマホロトムの電源をひとまず落として机に放置する。連絡先をブロックしてから行い始めたルーティンだ、そうすれば連絡が来ようが来まいが気にならない。忘れられたのだからにいつまでもこんなことをやっていても無意味なのに。ベッドに腰を掛け、何気なく部屋の窓から見える星をぼんやりと眺める、折角帰ってきたのに結局寝込んでゆっくりも出来なかったなぁ…。なんて考える。
     
    「(ぼんやり、か。グルーシャさんらしくないなぁ。何かあったのかな)」

     先程の会話がリピートされる、考えても仕方がないことだ。だってもうわたしは吹っ切れたしわたしが行かなければ会うこともない。そうわかっているのに。

    「(……気になってしまう。)」

     コツン コツン 窓から小さな打撃音が聞こえてくる。今日、風強かったかな?なんて思いながら窓辺に近づいて窓を開ける。そうそれも全て何となく。かちゃんと鍵が開く音がして開けると勢いよく飛び込んでくる突風。思わず瞬ぎ腕を前にして顔を隠す。髪は風に靡きながらふわふわと空に舞う。
    一頻り風が吹き落ち着いた頃にゆっくりと薄目を開く。すると眼前に広がる白と青の毛並み。窓の外でふわふわと羽根を羽ばたかせている。

    「…………チルタリス?なんでここに……」

     コサジタウンには生息しないはずのチルタリスがわたしの部屋の外を揺蕩うように空を舞っている。理解が追い付かず呆然と立ち尽くしていると、一鳴き。そして嘴に何やら白い物を挟んでいることに気付く。それをゆっくりとわたしの掌にのせて、円を描くようにくるくると周回して羽ばたいている。あまりの出来事に混乱しつつも手渡された紙を広げるとそこには急いで書いたような乱雑な筆跡と短文。[下を見て]
    紙の指示通り窓辺を乗り越えて下を覗くとそこには忘れようと必死になっていた水色の髪の彼がそっぽを向くように立ち尽くしている。

    「…………!」

     言葉にならず動揺しているとチルタリスは急かすようにバタバタと羽根を羽ばたかせている。早く行ってあげて、そう言っているようだ。よくよく見ればこの子はグルーシャさんのチルタリスだ。
    パジャマのまま、簡単にカーディガンだけを羽織り部屋を飛び出してグルーシャさんがいる階下に向かう。どうして、なんでこんな所に、こればかりが思考を埋め尽くす。
    幸いお母さんはもう眠っているようで、気付かれないように玄関の扉をゆっくり開けて外に出る。

    「良かった。気付かれなかったらどうしようかと思ってたから」
    「…え…。グルーシャさん、なんで…」
    「…………久しぶり。…その、…元気じゃなかったんだって?」

     数ヶ月振りの会話、お互いなんだか声が震えている。ひゅうと、間を通り抜けるような風が吹き渡る。

    「…タチの悪い風邪に罹っちゃって…。でも、どうしてそれを…?それになんでわたしの家、知ってるんですか?」
    「……それより、もう大丈夫なの?」
    「あ、はい。調子は戻りつつ…じゃなくて!」
    「……………………はぁ」
     
     困惑を含んだ笑みを作りながらも核心をつきたくて矢継ぎに質問を繰り出す。小さく溜息をついたグルーシャさん、少しの沈黙の後、重い口を開く。

    「……あれから、直ぐにあんたが言ってた日のことを思い出したんだ。これまで縁がなくて気にしたことなかったから」
    「……」
    「……流石に悪いな、と思って連絡してみたけど、全然繋がらなくて。全然来なくなるしあんまりにも会えないからアカデミーに行ってみたけどどこにもいなくて」
    「え!?行ったんですか!?」

     思わず声をあげてしまう。わたしがナッペ山に行くばかりでグルーシャさんの方から来てくれるなんて夢にも想像していなかったから。

    「……連絡もつかないしどこに行っても探してもアオイがいなくて、心配した。会えなくて苦しいなんて初めて感じた」
    「…………え、嘘…。なんで……」
    「嘘をついたってしょうがないだろ。なんで、ってあんたはぼくの彼女だろ?会えなくて心配するに決まってる」

     その言葉に心が騒めき、上手く呼吸が出来ない。それにやけに瞳の奥が燃えるように熱い。高鳴る感情を抑えきれなかった。

    「だからあんたの友達に聞いて…ってなんで泣いてるの」
    「……だって、グルーシャさん、わたしのこと揶揄ってああいう風な言い方をしたんじゃ……」
    「はぁ?あんた失礼だな。真摯に言ってくれたのに無碍にするわけないよ。…もしかして、伝わらなかった?」
    「何を…?」
    「…………ぼくだって、アオイが好きだってこと」

     思わず涙が止まる。え、今、わたしなんて言われた?思考が全然上手く纏まらない。
     
    「し、信じられない…。だってわたしが言った時何も言ってくれなかったじゃないですか」
    「付き合うって言ったじゃん。気持ちがないのにそんな不誠実なことしないよ」
    「……!だ、だって、期待しないでって……」
    「当たり前だろ。学生に手を出すわけにはいかないだろ。……傷付けたくないんだよ」

     鼻先を赤くしてふいと顔を背けるグルーシャさんを見て思わずがっくりと肩を落としてしまう。あんなに落ち込んで悩んだのに、わたし曲解し過ぎた……?いやいやいや。グルーシャさんだって。

    「……グルーシャさんって、言葉足らずって言われませんか?」
    「よくわかったね。何故かいつも言われる」

     はぁとため息を吐いてその場にしゃがみ込む。行き違いしすぎな上にわたしの曲解のせいで拗れに拗れてしまった関係。

    「…………揶揄われただけだと思って、悲しくて連絡消しちゃいました。心配してくれるなんて思わなくて。ごめんなさい。」
    「……ぼくも会話が足りなかった。ごめん」
    「わたし、やっぱりグルーシャさんが好きです。忘れられなかったです。」
    「……じゃあ、ぼくに着いてきてくれる?やり直しをしよう」

     手首を掴まれそのまま勢いよく走り出す、少し向こう側に空飛ぶタクシーが鎮座している。疾うに営業時間は終了しているはずだ。

    「特別にお願いしてたんだよ。まさかチルタリスに乗っていくわけにはいかないだろ」
    「あの、行くってどこに」
    「とりあえず黙ってついてきて」

     ピシャリと言い捨て、それ以上のことは何も言えず黙り込む。一瞬の浮遊感を感じ、空高く飛び立つ。ゆっくりと空路をゆくように前へ進んでいく。
    シーンとした空間、言葉は交わされずただただ空をゆく黒と明るい金色を窓辺から眺めるだけ。そんな隣にはグルーシャさん、狭い車内、時々足同士がぶつかってふんわりと暖かさを感じる。そして鼓動と息遣い。冷静だと思っていたグルーシャさんがこんなにもドキドキしているなんて。わたしまで緊張してきてしまう。膝上に握り拳をつくり固く握り締める。手のひらまでなんだか汗っぽくなってきたから。それに気付かれると彼は気にする素振りもなく優しく拳を解き手のひらを重ねる。想像の何倍かくらい大きくてゴツゴツとした暖かみのある手のひらに頬が一気に高揚していく。

    「……!その、わたしの、手…汗っぽいから……」
    「そう?気にならないけど」
    「!?」

     相変わらず表情も雰囲気もいつもと変わらない。わたしばかり振り回されている気がして仕方がない。けれど、隣にいてわかる。グルーシャさんだって凄くドキドキしていること。鼓動が伝わってきてわたしもまたドキドキしてしまう。目的地が何処なのかグルーシャさんの考えていることなんてわからないけれど、早く着いてほしい、このまま着かなければいいのになんてあべこべな感情に振り回されている。

    「はい、着いたよ。足元気をつけて」

     そんなことばかり考えていたらそう声を掛けられる。いつの間にかタクシーは地上に降り立っていた。ナッペ山のようだけど、フリッジタウンでも無さそうで見知っている雪原じゃなくて森の中にあるような小さな一軒家みたいな建物の前にいる。
     
    「……ここはどこですか?」
    「…………一応ぼくの家」
    「グルーシャさんの家!?」
     
     言い辛そうに言葉を吐き顔を背けるグルーシャさん、そんな様子さえも気付かないままわたしはただは酷く動揺してしまっていた。

    「やだ!わたしパジャマなのに!恥ずかしい!もっとちゃんとしてくれば…!」
    「……気にするところ、そこ?やっぱりあんた変わってるね。とりあえず入ってよ、病み上がりなんだしまた風邪ひかれたら困る」

     なんだか拍子抜けしたみたい?手を差し出されてちょっと恥ずかしかったけれど手を伸ばしてグルーシャさんの後に着いていく。「お邪魔します……」と小さく呟くと嬉しそうに「どうぞ」と返してくれる。ドキドキが止まらない中、着いていき電気をつけられて見渡すとそれに気付く。一気に顔が熱くなる。

    「これって……」
    「あの時気づかなかったお詫びをしたくて。用意していたの」

     もう季節は通り過ぎて、暖かくて薄紅の花がちらほら顔を出し始めている。勿論鈴の音なんて全く鳴り響かない。時期ハズレなのに部屋一面に装飾されたその景色にあの日の感情が胸いっぱいに広がってくる。確かめたかっただけだったはずだった。でもわたしは欲張りだから
    期待せずにいられなくて、でもダメだったらからそれに逃げて隠れて呆れられてもおかしくなかったはずだ。それなのに、グルーシャさんは精一杯伝えてくれようとした。抑えられなくて一粒二粒と雫が頬を通り抜ける。

    「…わたしのためにこんな……?わたし、ひどいことしたのに…」
    「それを言うのはもう終わり。それに、ぼくも過ごしてみたかったからかな。恋人同士の日でしょ」

     はい、と大きく広げられた大きな胸元に思わず飛び込んで背に腕を回してみる。初めて触れたグルーシャさんの暖かさと優しい匂いがとても心地良い。

    「……グルーシャさん、大好きです」
    「うん。ぼくもアオイが好きだよ」

     ソファに座り直して暖かさに触れ合いながら睦言を交わし合う。そして顔を見合わせて笑い合う。

    「…朝になる前に送るから、もう少しだけ一緒にいてくれる?」
    「はい。わたしも一緒にいたいです」

     時期ハズレなジングルベル。雪も鈴の音もなくてもこれもこれで悪くはない。幸せなんだから。そう遠くの方で考えながら近付いてくる暖かな口元に小さく瞳を閉じた。
     
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    ひなせ

    MOURNINGかなり前にグルアオでタイムトラベラー的なものを書こう!と見切り発車で書いて見たものの続きが全く思いつかないし諦めたプロローグ。割と楽しく書けて勿体無い気がしたので供養。
    「じゃあ、いってきます。……っていつまで不貞腐れてるんですか?そんなに拗ねなくても」
    「……拗ねて無いし、不貞腐れてもない。ただ腑に落ちないだけなんだけど」
     
     玄関先で荷物もばっちりで、リーグから支給されたスーツも決まってるし上手にメイクも出来たし髪も珍しく乱れていないわたし。そしてカタカタと腰のベルトにはモンスターボールが揺れるくらい元気いっぱいと全身で表してくれる頼もしい相棒たち。
    その反面、今日は遅出だからとゆるゆるな部屋着に寝起きのままに乱れた髪で大口をあけて欠伸をひとつ落とすあなた。昔ならばこのギャップにときめいたりこんな姿を見れるのは世界でわたしだけ!だなんて変な優越感なんて持ってみたりしてみたけれど、いまとなればそれが当たり前で日常で。それがなんだか嬉しかったりもしていた。ただ、今朝に関してはそんな風になれなくてただ、どう機嫌を直してもらうかばかり思案して、当の本人はあるがままに不機嫌そうに口を尖らせてわたしの身支度を厭そうに見つめていた。
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