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    tuka963

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    tuka963

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    原神 間章三幕ネタバレ
    エイプリルフールに書きたかった話です。

    放浪者に名前を付けるべきは俺ら(プレイヤー)じゃなくて丹羽さんだろー!?!?!??! という、丹羽さん激重感情関係性オタクが自らの感情を消化したかった話でもあります。

    「放浪者が、出かけたー⁉」
    「あら、随分驚くのね。パイモン。この世界ではもう、彼の罪は『存在していない』のよ。知っているのは私たちだけ。なら、彼が自由に出歩くのも不思議じゃないでしょう?」
     当然のことのようにナヒーダは返す。
     そこに対しパイモンはまだ不安が残っているようで、納得がいかない表情をしていた。
    「記憶を取り戻して早速自由にしたら、何しでかすか分からないだろ?」
     などと言葉をこぼすパイモンに対し、ナヒーダはくすりと笑った.
    「ふふ、心配性なのね。でも、今日は嘘と本当が交わる日。このことを伝えたから、彼は出かけたのだと思うの」
     『嘘』と『本当』つまり、エイプリルフールだ。
     そんな日出かけた、と言うのはパイモンにはしっくりこなかったようだ。
    「つまり、『存在しないもの』も、入り混じるのよ。そんな日に彼の向かう先は、貴方たちなら分かるのではないかしら?」
    「行き先……。なぁ、旅人。お前はどう思う?」
     話を振られた旅人はポツリと呟いた。
    「心当たりならある」
    「なら——」
    「だから、そっとしておこう」
    「良い判断ね。ねぇ、パイモン。彼が自らの心の整理がつくまで、私たちでお茶でもどうかしら?」
    「ナヒーダがそう言うなら……」
     渋々、といった様子のパイモンにナヒーダは「美味しいお茶菓子を見つけたのよ」と付け加え、三人は近況を話しながら待つことにした。
     
    「——全くくだらない。こんなことで、出かける僕もまた、くだらない
     ふと独り言をこぼす放浪者が立っていたのは、たたら砂のなんの変哲もない、ただの平地だった。
     そう、なんの変哲もない平地。
     ここは以前、傾奇者のしての彼と——丹羽が暮らした地だった。
     今はもう、何一つ残ってなどいないのだが。
    「当然だ。四百年も前のことなんだから」
     丹羽が殺される現実は変わらなかった。
     ほんの少しの揺らぎを起こしただけの自己犠牲、と自らの行為を嗤った放浪者は、ナヒーダから聞いた、エイプリルフールに起こる『とある現象』に興味を持った。
     仮に、本当に『存在しないもの』も入り混じるなら、丹羽が残した何かも、嘘と本当の狭間で揺れる今日なら、出会うことが出来るかもしれない、と。
     しかし、実際は何もなかった。
     それもそのはず、仮に自身の行為が成功し、丹羽が天寿を全うしたとて、四百年も前の人間なら、何も残るわけがない。
     そんなことも全て分かった上で、博士ドットーレの記憶で見た丹羽の殺害現場へと向かう。
     ここで、丹羽は——。
     本能的なものか、感情的なものか、自分でも分からないながら、放浪者はその場で手を合わせた。
     そして、しっかりと眺める。
     今となっては何もないその場所を。
    「ねぇ、丹羽。僕がここに来る権利はないかもしれないけれど……」
     放浪者はポツリ、ポツリと言葉をこぼす。
    「全部、今更なのは分かっているけれど。それでもさ、僕は——ん?」
     ふと、足元に何かが埋まっていることに気がつく。
     それは、何かの紙、それももう風化し、雨風や土埃で読める箇所はとても少ないが——それは、丹羽の日記だった。
     丁寧に土埃を払い、読める箇所を増やそうと目を凝らす。
     なんの変哲もない、を記した日記。
     胸が、喉が、苦しくなるのを放浪者は感じた。
     捨てたはずの感情は、その一文字一文字に揺さぶられる。
    「いつか、彼も名前を得る日があるのだろうか」
     その言葉には優しさがこもっていた。
    「その日が早く訪れることを、願わずにはいられない。彼も、人間なのだから」
    「丹羽、僕は——」
     自らの声が震えていたのを感じた。
     心なしか、手も震えている。
     そこには愛が詰まっていたから。
    「拙者も、その名で呼ぶことは許されるだろうか。少しばかり、贅沢すぎるかもしれぬが——」
     所々掠れた文字からでも、丹羽の想いは十分過ぎるほどに、放浪者に届いていた。
    「もしも、許されるのであれば、拙者が名前を与えて良いのなら、拙者は——」
    「……なんで、っ!」
     一番大事なところは、どう足掻いて読めなかった。
    「なんて名前を、僕につけたかったんだよ……。丹羽ぁ……」
     紙には雫が溢れ、染みがつく。
     ガラス玉のような瞳が揺らいで、その言葉の先を探し続け、やがてしゃがみ込む。
     暫く膝を抱えていた放浪者の神の目が、途端に強い光を発し、思わず強く目を瞑る。
     ゆっくりと瞼を開いたその先は、視界いっぱいの白と、微笑んだ見慣れた姿。
    「良い名をもらったな、
     そう彼を呼ぶのは、もう世界には彼しかいない。
    「丹羽——」
    「拙者も、今のお主の名前を気に入っているでござる」
    「ねぇ、丹羽。丹羽はなんでつけたかったの? 僕の、名前……」
    「さぁて。四百年も昔のことでござるからなぁ。しかし、今は傾奇者と呼べるのは、拙者だけだと思うと——傾奇者、と呼んでいたくなる」
     丹羽は冗談めかしく言うが、それが本心だと言うことは、放浪者にはすぐに伝わった。
     何故なら、彼は傾奇者。
     かつて、丹羽が愛したその名を、彼は忘れられなどしなかった。
    「少し——意地悪でござったか?」
    「ううん。丹羽は……丹羽なら、僕のこと『傾奇者』って呼ぶことも許してあげなくもないよ」
    「——そうか。では、傾奇者」
    「何?」
    「拙者は、いつだって傍に居るでござる。いつでも、いつまでも、お主を見守ろう」
    「うん」
    「だから、こうして話すのは——また来年、であるな」
    「僕げ覚えてれば、だけどね?」
    「ふふ、お主は忘れぬよ。拙者が一番よく分かっているでござる」
     丹羽は嬉しそうに胸を張る。
     その姿に、放浪者傾奇者も笑みが溢れた。
    「どうだかね」
     ああ、僕はこのことを、この日のことを永遠に忘れない。
     あの日記の言葉も、この会話も、ずっと。
     だって、僕は傾奇者。
     君がつけた名前と、丹羽が呼ぶ名前は違うけれど、どちらも僕の——
    「たからもの、だから」
     平地で一人、微笑む少年が、そこには居たのだった。
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