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    雑魚田(迫田タト)

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    POIPOI 28

    妙にポエミーな夜のトームリ

     トーランドがほどいた髪の毛が、ぱさりとムリナールの頬に落ちる。ムリナールの世界は暗色の幕にまるく縁取られ、目に映るものは、自分に覆い被さる眼前の存在だけになった。
     この瞬間が好きだ、とムリナールは思う。
     バウンティハンター。サルカズ。指名手配犯。目の前の彼を表そうとすると、相応しい言葉はいくらでも溢れてくる。だがその彼が〝トーランド〟という呼び名だけになるのは、この一瞬以外、ムリナールには思いつかない。
     もしかすると、トーランドにとってのムリナールも同様なのかもしれない。
     相手が生きる広大な世界から、自分以外を閉め出してしまったかのような錯覚。年甲斐もなく頭をもたげる幼稚な独占欲が見せる、ほんの一瞬の夢想だ。現実には手に入らないものだからこそ、彼らはそんな一瞬を探して行為に耽る。衆目が彼らに許さぬ望みでも、ただの夢なら、誰に見咎められることもない。
     黒く縁取られたムリナールの世界で、眼前の空間が徐々に狭まっていく。吐息が肌に触れ、互いの香りが混じり合っていく。

     微睡みのようなこの温度を手放すのが惜しくて、ムリナールはトーランドの背に腕を回した。離れかけていた唇が、再びムリナールの温度に溶けていく。
     この瞬間も、ムリナールは好きだ。

      了
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    Replies from the creator

    雑魚田(迫田タト)

    DONE仕方なく晩餐会の招待を受けた遊侠時代のムリと、それに同行することになったトーのトームリ
    まだ身分差や種族差を噛み砕ききれてない、若造感が強いふたりの話
     椅子からこぼれ落ちた金色の尾が、ゆらゆらと不規則に揺れている。その毛先が箒のように床を擦っている様を、トーランドはもどかしい気持ちで眺めていた。
     せっかく綺麗に整えられた金の毛束が、このままでは埃まみれになってしまう。すぐにでも手を伸ばして毛先を拾い上げたかったが、今そうするわけにはいかなかった。
     今はムリナールがついている席の隣で、小綺麗な服装に身を包み、ただただ会話の脇役に徹することこそが、トーランドに与えられた役目なのだ──


     遡ること、約二ヶ月。
     ムリナールがトーランドと出会ってからいくらか時は経ち、仲間と共に行動することにも慣れてきた頃の、とある夜のことだ。
     特に定めたわけではないものの、何となく拠点のようになっていた森の一角で、彼らはその日も野営をしていた。テントを張り火を焚き、それを囲んで狩ってきたばかりの獲物に食らいつく。ずいぶんと肌に馴染んできたそんな日常を享受しつつ、ハンターたちの会話の中で勃発した些細な口喧嘩の様子を眺めていたムリナールの頭の耳が、不意にぴくりと跳ねて外を向いた。
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