それでも好きとは言わねぇんすね/シン大+メノ✽4 いつもと変わらない休憩所の天井、クッション性の少ないソファーでさえ心地よく眠れてしまうのに。
「珈琲が飲みたいなぁ」
ーピッ…ガタッガッ、ゴトン
「大きな独り言だなぁ、ほらよ受け取れ」
自販機から吐き出された缶を的確に投げてよこしてくる。健康的に灼けた肌に似つかわしく白い歯をチラリと見せ笑う。爽やかと付け加えたいところだがどこか含みがある微笑みに企みが見え隠れするから野球少年のそれとは程遠い。
「そんな気分じゃないんだよね」
ちゃっかりと受取り手に収まってる缶コーヒーだが飲みたい珈琲とは違う。
「おいおい、お前が飲みたいって言ったんだ…あぁ」
「これは缶コーヒーでしょ」
やっぱりここにいたとソテツとは別の厨房の方から来た声にメノウは反応し、その目尻がスッと下がる。
「早くしなよ、お前が言い出したんだろ?大牙の珈琲が飲みたいってさ」
「どうりでホールにもフロアにも人が居ないと思ったんだ…大牙の珈琲か、ならお節介だったなぁ」
ソテツはメノウの手から缶コーヒーを攫った。そのまま片手で難なくパキッとタブを開けてはゴクゴクと勢いよく飲むのだった。
「ソテツもどう?凄く美味しいんだ大牙の珈琲」
「そりゃどうも、今はコイツの気分なんでな」
煙草の紙箱を見せ去ろうとするソテツにマイカは釘を刺す。
「コーヒーの缶に煙草突っ込んだら承知しないからね」
「それ晶にも言っとけよ」
振り返らず缶コーヒーを持つ手を上げ釘を刺されたソテツは外の踊り場へ行ってしまった。