それでも好きとは言わねぇんすね/シン大✽3「ずっとあの調子でさメノウお前の珈琲が飲みたいって煩いんだ、どうにかしてくれない」
開店業務が終わろうとする頃にメノウは出勤してきたらしい。昼からのシフトなのに10時前に出勤してきて開口一番に大牙の珈琲が飲みたいって一点張りなんだそう。別に珈琲淹れるのなら容易いし美味しいと言ってくれるメノウに淹れるのは本望だ。
「まぁ別に特別な事じゃねぇし、それに今休憩に入るところっしょマイカだって。構いやしないすよ」
身構えているマイカの肩が心做し下がったような気がした。
「なんなら、アンタさんもいかがす?コーヒーブレイクにしやしょう」
「確かにお前の珈琲飲んだことなかったな」
本来は昼シフト組と入れ替わりで休憩に入るがメノウの店入りが随分と前倒しだから早めの休憩にしようとマイカも合意する。
「そりゃあ俺の珈琲なんかに興味向かねぇのがマイカなんで」
「そんなこと…わからないだろ僕だってお前の珈琲興味あるよ」
歯切れが悪い挙げ句に気まで使われて惨めになりそうなところだが演技のフィールドとは違ってこっちはホーム、反骨精神に火がついた。
「無理しなくていーすよ話題性のあるものに興味示すのがマイカなんすから。そーゆーので好きやってねぇすから俺」
「話題性なら立派にうちの広告塔が役割を担ってるから少なくともPではお前の珈琲の話題で持ち切りだけどね、呆れるくらいには」
惨めどころか変化球で褒められそれはそれでむず痒い。ニヤけそうになりぐっと唇に力が入る。
「ほ〜らほら、それがマイカの理屈すよ」
呆れるくらいってところにマイカなりの照れを感じはしつつもやっぱり自分にとってはプラスでしかなく照れ隠しをする。
「なに?拗ねてんの唇尖らせてないで早く、淹れるのに時間かかるだろ」
「へぇーへぇー」
厨房に入るとシンが調味料のストックを確認していた。
「シンも早入りだね」
「補充しておこうと思ってな早入りしたついでだ」
メノウの姿は見当たらないがドリップの最中にでも声を掛けて貰うかと用意に入る。
「じゃ、アンタさんの分も」
3人が4人になるだけだ俺には問題ない。
「気にするな」
そうだった問題がひとつ。シンは俺の珈琲を「美味しい」と言ったことがない。気を使って付き合ってくれてたことは薄々感じては居たが二人じゃなくマイカがいる時にこれか。
「まだ昼シフトには時間あるっしょ別に俺は気にしないすよ〜飲みたくないなら別すけど」
二人では言えない事は大いにある。なら俺だって言わせてもらうし素直じゃないシンには当然の報いだ。
「なに?お前シンとなんかあったの」
小声でマイカは言ったけど高いその声をシンは逃さなかった。
「とりたてて変わりない」
「嫌いじゃないなら別に構わなくね」
ポソッと吐き捨て手元のポットがブレないようにと気は使う。
「わかった」
これだ、また気を使われてる。3投目で一気に湯を注ぎ珈琲のアクが上がってくるのを恨めしく見つめた。シンの誕生日以降ずっとモヤモヤしていて白いアクがそのもののように見える。
「厨房が喫茶店みたいな香り」
「そりゃそーすわ豆から挽いたらこんなもんすよ」
「落ち着く香りだ」
取って付けたようなシンのいつも通りの感想にノーリアクションで返す。シンと二人残されるのは本意ではないがマイカにメノウを呼んできてもらうよう催促した。