ママタリヤとショタ離弟が恋しくなっちゃう公子と精一杯かわい子ぶってる先生
「コレ、鍾離先生なの?」
「コレっていうなよ!失礼だぞ!」
はは、ごめんごめん。乾いた笑い声を出しながら謝るタルタリヤにかみつくパイモンをどうどう宥めながら旅人はそんな二人をぼんやり眺める”こども”の背中に手を添えた。
「そうだよ、鍾離先生……の、小さくなった姿?だと思う」
「魔神に子ども時代ってあるんだっけ」
「さぁ」
タルタリヤの疑問に旅人も首をかしげる。ここ、北国銀行までこどもを連れて来た二人でさえ、どうしてこのような状況になっているのか把握できているわけではなかった。
「璃月港を歩いてたんだ。ほら、鍾離先生をそのまま小さくしたような見た目でしょ?ひとりで歩いてて、周りは鍾離先生の隠し子か?なんて言ってたんだけどさ。先生の正体を知っていると、ねぇ…」
まぁ確かに。タルタリヤは頷く。先ほどからタルタリヤをじっと見つめて視線を離さないこどもは鍾離そっくりだった。あの自称凡人がまた何かしているのだとしたら納得してしまう。
この部屋を訪れてから一言もしゃべらないこどものまえにしゃがんで目線を合わせ、君、と声をかける。
「えーっと…鍾離先生?」
「……」
タルタリヤの動きをなぞって視線は動くが、表情が動く様子はない。それを見たパイモンが公子野郎でもダメかぁと声を上げる。
「さっきから一言もしゃべらないんだ!でも、オイラ達のことばはわかるみたいだぞ」
「意思疎通ができるといいんだけど…君たちを見たときの反応はどんな感じだっ、た?」
きゅ、と。タルタリヤが一度視線を外して旅人とパイモンに語り掛けたとき、しゃがんだタルタリヤの服を小さな手が掴んだ。幼いこども特有の、ふくふくとした手でやわらかく引かれてはタルタリヤはどうすることもできない。
「どうしたの」
「……ぁ」
ぼんやりとしていた大きなひとみがほんの少しだけ伏せられる。こぼれたのは普段の落ち着いた岩をも震わせる声ではなく、宝石を転がしたような可愛らしい音。服をつかんだ手はそのまま、どこか迷う仕草をした後、ふたたび顔を上げてタルタリヤを見る。お人形のように整っている愛らしい顔を少しだけ赤く染めて小さく口を開いた。
「妈妈」
「…………、ま、ママ?」
ん、とこどもが頷いた。
「…え?!タルタリヤ、おめでただったなら言ってよ!」
「おおお、オイラ達出産祝いなんて持ってきてないぞ?!」
「違う!!!!」
◇ ◇ ◇
「それじゃあ子守よろしくね、ママ」
「相棒??」
「似合ってるぜ!じゃあな~!」
「おチビちゃんも待って?」
必死に二人を引き留めるタルタリヤの声もむなしく旅人とパイモンは腕を振って去って行ってしまう。そんな二人の背中を鍾離(チビ)を抱きかかえたタルタリヤは泣く泣く見送った。
別にタルタリヤに今回の事態をすべて押し付けて去っていったわけではないのだ。璃月に住まう仙人たちに話を聞きに行ってくれただけで。こどもがタルタリヤのことを「ママ」と呼んだ瞬間から謎によそよそしくなったとはいえ、何もせず放置するような二人ではない…はず。
「も~……ホントに鍾離先生でいいんだよね?まぁ先生に隠し子がいたら驚き通り越して歴史的発見すぎるし…」
ぷにゅ、と腕の中でおとなしくするこどもの頬をつつく。やわらかい。ぷにぷにしている。故郷で少年のころにつついた弟のまろい頬を思い出した。
一切抵抗なく腕に収まっているこどもは頬をつつかれたことが嫌だったのか、顔をタルタリヤに向けるとぷぅと顔を膨らませた。
「膨らんでも可愛いだけなんだよな…」
ぷしゅう。タルタリヤの手の親指と人差し指でほっぺを優しく挟まれて柔らかい風船がしぼんだ。そのしぐさが本当に幼いころの弟を思い出させてしまって、タルタリヤは胸にぎゅうっと言いようもない衝撃を受ける。
「うぐ…」
かわいい。うん、認めよう。タルタリヤは頷く。
そもそも、である。目に入れても痛くない…は言い過ぎであるにしても、それなりに大切にしている恋人そっくりの幼い姿。可愛くないわけがないだろう?いや恋人の幼い姿を愛でるだなんて写真以外で起こりうるイベントではないのだけど、そこは恋人が規格外なので置いておいて。
あのあと、旅人たちがもう少し詳しい説明をしてくれていた。街中でひとり歩く鍾離を回収し、往生堂に訪れたらしい。しかし鍾離は昨晩自宅へ帰ってから往生堂には来ていないとのこと。場所を聞いて向かった自宅は無人。ここへ来るまで鍾離を見ていないか街の人間に聞いたが誰も見ていないという。肝心のこどもは一言もしゃべらず、赤の他人というには似すぎてる。
鍾離とタルタリヤの関係を旅人に直接話したことは無いが、まぁ、察しているのはわかっていた。そこで次に白羽の矢が立ったのが北国銀行にいたタルタリヤで、こどもを預けてからは仙人に詳しい話を聞きに行ってくれるのだとか。彼らが好む様な仙境はどこも高い山の上にあるためこの年のこどもを連れていくには気が引けるし…と言っていたが正直全ての決定打は「ママ」にあるのは間違いない。絶対、鍾離がなにかやからしてこうなっている。
「これは意図的なものなのか、事故なのか…イマイチわかんないな」
「んぅ…」
今のところ被害は出ていないはずだ。ひとりで歩いていたことに関しては旅人が鍾離の親戚のこども、ということで話を通しているらしいし。ママと呼ばれたタルタリヤが旅人とパイモンの生暖かい目線を向けられたことを除いて。
鍾離から反応がないか期待しつつ言葉にしてみても、こどもは何も言わない。おとなしくタルタリヤに弄られ続けるだけだ。もちもちの肌は触り心地が良く、なんどでもぷにぷにできる。あまりやると怒られることを経験上知っているのでやりすぎは良くないが。
「おれは君のママじゃないよ」
そういうと、こどもはブンブンと顔を振って否定するのだ。
所謂おつきあい、をしていた二人の間にはもちろん体の関係もあった。だが、鍾離とタルタリヤはどちらも男であったし、なんなら突っ込まれているのはタルタリヤ…というのは置いておいても、二人の間にこどもが生まれたという事実はない。
凡人もびっくりな鍾離の仙術とやらで一夜にして生まれたファンタジーな存在であることは否めないにしてもタルタリヤは産んだ記憶がないのだ。つまりママではない。ママになるといった記憶もない。
「相棒たちの報告を待つしかないかぁ…」
はぁ、と溜息を吐いてこれからのことを考える。旅人が訪れる前に処理していた書類は先ほど片付けた。
こどもがこちらの言葉を理解しているのは本当のようで、椅子に座らせてお菓子を出して「まっててね」と声を掛けたらその通りおとなしくしていた。しかし、タルタリヤが書類の記入を済ませて部下に渡した途端、こどもはトテトテ歩いてタルタリヤの仕事机に寄ってくると、遠慮なく膝に乗り上げ始めた。短い手足をつかって全身で必死に登ろうとする姿は母親にだっこをねだるこどもそのもの。
「……」
部下の手前、全力でかわいがるのは、いやでも…う”…と内心葛藤するタルタリヤが抱き上げてくれないでいるとこどもが「ん”-!」と講義するようにぽこぽこ殴ってくるのだ。可愛すぎない?なにこのいきもの。
「…今だけだよ」
そういって抱き上げた。それから。それからこどもはタルタリヤの腕の中に陣取って動いていない。タルタリヤが移動することに何の文句も言わず、ただひしっと服を掴んで、胸に体を預けて抱っこを満喫しているらしい。というのも、旅人のまえではぼんやりとして動かなかった表情が嘘のように和らいで、声は出さないもののふくふく笑っている顔を見れば機嫌がいいのは明らかで。
「公子様は子守がお上手なんですね!」
とか言った空気の読めない部下は明日出勤できないだろうが、それはそれ。
幸いタルタリヤは鍛えている武人であるので、ちいさくてやわらかいこどもを数時間単位で抱えていても疲労をあまり感じないでいた。
「この子を外に出すわけにも行かないしどうしようかなぁ…」
べつにこのまま何もしないでただ子守をするのも悪くないのだけど。ひとまず北国銀行から移動したい。こんな時に鍾離の便利な洞天があればいいのに…と思うが本人は現在行方不明でおそらく(・・・・)鍾離なこどもがいるのみ。
「…あ、そういえば、お腹はすいてないかい?」
腕の中のこどもに問いかけると、少し考えるそぶりを見せた後こくりと首を振って見せた。いつから食べてないのか、はたまた食事をする必要はあるのか。わからないが、少なくとも普段の鍾離は食事を凡人と同じペースで取っていたので。
「ここじゃ満足に料理もできないし…とりあえず俺の家にいこうか」
嬉しそうにこくこく頷くこども。頭上のふたばがぴょこぴょこ動いて頬をかすめるのがくすぐったい。
抱き上げたこどもを抱えなおしてタルタリヤはエカテリーナを呼んだ。
「ありがとう、これで外に出ても大丈夫かな」
「帽子さえはずさなければ問題ないかと」
「うん、助かったよ。これで仕上げね」
スネージナヤのこども服。それから、テウセルが普段かぶっている帽子と似たものを被せられたこどもは、少し重いのか頭を両手で抑えてトト、と体勢を崩した。思わず背中に手を添えるときゅっと自分で座りのいい場所を見つけたらしく、雪国風の帽子をかぶって満足気だ。
璃月で着るには少し分厚い気もするが、以前テウセルが璃月に来た時も同じような恰好で走り回ってたので真夏でもない今なら大丈夫だろう。
こどもは発見されたとき、普段の鍾離の服をそのままこども服にしたらこうなるだろうな、という装いをしていた。だからこそミニ鍾離!感が凄かったわけで、こうしてスネージナヤ風の姿をしたこどもは、知っている人間がみれば鍾離を思い出すだろうが、少なくとも遠目でみて関係者だとは思うまい。
「……わいい、」
「公子様?」
「えっあっ、いやなんでもないよ。準備ありがとう。俺たちは銀行を離れるから、後はよろしくね」
「はい」
よくできた部下は挙動不審な上司には深くは追及せずに部屋を退出した。
「……凄く写真撮りたい」
こて、とこどもが首をかしげる。
……かわいい。タルタリヤの内心は荒れていた。思わずにやついてしまう口もとを手で覆うが、隠しきれていない。
あまりにもかわいい。写真に残したい。
普段璃月が服を着て歩いているような恋人の、幼少期の、スネージナヤのふく。やばい。すごくかわいい。少しサイズが合わずぶかぶかの帽子から覗く、くりっとしたおおきなひとみ。もちもちのほっぺ。そもそも可愛い生き物だったのに、こうして服を変えてまじまじと見ると改めて良い。
目立たないための変装…という建て前でタルタリヤの趣味である。
なぜこんなことになっているかは知らないが、巻き込まれたのだから少し楽しんでもいいだろう。そろそろ開き直ってきたタルタリヤはいっそ可愛がる方針にかじを切った。
あいにくこの部屋には写真機がないし、あとで旅人が帰ってきたときにでも撮ってもらおう。現像した写真はタルタリヤの数少ない私物を詰め込んだトランクの底の方にでもしまって。紙だからそんなにかさばらないし。複数枚撮ってもらうのもいいかもしれない。
「この格好なら多少歩き回っても大丈夫かな? ね、たべたいものはある? どうせなら材料買ってから帰ろう」
タルタリヤが手を差し出すと、こどもはきょとんと不思議そうな顔をした。ん?とタルタリヤは首をかしげる。———そういえば、恋人の鍾離と手をつないだことはないな。お互い璃月で仲良く手をつなぐだなんて考えたことも無かったので。
つい弟と同じように接してしまうなぁ、だなんて考えていると、目の前のこどもは目をキラキラさせてタルタリヤの手をつかんだ。小さな手をにぎって上機嫌にぶんぶん振ってくる。
「じゃあ行こっか」
ん!と喜ぶように頷くこども。タルタリヤの手を引きながら街に駆け出していきそうな勢いなので「走るところぶよ」だなんて声をかけて二人は銀行をでた。
つながれた手の引っ張る力が、あきらかに普通のこどもでなかったことも、ここに記しておこう。
◇ ◇ ◇
「先生にそっくりだから璃月料理とか食べたいのかと思ってた」
タルタリヤの自室。買い物を終えて普段タルタリヤが宿泊している宿まで戻ってきたふたりは抱えていた食材を机に下ろす。宿泊とはいえ、キッチンなどの設備も整っているので料理は問題ない。
結局最後は抱っこを要求してきたこどもと食材をすべて抱えていたタルタリヤは少し伸びをした後袋から材料を取り出す。
買い物中もこどもは一言だってしゃべらなかったが、どうやら所望の料理はあったらしい。あれ、あれ、と指さしでどうにか意思疎通した結果、ホットケーキがたべたいようで。
ホットケーキと言えばこどもの喜ぶ料理でランキング上位に食い込むだろう。鍾離がホットケーキ。そんな印象がさっぱりなかったのでこどもに要求されている時は少々驚いた。が、故郷ではよく弟妹に作っていたわけだし、料理も得意なタルタリヤからしたらやりやすくてありがたいほどだ。こどもはホットケーキの材料しか指ささなかったが、幼い子供の喜ぶ料理は甘いものと相場が決まっている。色とりどりの甘い果物、ホイップクリーム、はちみつ、チョコレート。ぽんぽん買い物かごに缶身を突っ込んでいくタルタリヤの腕の中でこどもは少し服の袖を引いて焦ったような顔をしていたが、「これがおいしいんだよ」と言うと首をかしげてそれから何も言わなくなった。
そんなに甘いものばかり食べられない―――ここにいるのが恋人だったらそう言っていただろうか。美食を好んで楽しむ恋人は色々な料理を食べるが、特別甘味を好んでいるようには思えなかった。どちらかといえば璃月人らしく辛い料理を食べている印象もある。
だからこそパンケーキなんていう甘さの暴力みたいな(それも他国の料理!)を頬張る幼いこどもを見てみたい、と思ってしまうのはしょうがないことだと思うのだ。
「パンケーキはね、よく弟たちに作ってたから得意なんだ。君は食べたことある?」
買ってきた小麦粉にたまごと水を加え混ぜながらタルタリヤが声をかける。タルタリヤの立つキッチンはそれなりの高さがあり、流石に料理中まで腕の中で抱きしめるわけにはいかない。
しかしこどもは料理しているところが気になるようで、小さくぴょんぴょんと跳ねながら背伸びする姿を見て、リビングから椅子を持ってきたのだ。
落ちないようにしっかりと取っ手を握らせたので落ちる心配はないが、大きな瞳がこぼれ落ちそうなほど開かれて黄色い記事が混ざって行く所を見ていた。
タルタリヤの言葉に反応して目線を上げたこどもは少し考えた後、小さく首を振る。
「食べたことないかぁ……じゃあ、トッピング楽しみだね」
こどもが冷蔵庫に入れられた大量のトッピングたちを思い出したのか興味津々といった感じで頷いた。
おさないこどもとホットケーキを作るときの楽しいパートはいくつかある、とタルタリヤは思っている。主に経験からくるもので、まず1つ目はホットケーキを混ぜるとき。分量を量ったりするのは少し難しくても、生地のもとをグルグルと回すことはおとなが支えてやればできる。
2つ目がホットケーキを焼くとき。これはこどもにやらせる必要はなくて、温めたフライパンに丸く生地を垂らして、ぷくぷくと生まれる泡がでるまで待つように言うと瞳を輝かせて「まだ? まだ?」と生地を眺めるのだ。
そして最後、3つ目。
「好きなように盛り付けていいよ」
ちょうど顔と同じくらいの大きさで焼けたほかほかのホットケーキ。昔ながらのしっとりとした触感のそれを2枚重ねてこどものまえに置く。そしてホイップクリームを絞り出せるように準備して、果物もトッピングしやすいサイズに切り分けておく。
タルタリヤが手際よくならべた色とりどりのお菓子たち。椅子に乗ってキッチンに乗り出していたこどもが声を出さずとも瞳輝かせているのがわかる。目の前のお宝の山から、好きな物を選ぶ表情は真剣そのもの。
椅子の上から手を伸ばして最初に手に取ったのはホイップクリーム。ふわふわに泡立てられたそれを恐る恐る握る。
「あはは、緊張してる? あんまり力強く押したらいっぱい出ちゃうから、気を付けてね」
どこかぎこちない動作でホイップクリームを持ち上げるこどもに、微笑ましくなる。そういえば、先ほど手を引かれたときの腕力はやっぱり普通のこどもとはいいがたかったことを思い出した。
「ぁっ!」
ぐ、と絞られた袋から勢いよくホイップクリームが飛び出す。思わず、といった小さな声がタルタリヤの耳に入った。力加減がどうにも難しいらしい。
「豪快だね」
むむ、としかめ面でホイップクリームが大量にぶちまけられたホットケーキを眺める横顔。もう一度、そっと握りこんで、今度は満足のいく量が載せられたらしい。
どうだ?とタルタリヤを見上げる顔は満足気で、もちもちのほっぺたをむん!と膨らませている姿は愛らしい。鍾離も時々似たようなどや顔をしてくるので、あの顔をこどもがしたらこんなに可愛らしい物なのか、と内心衝撃を受けつつ(大人の方も可愛いなんてことは…あんまり認めたくないけれど、悔しくもタルタリヤはあの顔が好きなのだ)頬に飛んだホイップクリームを指先で掬う。
「あはは、夢中になりすぎ、ほっぺについてるよ。……ん、甘い」
ペロっと指についたホイップクリームを舐めれば少しの量でも暴力的な甘さが分かった。これが大量に乗ったホットケーキを食べてもこどもは皆平気なのだから、幼いからだというものは便利で幸せなつくりをしている。
などと考えていたタルタリヤは、斜め下からじーっと視線を送られていることに気が付き、そちらを見ればぽかんとした表情のままで固まるこどもがいた。
「も、もしかして俺にもついてる?」
あんまりじぃっと見つめられるので、タルタリヤが聞き返せばはっとしたこどもはブンブンと大袈裟に首を振った。
それから慌てたようにホイップを置き、切り分けられたトッピング素材に手を伸ばす。
急に頬を触ったから驚かせてしまっただろうか。あれだけ抱き上げたりムニムニ遊んだ後でここまで驚かれるとは思っていなかったなぁ、と考え込むタルタリヤの横。赤くなった頬を隠すように必死にホットケーキに向かうこどもは、せっせとトッピングをがんばっていた。
◇ ◇ ◇
「ふふ、美味しそうじゃないか」
盛り付けに入って20分ほど。こどもはやっぱり鍾離そっくりというか、何事も時間をかけて満足いく出来になるまで終われないらしい。
色とりどりのフルーツを両手に持ち、あれでもないこれでもないとトッピングする姿は可愛らしいものの、時間がたてば常温に近づくホイップクリームは崩れていってしまう。どうにかタルタリヤも手伝いながら形になったホットケーキとを机に運ぶ。
机の上に二つ並んだ皿。ひとつはとにかく甘いものを詰め込んだ夢のようなホットケーキ。もう一つは控えめにクリームとチョコレート、ほんの少しのフルーツが乗せられたシンプルなホットケーキ。
作っている最中、タルタリヤが自分のケーキにホイップクリームしか乗せていないことを知ったこどもが「お前も食べろ」と言わんばかりに乗せてきた結果だ。甘さ控えめで、と伝えると量を減らしてくれて、結果そこそこ甘そうなホットケーキとなった。
「それじゃあ食べようか」
こくこく、と頷く顔はやっぱりキラキラ輝いていた。頭上の双葉が顔の動きに合わせてぴこぴこ動くのが愛らしい。
子ども用のカトラリーがなかったので小さな手には少し大きすぎるフォークを握っているが、重さは問題ないようだった。
少し不自由そうにしながらもどうにか一口大に切り分け、たっぷりのホイップクリームとフルーツをのせて小さな口に運ぶ。ぱくり、口の端に入りきらなかったクリームをつけて、もぐもぐ咀嚼する。大きな瞳を輝かせて、フォークを持たない手を頬にあてて、声にならない歓声をあげていた。
「美味しかったみたいでよかった。ははっ、ゆっくり食べなよ」
そう声を掛けつつタルタリヤも一口