「……それ以上ちかづくな」
ふーっ、ふーっ、と荒く息を吐く少年を眺めてモラクスは腕を組み、少しの間考えるそぶりを見せた。
ぼろ布を纏い、手入れされていない前髪の隙間から鋭い眼光でこちらを睨みつけてくる少年は、手負いの獣…いや野良犬のようなものだった。汚れの1つないオーダーメイドのスーツに身を包み、威圧するように立ちふさがるモラクスとは対照的に、地に尻を付け動くことのできない状態であってもその紫紺の瞳から諦めの色は見えない。
「俺はお前たちを殺しはしない」
「だまれ」
モラクスのことばを歯牙にもかけず切り捨てる。しかしその腕の中に抱えた、同じ体格の少年を庇う腕に力が入るのが見えた。
今しがた、モラクスが回収しにきたのは彼が健気にも必死に守っている腕の中の少年だ。数分前、彼らの住処であると思われる路地裏の先にある小さな空き地でぼんやりとしているところを見つけ連れ出そうとした。しかし、モラクスが目標の腕をつかむより先に後ろから少年が殴りかかってきたのだった。
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