恋は盲目 あ、三井さん。
思ったことが、そのまま口に出なくてよかった。きっとごまかしきれない色をしていたから。
居酒屋の通路に面した席に座った三井さんは、相変わらずの風貌だ。随分会っていないように感じるのに、少しも変わっていない。ただ、見慣れないスーツを着込んで対面に座る人に気の抜けた笑みを向けている。
……何でこの店に来たんだろうか。水戸がここで働いていることは、以前確かに伝えた。でもそうか。あの人のことだから、すっかり忘れてしまったのだろう。水戸のことは、もう。
ガヤガヤと繁盛する居酒屋で、耳が勝手にあの人の声を拾う。どんなときでも水戸に届く、耳障りの良い声。対面に座る人は、どうやらなかなか深い関係のようだ。気を許せる人にしか聞かせない声色をしている。いつの日か、みと、と甘えるように呼ばれたことを思い出した。
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