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    洋三
    ビビって洋の告白にOKしちゃった三の話です。
    下品注意!

    #洋三
    theOcean

    責任を取りやがれ!! 水戸洋平。みとようへい。みと、よーへー。
     口の中で転がすだでも、体が固くなる響きだ。その恐ろしさは細胞レベルで体に刷り込まれている。
     桜木の親友で、俺の恩人で、えぇっと、そんなかんじだ。仲がいい方ではなく、むしろ俺としてはちょっと避けたいくらいで。もちろん恩義は感じているし、感謝は直接言葉でも伝えた。水戸の方も、あの凍える眼差しは何だったのかというくらい軟化した態度で接してくれて。軟化しすぎて、ちょっと困ってる。

    「あ、三井さん、もう終わり?」
    「おう。待たせてわりい」
    「見てるの楽しいからいいよ。じゃあほら、手繋ご?」
    「わ、わかった」

     あの日俺をさんざ殴った手が、壊れ物でも触るように優しく包み込んでくる。視線を落としても、いつもと変わらない何を考えているのかわからない笑みだ。
     俺と水戸が何でこんな関係に──すなわち部活後に一緒に下校し、手をつなぎ合う関係にだが──なったかというと、多分全面的に俺が悪い。

     水戸が歩み寄ろうとしてくれているのは気づいていた。だから俺もそれに頑張って応えなければと、水戸に対する恐怖心を和らげるためにいろいろと試していたところで。具体的には、飲み物を奢ったり、怖くても笑ってみたり、弁当を作ってみたりと、そんなかんじ。ちなみに相談相手は桜木軍団だった。
     そんなこんなで奮闘していた折。たしかあれは、タナ先のハゲ頭の反射力について語っているときだったか。
    『あ、すき』と。水戸が言ったのだ。『あ、すき』と。思わず溢れたようなそれに、俺はよくわからないまま『え、何が?ハゲが?』と聞き返した。水戸は頷こうとして、ちょっと顔をしかめた。多分、ハゲ好きにされるのが嫌だったんだと思う。だから。『違う。ミッチーが好きだよ。付き合ってくれない?』なんて言ったのだ。俺としてはもう、許されている答えは一つしかなかった。『わ、わかった』である。

    「……三井さん、聞いてる?疲れちゃった?」
    「聞いてる聞いてる!あれだろ、桜木の内ももにでっけえほくろがあるって話だろ」
    「全然違うし何で知ってるの」
    「ええっと、じゃあ野間の脇腹の傷跡のことだったか。あれすげえよな」
    「本当に何で知ってるの」

     まともに聞いてなかったのがバレて、じっと見つめてくる目つきが怖い。恐怖心を感じ取ったのか、水戸は眦を緩めた。怒ってはないらしい。いやまああいつらのことは信用してるからいいんだけどさ、とかなんとかブツブツ言っている。
     悪いが、考えることが山程ありすぎて水戸の話をちゃんと聞けたためしがない。今の、水戸と付き合ってから今日までの三井には、他愛のない世間話なんかよりももっと重要な悩みがあった。

     すなわち──ケツだ。

     ケツである。俺の大事な、十八年間連れ添ったケツだ。付き合うというには、やはりそういうことも視野に入れていかなければならない。と、思って『わ、わかった』と返してしまった日、早速調べてみたのである。
    ……大変だった。大変なことになっていた。ケツが。
     ひいぃ、と情けない声が漏れた。しょうがない。
    身長で言うと俺のほうがでかいし先輩だし、身長がでかいし、いわゆる上をやるのだろうと漠然と思っていたのだが、絶対ムリだ。萎える気しかしない。そうなったら水戸は当然怒るだろうし、怒ったら俺はボコられるのかも。となると俺に許された答えは一つしか無い。ケツを捧げるしか。
     そういうわけで俺は今日までの間、自己開発に励んできた。めっっちゃくちゃ頑張った。頑張りまくった。何度か泣いた。
    ちょうど告白されてから1ヶ月。タイミングとしてはバッチリだろう。
    よし、今日の三井はいいはずだ。だってスリーを10連で決めた。購買一番人気のカレーパンも買えた。空が青い。
    言うんだ、三井寿。『水戸、セックスできるぜ』って!

    「水戸、セッ……とうって悪いことだよな」
    「窃盗?悪いことだねぇ」

     あ〜〜〜!!ひよった!!!!ハイ!!日和ってるやつ三井寿です!!
     だって怖い。ケツがあれでああなるんだ。怖すぎる。
    そもそも、今気づいたことだけどもしかして水戸って俺に勃たないかもしれない。俺も勃つと思えねえし。主に恐怖で。いやでも、水戸から告白してきたわけでつまりそれは俺のことが少なからず好きってわけで。つーことは勃つよな!?つかそうじゃないと俺の努力が泡となる。勃つって言ってくれ!頼むから。

    「……水戸って、俺でた……ンバリンごっこしたい??」
    「んー、三井さんでタンバリンごっこはしたくないかな」

     ハイ無理!聞けねえ!怖い!怖すぎる水戸洋平!!
     1ヶ月。血も涙もローションも滲んだ一ヶ月だ。その重さは常人のそれではない。俺はもう無駄な時間を過ごしたくないんだ。でも水戸にここで『はは、何言ってんの。ミッチーなんかで勃つわけないじゃん笑』とか言われたら、1ヶ月間まるまる無駄になる。俺はまた、階段で後悔に打ちひしがれることとなる。
     ハアハアと動揺と恐怖で動悸が激しくなってきた俺を見て、水戸は不意に微笑んだ。こういう笑みを見せられると、俺はついこいつが2歳も下だってことを忘れちまう。

    「三井さん。別に無理しなくてもいいからね?」
    「無理ぃ?全然してねえけど??まったく?これっぽっちも?」
    「俺、三井さんとはセックスしないよ」
    「え」
    「もちろん勃つけどさ、今は三井さんに俺のこと好きになってもらおうと思って。一ヶ月経ったけど、手繋ぎしかしたことないでしょ?だから安心して」
    「……みと……」

     ふ、と水戸が優しく笑う。手を繋ぐくらいは流石に許してね?三井さんのこと好きだからさ、と。
    水戸のことをまだちゃんと好きになれていないことがバレていたとか、俺の考え全部わかってくれてたとか、いろいろ思うことはあったけど。でも一番は。

    ──いやケツは????

     え、俺のケツどうなんの??俺の開発しまくったケツは??使い所ナシ?まずい、まずいぜこれ。俺頑張りまくってケツでしかイけなくなちゃったんだけどどうすんだこれ。誰が責任取るんだよおい水戸。お前とセックスしねーとお前の責任にもできなくなるんだが。俺の自己責任。手繋ぎ一ヶ月の関係で突っ走りまくって、ケツ完璧に仕上げちまった変質者。
     でも俺にだって言い分はある。一ヶ月あれば確実にヤると思っていた。少なくとも周りのダチはそういうやつだった。ワンナイトとか言ってるやつも多かったし、それってつまり一日で手ェ繋いでデートしてチューしてヤるってことだろ?だから俺もある日突然超進展することがあるかもしれないと思ったのだ。それが不良のダチの話だってことは理解してる。でも、水戸も不良じゃん。

    「……水戸、俺がビビってるからか?」
    「ん?」
    「俺がお前にビビってるから、セックスしねえの?」
    「うぅん、まあ、そうだね。俺、好きな人には優しくしたいし。無理矢理とか趣味じゃないから」

     無理矢理。ということは段階を踏めばいけるということか。そうかも知れない。そうであってくれ。俺の名誉のためにも。
     水戸を見ると、溶けそうなくらい優しげな瞳だ。目が合うと安心させるように柔く微笑まれた。きゅ、と繋いだ手に力が入ってその温かな体温を感じさせてくる。

    「つまり、チューしてデートしていろいろやったらヤるってことだよな?」
    「いや……うん、そうしたいと思ってるけど。でもゆくゆくの話だから。三井さんのペースに合わせるよ」
    「わ、わかった」

     立ち止まると、水戸がどうしたの?とばかりに伺ってくる。それでも何も言わずに、ただ静かに待ってくれている。手を解こうとすると、予想していたよりもあっさりと離された。
     水戸に見つめられると体がおかしくなる。ドクドクと鳴って、頭が沸騰しそうになって、それが怖い。でもそうも言っていられない。事態は深刻だ。ここでなんとかしないと、俺はこの後数ヶ月、もしかしたら数年、もっと悪ければ一生をアナニーして過ごすことになる。こいつにはなんとしても、俺のケツの責任を取ってもらわなければならない。
     仁王立ちして腕組み。あ、やっぱ腕組みはないか。解いて、でも手ってどこに置いたらいいんだろう。わからなくて、腰のあたりに当てて、いやこれもない。さんざんさまよった挙げ句、結局後ろ手に組んだ。そのまま不思議そうにしている水戸と目を合わせて。
     深呼吸。目をつぶった。

    「ん」
    「…………ん?」
    「ん。ちゅー、しろい」
    「ッ!?な、何言って」
    「いいからとっととしやがれ!!ん!!!!」
    「わ、かったから……後悔すんなよ」

     くい、と胸ぐらを掴まれて、熱い手のひらが頬に当たる。それから、柔らかな感触。
    ふに、と。耳が遠くなって、バクバクと内側からノックされていて、眼球が熱い。頭が真っ白で、なんにも考えられない。永遠のような数秒が過ぎて、ぱ、と解放される。
     おそるおそる目を開けると、はにかんだ水戸。

    「……どう?」
    「お、おぅ……なんか、ヤバかったわ」
    「怖かった?」
    「ん……」

     水戸と接していると、自分が自分でなくなるかのような感覚によく陥る。俺の体が、制御を失うのだ。勝手に高鳴る心臓、ショートしそうになる脳みそ、多くなる瞬き。喉が渇いて渇いて、体が熱くなって、止まらない。バカになる。それが怖い。怖くてたまらない。
     でも、今は俺のケツいじりの努力がまるっと無に帰すことのほうがよっぽど怖い。恐ろしい。俺の貴重な1ヶ月間。血と涙とローションと、あと精液の1ヶ月間。

    「それで、急にどうしたの?いや嬉しかったけどさ」
    「チューは今したから、あとデートして、そんで何すればいい」
    「ちょっと、ちょっとまって。もしかしてさっきの?セックスの話?」
    「そうだよ。さっさとヤりてえんだよ。デートって、こないだ行った吉野家カウントされる?バスケコートは?」
    「三井さん!?え、大丈夫?どうしたの、怖かったんでしょ?無理しなくても俺は──」

     うるせえうるせえ、お前が良くても俺がダメなんだわ。こちとらお前に抱かれると思ってケツ完全開発しちまってんだよ、もう気持ち良すぎてやべえのそろそろ水戸のが欲しいの。お前と付き合ってから見る夢はお前に抱かれる夢だし、チューだってしてぇし、デートだって行きてぇし。エロ本で抜けなくなって、アナニーの時想像するのは水戸のちんこだし、あー!!もう!!何でもいいから責任を取りやがれ!!俺をこんなにした責任をよぉ!!!!」


    「……うん、わかった。取るよ、一生取る。だから三井さんも、責任取ってね?」


     あれ。心の声が聞こえていたかのように、水戸がうっそりと微笑む。手を取られて、ぐい、と引かれる。腰を抱かれて、ちゅ、とまた触れるだけの口付け。耳元で、直接吹き込むように囁かれる。


    「まずは、おうちデートしよっか」

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