ポカぐだ♀ / ほのぼの / いちゃいや冬のお出かけに現れたテスカトリポカは、ファー付きの黒のダウンジャケットに白いセーター、黒いボトムに白いスニーカーと、モノトーンでコーディネートをまとめていた。
そこにふかふかの毛糸で編まれたマフラーのオレンジの差し色が効いていて、シックで大人カッコいいスタイルだ。
「うわぁぁ! カッコいい!」
思わず感嘆の声を上げると、彼は顎を上げて口の端を吊り上げた。
にんまりと笑みを浮かべて、まんざらじゃなさそう。
冬の日本は寒いよ、いつもの格好だとお腹冷えちゃうよ? と言っておいたのだけれど、わたしの助言を聞いてくれたのか完全防寒スタイルだった。
かたやわたしはもちろんコートは着ているしタイツも履いているけれどミニスカートで。
足下からの冷気に脚が晒されガタガタと震えが止まらない。空気がひんやりどころか刺すような寒さで、顔の産毛が凍ってしまいそうだ。
やばい。冬舐めてた。
極寒のロシアも北欧も旅してきたけれど、魔術礼装ってあんなに薄着なのにほんとうに寒さを感じない仕様だから。それに慣れすぎて、冬の寒さを忘れてた。
寒さ対策重視のダウンジャケットとも悩んだんだけど。でもアレ、ふくふく着ぶくれするんだもん。
かわいいって思ってもらえるかもしれない服を選んじゃうのは、しょうがないじゃない?
でも無理しておしゃれして寒くて身体を縮こませているわたしには、テスカトリポカの格好がほかほかとってもあたたかそうに見えてしまって。
「いいなぁ……あったかそう」
思わず小さく本音が漏れてしまった。
「なんだよ。おまえさん、寒いのか? その格好もこの寒さに慣れているからだと思ったんだが」
テスカトリポカが不思議そうな顔でわたしを見てくる。
無理した気恥ずかしさとそこまでじゃないですと装いたい気持ちとでへらりと笑った。
「えへへ。……ちょっと舐めてた」
とはいえ笑ったくらいでどうにかなるくらい東北の冬の寒さはやさしくなくて。
本格的に身体が冷えてきて、芯まで凍えるようだ。鼻先も痛い。
いったん仕切り直ししたほうがいいかな? なんて考えていたところ、テスカトリポカが徐に両手を広げた。
長い腕を水平に広げ、白いやわらかそうなセーターが目に眩しい。
あれ、ぜったい高くてあったかいやつ。きっとカシミヤのセーター。
「ん」
ポカンと見つめるわたしを催促するように彼が短く告げた。それは来いよと言っているようで……
え? これって、え? いいの、かな?
抱きついもいい? いいんだよね……?
ふらふらと、やわらかそうな胸元に吸い寄せられるように彼に近付く。
腕を上げていて生まれているダウンジャケットとセーターの間に腕を回し、彼にくっついた。
広げられていた腕がわたしを囲んで、背中に回った腕が肩を抱き、引き寄せられる。
踵が浮くくらいぎゅうっと、隙間がないくらい。ぴっとりと抱き締められて、上半身がほかほかぬくい。
きっとやわらかそうだと思ったセーターはほんとうにふわふわで、胸元に頬を預けると毛布に埋もれてるみたいだ。
すうっと息を吸う。
かすかに煙草のにおいと、香水のいい香りがする。
あったかくて、彼のかおりに包まれて。うれしくて幸せでトクトクと胸が跳ねる。
「うー。あったかい……」
ふにゃふにゃしたわたしの声に、テスカトリポカの弾む声が重なった。
「そりゃあよかった。この格好を選んだ甲斐があったってもんだ」
「えぇっ?」
どういうこと?
テスカトリポカの胸元から視線を上げて、彼の顔を見上げる。彼は機嫌よく笑うだけでなにも言わない。
もしかして、大丈夫かもしれないけど、もしかしたら凍えるかもしれないわたしのためにあたたかい格好をしてきてくれたってこと?
えぇ……なにそれやさしすぎない?
がんばっておしゃれしてきてよかったぁ!
芯まで冷えていた身体がぬくぬくどころかぽかぽかしてきて、顔が熱い。
でももっとぎゅうぎゅうにくっきたくなって、彼より熱くなったわたしの熱を分けたくて。
もうそういうところ大好き! と気持ちもめいっぱい込めて。
彼の背中に回した腕に、めいっぱい力を込めた。
「全身あったかそうだけど、手袋はなくていいの?」
「おまえさんと手を繋ぐのに邪魔だろ?」
「ひえぇ……」