仗露道場2025/1/7「ワイシャツ」(2023/3/29お題) リビングのドアがガチャッと開いた。ボーッとテレビを眺めてたおれは、ソファに座ったまま首だけで振り返って「おう、おけーり」とやる気のない挨拶をする。せっかくの休みを一緒に過ごせなくて、仗助くんはチコッと拗ねてるってわけだ。
つーかよォ、新幹線乗ったら連絡しろって言っといただろ。迎えに行くっつったのに、タクシー使ってひとりで帰ってきやがった。
ぶんむくれ全開のおれを見て、露伴はびっくりした猫みてェに目を丸くする。引き出物の紙袋をローテーブルに放り出すと、おれの脚に右膝を乗り上げてグイッと顔を寄せてきた。
「なに怒ってんだよ、ナア?」
おれの耳元で小さく弾けた笑い声は、酒の匂いをまとっていた。仕事の付き合いで出席した結婚式ならそれも当然なのに、おれは頭に血が上るのを抑えられねェ。
酔っぱらった露伴は、日頃の気むずかしげな雰囲気が一変してガードがゆるくなる。ふるいつきたくなるようなそんな姿は、誰にも見せたくねェってのに。
このままソファに引き倒して、お高いスーツを無理やりにでも剝ぎ取って。露伴はめちゃくちゃキレるだろうが、服なんかあとでなおしゃいい。おれにかかれば簡単なことだ。
とか傲慢なことを考えたおれをあざ笑うように、露伴はすばやく、するりとジャケットを脱ぎ捨てた。床に無惨にわだかまったそれには目もくれず、上品なシルバーホワイトのネクタイのノットに乱暴に指を突っ込む。
「こっからは君が脱がせるかい? それとも、ぼくが脱ぐのを見てるかい?」
言いざま唇を重ねてきた。最初からフルスロットルで舌を使って、おれの口の中をさんざんに荒らし回る。ようやく解放されて、息も絶え絶えのおれの目をまっすぐ覗き込んできた。
「君をソノ気にさせたいんだ。今すぐにでも、君が欲しい。ナア、ぼくはどうしたらいい?」
どーしたらもこーしたらもねーよッ! そう怒鳴りあげる代わりにキスを奪い返し、むさぼりながらワイシャツのボタンを一つ二つと外していくと、露伴はひどく満足げに喉の奥で笑った。
会えなかった半日間を埋め合わせて釣りが来るほどたっぷり露伴に愛されて、おれからも愛した。身も心も満ち足りて、ふたりきりのベッドでまったりイチャイチャする間も、相変わらず露伴はくすくす笑ってる。
酒が入ると露伴は基本的に躁になる。おれにすっかり脱がされた後、風呂とベッドでしこたま汗をかき、アルコールもだいぶ抜けただろうと思ってたけどまだ残ってんのかな。それとも。
「そんなにいい式だったの?」
「いや全然」
やっぱり上機嫌の露伴は、間髪入れずに返してきた。
「そりゃあ自分の担当じゃああるけど、相手は知らないヤツなんだぜ。特に面白い話もなかったし、つまんねーなァって思いながら座ってたよ」
おれはまったく知らねェ新郎新婦には悪ィけど、おれがつまんねーって思ってたその時、露伴もおんなじことを考えてたんだって想像は、おれには愉快なものだった。
「けど、仲良さそうだったんだよな。ぼくにどんだけ怒鳴られてもシレーッとしてるヤツが、みっともないほどデレデレしちゃってさァ。ああ、こいつほんとに相手のことが好きなんだな、って思ったら」
ぼくも、ぼくの好きなヤツに会いたくなった。汗ばんだ額をおれの額にコツリと当てていたずらっぽく笑う露伴を、いとおしいと心から思った。