仗露道場2025/2/4「12」(2023/5/2お題)「ま、そーいうわけでな」
白い帽子のつばを押さえて、承太郎さんが宣告する。
「十二歳の露伴先生だ」
「どーいうわけっスか‼︎」
おれは思わずソファから立ち上がって絶叫した。シャレたローテーブルを挟んだ向かいには堂々と脚を広げた承太郎さんと、その隣に。
「うるせーなあ」
一心不乱にスケッチブックに走らせていた手を止めて、ジロッと睨んでくる子どもが一人。
確かに面影がある。十二年前はこんなんだったんだろうなあ、というような。イヤリングこそしてないがギザギザのヘアバンド、緑がかった目、スラッとした身体つき、ニコリともしねー愛想のなさ。うん、露伴だ。
承太郎さんはスタンド絡みのヤボ用で東京に来てて、偶然露伴と出会ったらしい。捕まえたスタンド使いを尋問するのに、てっとり早くヘブンズ・ドアーの力を借りようと考えたのが運の尽きだった。
「もうすぐ娘の誕生日でな。とっとと帰りたかった」
「……」
スタンドの名はハーフ・ザ・ワールド・アウェイ。能力は何かを「半分」奪う。
「何か、って。漠然としすぎてねーっスか?」
「実際に発動するまで、何が取れるかスタンド使い本人にもわからねェんだ。先生が興味を引かれたのもそこだった」
それまでの調査で、およそ十日で能力が切れることもわかっていた。なら実害はない、と——ま、露伴なら考えんだろーな。
「そんでもって過去を半分奪われた、と」
「本当は二十四歳の漫画家で、ここにひとりで住んでるってことはわかってる。ヘブンズ・ドアーは使えなくなってるが、見えてねェってのにスタンドのこともすんなり理解したぜ。能力の作用なのか、本人の性分なのかはわからんが」
承太郎さんは肩をすくめた。
「仕事のほうは、十日間何もできなくても問題ねェ状態らしい。それだけ言って『じゃあ、あとはよろしく』ってんだから、剛毅っつーか何つーかな」
「……そりゃ、ムボーとか向こう見ずとか言うんじゃあねーっスかね」
「オイ!」
おれがぼやいた途端、子どもは弾かれたように立ち上がると、ついでとばかりにガンッとローテーブルの脚を蹴飛ばした。
「ものもわからんこんなクソッタレがぼくの恋人だって? 冗談じゃあないッ!」
「はあ⁉︎」
おれはガバッと承太郎さんを振り返った。
「ちょ、あんた何バラしてくれちゃってんスか!」
「しかたねえだろう。おめーみてェなのがこのナリの先生につきまとっちゃ、どう見たって犯罪者だ。十二歳だろうがスタンドが使えなかろうが、先生は容赦ないぜ」
三日の間にスピードワゴン財団の職員が何人も犠牲になったという。
「とうてい面倒見きれなくて、連れて帰ろうってことになったんだ。おめーに無理なら誰にも無理だろうな」
「ひとの話聞けよ、ナア!」
小さい露伴が半ズボンを穿いた足で地団駄踏む。おもむろにそれを振り上げかけたから、おれはとっさにスタンドを出した。
「うわあ!」
横ざまにすくい取るように抱き上げると、露伴はすっとんきょうな悲鳴をあげた。ジタバタともがいているが、たとえ子どもの姿でなくたってクレイジー・ダイヤモンドのパワーの前には無力だ。
「いくらなんでも蹴りはやべーっスよ、蹴りは。それこそ承太郎さんは、ガキだろーと容赦しねーぜ?」
「なんだこれ、きさまか! 離せよッ‼︎」
「じゃあな仗助、あと頼んだぜ」
仔猫のように暴れる露伴に手こずっている間に、承太郎さんはとっとと立ち去ってしまう。信じられねェ思いで、おれはやれやれと頭を掻いた。