ワンライお題:イエスノー枕「このままじゃ、まずい……のに」
何がまずいって、俺という存在が。俺が居ることによって、一二三にとって悪影響を及ぼしていると言っても過言ではない。
事の始まりは数ヶ月前。
俺と一二三は両思いになった。お互いがお互いに長年の片想いをしていたと発覚した時は、二人でヒーヒー言うまで大笑いしてしまった。付き合いたてのカップルっぽくなかったが、今となっては良き思い出だ。
しかし、そこから先が問題だった。
俺の体は一二三に片想いしていた年月分だけ自己開発されている。そんな中で意中の相手とそういうことができる状態になったら?
────もう、ズッブズブだ。完全に深みへとハマっている。あまりにも一二三の部屋に向かう回数が多すぎて、「俺ってこういう欲が強いのか」と、自己認識を改めたほどだった。その被害を一手に引き受けているのは、もちろん恋人の一二三である。彼が俺の部屋に来ることはないから、今の頻度は過分だと思っているのだろう。それなのに、疲れて寝ている時ですら、ベッドに忍び込んできた俺に気付くと相手をしてくれる。最近では一二三の体力を慮って俺が上に乗るようにしているが、睡眠を阻害されるという意味ではあまり状況は改善していないと思う。
つまり、一二三が俺という邪悪な色欲魔に捧げられた生贄なのではないか? と誤認してしまいそうになるくらい、俺が一方的に一二三を襲うことが多い。
そこで、対策を考えた。
ド○キで購入したイエスノー枕を一二三の部屋に設置したのだ。睡眠を優先したい時や、疲れている時はノーを表にして眠ってほしいとお願いした。それなのに。
「……なんで毎回毎回イエスになってるんだ!! まず過ぎるだろ!!」
「ん……? どっぽぉ〜?」
長い睫毛の間から、とろとろの飴玉みたいな瞳がこちらに向けられる。今日もまた、俺は一二三を起こしてしまったらしい。
「おいで、独歩」
駄目だと思っているのに、布団が捲られれば自然と体が一二三のベッドへと向いてしまう。厚い胸板と腕の囲いに安心する間もなく、するりとスエットの中に手が入り込んで来た。一二三がその気になってくれたことへの嬉しさと、無理をさせてしまうことへの申し訳なさが心の中でせめぎ合う。
「……何で、枕のノーを上にしないんだ? 隙あらば……って感じで毎度突撃されると疲れるだろ」
甘い雰囲気に包まれる前に聞かなければいけない気がして、俺は体を這い回る腕を掴んで問いただした。すると、向かい合っていた顔は一瞬惚け、その後笑みの形を作った。
「俺っちが毎日独歩ちんを襲いに行きたいくらいなのに、どして来てくれた独歩を逃さなきゃならないの?」
「……へ?」
「俺っち、毎日でもいーよ」
そもそも、不健康な社畜とジム通いを欠かさない細マッチョとでは基礎体力が違うらしい。悩みが解消した俺がこの後どうしたのかは、ご想像にお任せする。