ワンライお題:ビデオレター ビデオレター
『あ、あ、あー……。これ、ちゃんと映ってるか? …………大丈夫そうだ。一二三、今朝ぶり。家に帰って……俺が家にいないことに驚いた……よな』
ぼやけた画面が調整され、見慣れた可愛い顔が映し出された。申し訳なさそうへにゃりと下がった眉は、きっとこのビデオレターの中で緩まることはないのだろう。素直な表情を浮かべる彼を愛おしく思うと共に、ずっと俺の宝物として残すものなのだから笑顔を写して欲しかったとも思う。
『お前がこの動画を見る頃には、俺はお前が気軽に来られない場所にいるだろう』
自分の意思とは無関係に顔が歪んでしまった。表情管理はお得意の物だと思っていたのに、大切な人が絡むとこのザマだ。情けない。
『……すまん。言うのが遅くなって、……本当に、すまん。ただ、俺の言い分も聞いて欲しい』
「……ッ」
喉から引き攣るような音が勝手に出てしまう。情けない声が出ないように俺っちは息を止めた。
俺っちの感情をかき乱す存在は、視点を彷徨わせながら言葉を続ける。
『俺は1週間の出張に行く。飛行機で行くような場所だ。昔からお前はトラブルメーカーだったが、最近はハゲ課長を脅して有給をもぎ取ったりだとか、出張先に押しかけたりとか……俺の査定に響くような行動が目に余る。だから、出発するまで内緒にさせてもらった。家でおとなしく待っててくれ! お願いだから! ハウス! オスワリ! そのままマテ!』
喚くように要件を言ったのち、動画は終了した。ついさっき連絡ツールから送信された物だ。おそらく時間を指定して送られて来たのだろう。────だって、独歩はまだ飛行機の中だから。
イヤホンを外すと、これまでシャットアウトされていた空港の喧騒が耳に入ってくる。タイミング良くとある便が着陸するというアナウンスが流れ、俺っちは備え付けのラウンジを出た。じきに、待ち人はキャリーケースを転がしながらやってくる。サプライズ演出に飛び上がるほど驚くだろう独歩を想像すると、引き攣るような笑いが止まらない。
「く……ッ……くく。まさか置いてきたはずの俺っちが先回りしてるとは思わねぇよな〜!」
独歩があの汚部屋で大切なものをどこに置くかなど把握しきっている。荷造りも隠しきれていなかった。むしろギュウギュウに詰め込みすぎて皺になりそうだったワイシャツを憂慮し、俺っちがパッキングし直していた事実にも気づいていないだろう。
────こんな感じに鈍いから、出張の食事会という名目でお見合いを計画され、その度に俺っちが阻止していることにも気づいてないんだろうなぁ。