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    うさった

    @usasinki37

    テキトーに流してしまう。誤字脱字をばら撒く

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    うさった

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    補佐官妹。トゥルー1後のお話。捏造。

    踏み出す一歩 “─帰りたくない“
     その一言を聴いて、喜んでしまった事に関して、本当は謝罪をしたい。
     人のせいなのに、人のせいでみんなと一緒にいられるという選択肢を取る、そんな私の劣悪な感情をどうか許さないでほしい。


    「コーラル、やっぱり一軒家を借りよう。アパートは無理だ、そこからは始めると無理すぎる。」
     そう呟いて、その声にコーラルは肩を震わせた。きっと心の中ではわかっていたのだろうけれど、とりあえず必要最低限の物を詰め込んでから現実と向き合いたかったのだろう。
     隙のないリビングに、寝ることのできない寝室。置かれた物という物の山に、コーラルと彼女は少しため息をついた。
    「だよね…。さっき、ナナシとクレヨンについては連絡が取れてね。こちらで受け取る手立ては出来たんだけど…このままじゃ寝れないね…。」
    「ティカは兄が頑張って口から出まかせしまくってるけど、もう少し時間がかかるらしいから…それまでには移動しよう。」
     タブレットを開いて、前から付けていたアタリを見る。ハンソン家との話し合いもそうだが、AI国際連合から何か言われる前に先手先手を打たなきゃいけない為、タブレットには情報が溢れんばかりに残っている。
     とにかく、それなりに良い条件の立地を見つけ、その上で活動しなきゃならないとなると時間もなければ余裕もない。だからこそ、みんなが休める家は必要だ。
    「前言ってた場所にする?あそこまだ、空いてるよ。」
    「えー…っと、確か、3番地だっけ。買い物できるとこはちょっと遠くなるけど…あの辺住宅街から離れてて静かだもんね。うーん…いやでも、迷ってる時間も勿体無いか!僕、少し話を付けてくるよ!!」
     ぽん、と手を叩いて、コーラルは近くにあったノートPC片手に飛び出そうとする。
    「いや、待って待って、他にも書類とか持っていってね!?」
    「あ、そうだった!うぅ、タワーはこれだけで済んでたから慣れないな…。」
    「わかるー…現実って面倒だね。」
    「本当にね。」
     そんな彼を制止してから、彼女は小さく笑って仕方ない事をぼやいた。その言葉を聞いて、少しだけ目を丸くしたが、コーラルは細めて小さく微笑んだ。
     あぁ、本当、面倒な世界だ。





    「あ、引っ越すのね?はいはい、じゃあ、お前の荷物もそっちに持ってくわ。俺?俺のはもう少し此処に置いとく。ティカの話し合い、此処の方が近いから。」
     一通り妹と話した後、彼は電話を切り立ち上がる。二人暮らししていた部屋はそんなにも荷物が多いわけでもないし、一人で荷造りくらいは出来るだろうか。なんて考えながら、リビングに目をやった。

     少し、感傷に浸る。
     随分と長い間二人暮らしを続けていたが、改めて現実に戻ってようやくわかった。
     お互い、無理をしてきたのだと。
     物が少ないのはそのせいだ。食器も服も最低限。嗜好品など目にくれず、かたや勉強の資料、かたや働くために必要の資格の本。仮にも若かった世代が、こんなものに埋め尽くされていたかと思うとどうかしていたのだろう。
     だからこその今だが、それでもやはり無理をしていたのだろう。
     その理由がHANOIだとしたら、思いの外恨んで当たり前なのではなんて、頭の隅でチラついた。
     もしあの時、HANOIに同情しなかったら。
     もしあの時、HANOIの家族に触れ合わなかったら。
     もしあの時、妹が殴ったりしなければ。
     ぼんやり、たらればを考えて、笑う。
    「…逆に、そうだったらこええわ。あいつらと一緒とか、怖くて気が狂うって。」

     長引く交渉を思い出して、ため息が溢れる。
     廃棄処分になった彼女をこちらで引き取らせてほしいと願った時、主人は呆れ返るように呟いた。
    “あれは私のものだ。壊れていてもそれを拝めば良い話では?“
     壊れていても美しいものはあるだろう、なんて聞いた時吐き気を催しそうになった。
     だが同時に、それを否定するかのように言葉を紡ぐ自分も眩暈が起こる。
     ─壊れたものは直らない。捨てるだけの処分品を愛でるなんて、可笑しい。貴方が選んだアレは、もう金糸雀みたいな声で鳴かないし、落ちたままですよ。
     自分で言った言葉を思い出して、喉が焼ける。迫り上がった胃液を改めて飲み込んで、一度大きく背伸びをしてから、脱力した。
     そこから、頬を叩いて、目を閉じる。
     それでも、それでもだ。
     口から出まかせ、嘘八百を繰り出して、救うのだ。
     たしかにHANOIに狂わされた人生なのかもしれない。適当に生きていたら健やかに生きていたのかもしれない。
     他の人と同じように、HANOIに石を投げていたらこんな風に悩んだりしなかったかもしれない。
     それでも。
    「さて、時間かかってるし、ティカに謝る準備もしておかなきゃなー。ジョルジュから貰ったケーキのレシピ、完璧に出来るようになったら許してもらえるかも。」
     今の自分は、誰よりも誇らしい。






     一軒家に移り住み、部屋を簡単に片付けてからまずはナナシを引き取る事になった。クレヨンはサーカスに一度話をつけてからだが、あそこの団長は既に廃棄処分を受け入れ、あとはサインを残すのみ。
     そして、ナナシのいたトーロファミリーは廃棄処分を伝えると書類にサインを入れ、それ以来一度も連絡はない。
     ただ、
    “壊れた?雑務用は直しても面倒だし、そのまま処分してくれ。全く、最後の最後まで使えなかったな、アイツ。“
     と、こぼしただけだ。
     瞬間、湯沸かしポットがPCで殴らなかった事を本当に感謝してほしい。いや、褒めてほしい。ちなみにあとで見たら、そのPCは壊れていた。握りしめすぎていたらしい。
     はぁ、と新しいPCを見ながら簡単な打ち込みをして彼女は親指で目尻を軽く抑える。
     ある程度の将来設計はできてあるものの、そういう輩が溢れているこの世界と対峙するのはやはり恐ろしくもある。
     ─恐怖ではない、憎悪だ。
     相変わらず人に対しての憎しみがカンストしているのは自分の方で、うまく消化出来ない。グルグルと頭の中に螺旋を描いては何処かで爆発を続けている。その度、机を叩いたり、もしくはゲーセンまで歩いてパンチングマシンをボコボコにしたりとなんとまあコスパの悪い。
     そして、その度自分の手が酷い有様になって、コーラルに怒られる日々だ。
     怒られて、必ず言われる。

    “ 君の手は、なんのため?“
     
     あぁ、知ってる、わかってるの。
     私の手は、彼らを癒す為。

     PCを閉じ、背伸びをする。
     明日はナナシを処分場から引き取り、まずはやりたい事をするのだ。
     コーラルに頼み込んで、にっこりと笑われた、やりたい事。

     一から全部、直す。
     何処まで自分の技術が通用するかもわからない。出来ることはあまりないのかもしれない。
     過去の傷は直りにくい。メンテナンスをしたところで付け焼き刃にしかならないのかもしれない。
     それでも。
    「あー…改めて傷見てキレないようにしないと…。こわいこわい、自分が怖いわぁ…。」
     それでも、癒すためにこの手があるなら、使わない理由はない。
     これまでを忘れろとは言えない。心についた傷が簡単には直らない。
     けれど、これからはせめて。
     彼らのやりたいようにしたいように出来る様に、万全に。
     明日は、その、一歩だ。









     ─プログラム確認
     ─…AI機能正常
     ─…言語機能正常
     ─…身体機能正常
     ─USBよる記憶保持及びバックアップ正常。これにより前回の記憶を再ダウンロードを開始します。
     ─…98…99…100% 正常
     ─オールグリーン、本機能を再始動致します。



    「…っ。」
    「あ、ナナシ!!目が覚めたかい!?痛いところはない?意識はハッキリしてる?お腹は空いてない?あー、あと」
    「…いや、ちょっと、待ってください。というか落ち着け…。」
    「あ!ご、ごめんね!」
     ゆっくりと目を開くと、そこには懐かしい顔があった。コーラル・ブラウンという監察官の顔があって、ナナシは正直泣きたくなった。
     勿論、そんなことはしないが目の前のことが現実だということに頭が追いつかないのも正しい。

     夢じゃない。
     路地裏じゃなければ、煙草の匂いや染みついた血の香りもしない。ゴミ袋の感触もなければ、くぐもった空もない。
     あるのは、やたら綺麗な天井に、白いシーツに布団。そして、泣きそうな顔をした監察官だ。

    「…此処は…アンタの家ですか?」
     上体を上げ、支えようとしたコーラルの腕を力を入れないように掴んでから、視界をぐるりと回す。
     タワーじゃないその場所にひどく違和感を覚えながら、ナナシはコーラルの顔を見た。
     彼は椅子に腰掛けながら小さく頷いて、また目頭に涙を溜めている。これは、まともに会話が出来るのはもう少し後だな、なんて思いながら手をコーラルに向けて伸ばした。
     そして、思いっきりつねってみる。
    「い、いひゃい!?にゃ、にゃんで!?」
    「…ははっ、本当に夢じゃないんですね。驚いた、アンタのその弛んでる顔は現実なんですね。」
     パッと手を離せば彼は痛そうに頬をさする。微妙に眉間に皺を寄せながら、
    「う、君の方こそそういう皮肉は健在で何よりだよ。あー、痛かった。もう、自分で確かめてほしいな…。」
     笑いながら、彼はやっぱり泣き出した。







    「というわけで、君が一番初めだよ。クレヨンは今度の日曜日に、ティカは補佐官が頑張ってくれてる。でも、彼がいうにはあと少しだって言ってるからみんな集まれそうだよ。」
     一通り泣き終わって、目が真っ赤な監察官はそう言いながらナナシにココアを渡した。何故ココアなのかと言えば、今のこの家にあるのがそれしかなかった、としか返ってこなかった。
     今思えば生活感のない人で、適当な私生活しか聞いていなかった。ともなると、自分達から離れたあと、自分達を保護することで頭がいっぱいで碌なことになっていないだろうと、ナナシは内心思っていた。実際その通りなのだが。
    「…なんか、かなり面倒をかけてるみたいで、申し訳ないですね…。アンタ、無理してませんか?」
    「んー…まぁ、それなりには…。で、でも、二人が手伝ってくれてるから、大丈夫だよ。」
     途端、出てきた名前を聞いてナナシは少し目を見開いた。そういえば、なんて思い出して辺りを見渡すがあの騒々しいのがいない。
     うぬぼれではないが、目が覚めたと聞いたら否応なしですっ飛んできそうなのに。
     そんな疑問に気づいたのか、コーラルも何かを思い出したようにナナシを見た。
    「そういえば、ナナシ。身体の方どう?痛いとかない?」
     聞かれて、はたと思う。
    「…起きた時にも聞いてきましたけど…何かやったんですか?運んだ時に落としたとか?」
    「ま、まさか!?その逆だよ!」
     言われて、ナナシは軽く腕を回す。
     以前はメンテナンスをしていなかったせいで肩が異常な音を出していたのだが、その音がしない。
     いや、まさか。
     そう思って、手をみる。そういえば手袋がない。そして、その手は、酷く綺麗だ。
     驚いて腕も捲ってみたが、案の定傷一つない。前はもっと傷だらけで、直されることもなく放置されていた。いや、それどころか、傷をつけられていたというのに。
     目ぼしいところを確認して、ナナシは恐る恐るコーラルを見た。相変わらず、彼は締まりのない顔で微笑んで、ゆっくりと扉を見た。
    「…丸2日、部屋から出ずにずっとかかりっぱなしでね。さっき、部屋でばったり倒れちゃった。あ、勿論寝てるだけだけど…よかったら、今の状況を教えてあげてほしいんだ。凄い、頑張ってたから。」
    「…っ。」
     ─我慢していた物が、一気に流れてくる。
     言葉にできないものがボロボロ溢れてきて、頭が痛くなる。
     忘れた、置いてきた、無くした、必要の無かったもの。
     それが目から止まない雨になって溢れてくる。
     せめてと嗚咽だけは噛み殺して、せめてとその分は目から零す。

     直されることもないとずっと思っていた。
     これから先、使い古されて廃棄されるだけだろうと思っていた。
     消えない傷、残る傷、増える傷に無くならない何処かの傷。
     延々と刻み込まれるだけで、減ることがないと思っていた。
     見れば過去を思い出す、最悪なものだった。
     それが、一つもない。

     嗚呼、それはきっと、辛かったんだろう。
     この身体を直すという行為は、人の汚い所と向き合う行為だ。
     誰よりもHANOIに対しての真摯に向き合い、その結果誰よりも人が嫌いになった彼女からしてみれば、なによりも辛かったのだろう。
     傷と向き合う度に吐いたかもしれない。
     傷を直す度に自分を傷つけたかも知れない。
     傷を癒す度に泣いたのかも知れない。


     それなのに、直すことを選んだ。
     
     
     誰よりも優しくて、頼り甲斐のない彼だって、これから酷く辛い思いをするのだろう。
     向き合うべき悪意は碌なものではない。
     それなのに、自分よりもHANOIを優先し、こうやって部屋で笑いかけてくれている。


    「…っほんと、馬鹿しかいねぇな…。」


     手を組んで、顔を隠す。
     涙をこぼしながらも。
     笑みが溢れた自分もきっと、馬鹿なんだろう。












    「ヒャーーーッ!服買い忘れたーー!コーラルの服じゃナナシの腰が危ない!ずり落ちる!!」
    「あーー!?ご、ごめんよナナシ!あ、明日買いに行こうね!うわぁ、僕此処まで太ってたの…あわわわ!!」
    「だからカップ麺三昧はやばいって言ったんだよー!いやちょっとまって、冷蔵庫の中身足さなきゃヤバくない!?クレヨン達くる前には見栄を、見栄を!!!」
    「ケーキ!いや、ジュースも買っておかなきゃ!?」
    「いや、ちょ、落ち着いてください。てか、カップ麺三昧…?」
    「やだーーー!!!顔が怖いー!!」
    「ナナシ、誤解だよ!カップ麺の日もあったけど、どちらかというレンジでチンだよ!!」
    「…一緒じゃないっすか。」
    「健康なのはレンジだよ!!まあ、私は唐揚げ弁当で、コーラルはチキン南蛮しか食べてないけどネッ!!!」
    「…アンタら、少し話しましょうか…ええ??」
    「「ヒャーーーッ!!!」」
    「コラ、逃げん、な!!」

    「「「あ」」」

    「…あ?俺、いま。」
    「コーラルーー!!!やったよ!やっぱりあれであってたんだよーーー!」
    「やったーーー!ストッパー外せたーー!!やったね、ナナシに殴られたよ!!」
    「頭を、頭をズビシッとやられたよーーー!!!やったーーーー!!!」
    「ちょ、アンタら、おい、お前ら、この!!!」
    「「いたっやったーーー!!!」」






     “─帰したくない。“
     その一言を聴いて、喜んでしまった事に関して、本当は謝罪をしたい。
     HANOIのせいなのに、HANOIのせいでみんなから離れない選択肢を取る、そんな私の劣悪な感情をどうか許さないでほしい。
     

     ─それを、お互い様だと。
     皆が笑う。
     書き連ねた文章に、それを願う。
     この本の一つ一つに込めた思いをどうか、読み取ってほしい。
     0と1に区切られた世界を、どうか忘れないでほしい。
     

     どうか、その手を。
     離さないでほしい。





     



     でも実際ストッパーって、あの事件以降外れていたのかちょっと気になる。それとも手動で外す??
    とかの迷子でした。
     最後会話だけで終わったのは、私の体力の負けです←
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