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    うさった

    @usasinki37

    テキトーに流してしまう。誤字脱字をばら撒く

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    うさった

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    補佐官さんとクレヨンちゃんと時々ナナシさん

    365色の毎日



     補佐官は眼鏡のノロイちゃんと同郷です。
     お兄ちゃんも補佐官をしてますが出てません←

     補佐官のお仕事は基本タワーの時から変わらず、施設長のお手伝いさんです。

    トゥルー1後の施設完成して、落ち着き始めた頃のお話です。










    『えぇ、結婚するんです!』
     施設の一際大きい部屋、談話室。普段なら誰かしら一緒にいるこの部屋に、今日はクレヨンただ一人がソファに腰掛けながらテレビから流れてくる声に耳を傾けていた。
     ワイドショーから流れる内容は一人の女性が結婚して今後の人生を語る番組で、普段ならあまり目にしない番組だ。大体この手の番組が流れるとナナシが興味なさげにチャンネルを変えたり、ティカが少しだけ目を細めて悩ましい顔をしているのが気になり番組の内容が頭に入ってこないとか…要因は様々だがまともに見る機会はほとんどなかったような気がする。
     だが、本日は一人きり。コーラルは面会があり、ティカはそれに備えてのお茶の用意。ナナシはその間にコーラルが溜めておいた洗濯やらなんやらを半分ため息混じりに処理をしていた。補佐官二人も朝から施設に新しく入ってきたスタッフの研修があり顔を見ていない。クレヨンというと昨日施設にいた子供が夜遅くに起きてしまったので、怖くないようにずっと傍で一緒にお絵描きをしていたらどうやらお互い寝落ちしてしまったらしく、起きた時にはベットに運ばれており、時間はすでにお昼を回っていた。急いで準備をしたものの、今日は休めとナナシに言われ、そのまま談話室に座らされてしまったので今の今までテレビと向き合っていたのだ。
     そして、もうテレビも見飽きたし、そろそろお手伝いに行きたいなと意気込んでいた時にワイドショーはこの話を流し始めた。
     
    テレビで嬉々と話す女性は自慢げに左手の指輪を見せている。シンプルでありながら綺麗な石が付いている指輪は光を浴びてキラキラと誇らしい。補佐官に見せたら、
    「いいね、あれ。殴るの火力が上がるね。」
     なんて呟きそうだ。
     クレヨンは一度姿勢を正して、改めてテレビに向き直る。いつもの癖でテレビを見ている時にお菓子が並んでいる、なんて思っているせいか何度かテーブルに手を伸ばしてしまうが、残念ながら本日はない。そういえば、朝ごはん食べてない!と気が付いて、だんだんお腹も空いてきた。
     そんな時だった。

    『そうですね、やはり結婚して寂しいなぁって思うのは家から離れることですかね。別にずっと会わないわけじゃないですけど…ねぇ?普段みたいにずっと顔を合わせることがなくなるって思うと、ちょっとだけ。』

     なんて、テレビの女性は呟いた。

     え?え?
     なんて、はてなマークが頭を占拠する。
     いえからでちゃう。いなくなっちゃう?
     まだ声も出ないのに、そんな音が出た気がした。
     無意識に喉に手を当てて、少しだけ指先が震える。声帯はまだ治らず、指先が震えても、喉は振動しない。
     なのに、声が漏れそうになる。
     はっとしてテーブルにあるリモコンの電源を押すと、テレビは音を出すのをやめて静かに眠る。クレヨンはそれを確認するとソファから飛び降りて、スカートの裾を整えると談話室から姿を消した。


     ここは、かぞくのおうち。
     みんなのおうち。
     みんな、にこにこうれしくて。
     ずっと、ずぅっといるって。

     だけど、ああ、なんだろ。
     もし、もし。
     いなくなっちゃったら、さびしい。
     おいていかれるとかなしい。
     けど、それは、きっと。

     ─だめなこと?



     パタパタと走りながら考える。
     廊下を走って階段を上って、コーラルの部屋の近くで足を止めた。ここは色んな人が来るところだから走っちゃいけない。そうナナシに言われているので、クレヨンは一度ピッと立って、ゆっくりと歩き出した。
     その廊下の奥の部屋。そこには補佐官がいつも資料をまとめるために使っていて、ついでに休憩したりしている。くるりと施設を見回ったが何処にも姿がなかったので、残ってるのは此処くらいだ。
     扉の前に立って、呼吸を整える。何故だか変に緊張していて、胸が少し苦しい。
     けれど、このままじゃ頭の中がモヤモヤして何もわからないから、クレヨンはドアノブに手を掛けて扉を開いた。

     小さな音を立てて中に入ると、部屋の中では補佐官が本棚の整理をしていた。集中しているのかクレヨンが部屋に入ってきたのも気付いていない。ぶつぶつと何か言いながら、彼女は棚の本を確認しながら仕舞う行為を続けていた。
     よかった、なんて変に安心してクレヨンは少しずつ彼女に近づいた。狭い部屋だからすぐ気付かれると思ったのに、相変わらず彼女はぶつぶつと呟いて背中を見せたままだ。ここまで気が付かれないと、下手に仕事の邪魔をしては悪いだろうか。そう思ってクレヨンは足を止める。距離は遠くない、けれど、何故か言葉も。
     ─違う。きっと、この距離ならみんな声を掛けるのだろう。
     自分は声を持たないから、この距離ですら何処か躊躇してしまうのかもしれない。
     よりによって、急いできたせいでクレヨンも置いてきてしまった。今の手元には何もない。言葉を、想いを伝える術がない。
     足が完全に止まって、あと数歩で届く距離が、やけに遠い。
     きっと手を伸ばせば届くし、届けば彼女は振り返り笑ってくれる。それなのに、変に身体が動かない。

     さっきの言葉がくるくる回る。
     補佐官は、いなくなってしまうんだろうか。
     この施設から離れてしまうんだろうか。
     塔からずっといて、施設の準備中もそばに居てくれて。
     施設ができた後も、此処にいて笑っていてくれる。
     けど、もしかしたら、いつかはいなくなるのかもしれない。
     この施設から、自分から。
     だけど、それって悪いコトだろうか。
     補佐官の幸せが叶って、良いコトじゃないだろうか。
     だけど、それって。


    「…あー…結婚したい…。」


     瞬間、身体が弾けたように飛び出した。
     動かなかった身体が動いたと思ったら、目の前にいる補佐官に飛びつく形で飛び出した。
     完全に油断していた彼女は思いっきり本棚にぶつかったが、何より何が飛びかかってきたのか見当もついてない。しかし、自分に抱きついてきた誰かの腕、それに黄緑色のふわふわした髪が頬にかかってすぐさま理解した。
    「く、クレヨン!?え?どうした!?気分悪くなった??んんん??」
     声をかけても動かない。ただ、一心にしがみついているように感じて補佐官は一瞬うーんと唸った。そして、そのまま彼女の腕を少しだけ触れて呼吸をした。
     小刻みに触れてる身体は、何よりも訴えてくる。けれど、今はこのままの方がいいんだろうと彼女は考えて、自分がぶつかった本棚を見つめる。目の前にある本は、ちょうど絵本が並ぶところで。
     優しい、色とりどりの本が笑いかけた。


     資料室には椅子も机もないので、補佐官はクレヨンの手を繋いだままゆっくりとコーラルの部屋を通り抜け、談話室へと向かった。その際、洗濯を終えたナナシと目が合い談話室へ行くとジェスチャーすると一瞬訝しげな顔をしてから手を振る。恐らく、これで少しの間は談話室は平和だろう。
     少ししてから辿り着くと、談話室のテーブルの上にはピンクのクレヨンとスケッチブックが置き去りになっており、急いできたんだななんて頷く。それほど重要なことだったんだろうか、なんてちょっとだけキリッとして補佐官はクレヨンをソファに腰掛けさせた。その間も手は繋いだままで、彼女も同じように座り込む。
     二人分の重さに沈むソファは、なんとなくいつもより居心地が良く感じる。それは、人がいるという認識から来るバグのようなものだろうか。
     ちょっと考えてから言葉を選ぶ。昨日の夜、遅くまで子供と一緒にいたクレヨンだ。その子の事を考えて悩んでいる可能性はある。まだその子も此処にきたばかりで少し情緒不安定だ。コーラルと交代で確認はしているものの、昨日は今日の面会やらなんやらで気が利かなかったかもしれない。
     資料室で絵本を探していたものの、未だ好みが分からずじまいで、なんたる情けない。
     なんて、思考をくるくるさせていると手が離れて、クレヨンがテーブルにあるセットに手を伸ばした。そして、一瞬補佐官の顔を見て不安げなまま何かを書いている。
     そして、破った。
     何かを書いては、自分の思いとは違うのか破り捨てる。次はうーんと目を瞑ったあと、大きくバッテンしてから破り捨てている。書いては破って、書いては破って、その繰り返し。
     白い紙にピンクの文字が書かれては、ふわりと風に靡いて落ちていく。ふわふわと溜まっていくそれを眺めていると、なんとなく故郷の木を思い出した。前、ノロイが写真を送ってくれると言っていたのを思い出して、なんとなく笑いそうになったら、
    「……!!…!!」
     目の前のクレヨンが慌てて立ち上がった。
     どうしたんだと思ったら、どうやら紙がなくなったらしく、ついでにクレヨンも小さくなってしまっている。破った紙の量も気になるが、力一杯書いていたのだろう。そんなにもクレヨンが小さくなるとは。
     とはいえ、このままではクレヨンの想いが書き綴れなくなる。そう思って補佐官も立ち上がり、追加の紙を持ってこようと思った瞬間。
    「…はぁ。」
     特大溜息と一緒に、美味しそうな珈琲の香りが広がって、ついでにいうなら眉間に皺を寄せたイケてるお兄さんが扉の前に立っていた。



    「ほら、これだろ。談話室に置きっぱなしになってた時に減ってたから。新しいの。」
    「凄い、気の利く男ナンバーワンは伊達じゃない。コーラルに言って、優しすぎるで賞という名の給料をポッケにねじ込んだほうがが良いのでは?」
    「いりません。」
     ピシャッと言い放つナナシの手から新しいクレヨンとスケッチブックを受け取りながら、クレヨンは二人のやりとりを見て、少しだけ目を伏せた。普段から見慣れてる二人のやり取りはちょっとだけ普段よりもキラキラしてて、心が疼く。けれど、受け取ったクレヨンの色はいつものピンクよりも明るい色で、ふと彼を見るとナナシは視線に気がついたのか、
    「…たまにはかえてみたら?」
     なんて呟いた。
     タワーの時と同じように、彼は相変わらず優しくて。クレヨンは疼いた心に色を塗ると、ソファに改めて腰掛けた。

     美味しい珈琲の匂いに、優しいクッキーの色。飛び交う会話に、色んな音。
     目を閉じて、さっき思った事を思い出しながらゆっくりと呼吸をする。
     ざかざかと書くんじゃなくて。
     今思ってる事を、思った事を、色に乗せる。
     コーラルがタワーで言っていたように、自分の気持ちを言葉にする。
     声に出せなくとも、色に音を、文字に声を。
     今できる、自分の会話を思い出して、クレヨンは文字を綴った。
     
     そして、書いた言葉をくるりと反転させて、二人に見せる。
     ちょっとだけ、唇に力が入って、視線を細める。
     我儘な気持ちが、心を、揺さぶる。

    『補佐官、けっこんしたいの?わたしのこと、おいてっちゃう?」

     文字を読んで。
     補佐官とナナシは顔を見合わせた。
     ナナシは補佐官を指差して、補佐官を自分を指差して。
     そして、

    「私、結婚したいの…????」

     なんて、疑問を疑問で返した。





    「あー、ごめんね、それは誤解させたね…いや口に出てたか…。」
     改めて補佐官はクレヨンの横に腰掛け、ナナシは一人用の椅子に座りながら珈琲を飲みながらその光景を見守った。
     文字の意図を読み取ると補佐官は恥ずかしそうに眼鏡を掛け直すと、クレヨンの方に向き直りスケッチブックに対して首を振った。
    「私は結婚する気はないし、施設から出るつもりもない。ついでにいうならクレヨンから離れる気持ちはないよ。ナナシに、ティカ。それにコーラルともずっと居るつもり。」
     その言葉を聞いたクレヨンはワッと喜び、ニコニコしたように文字を書く。が、一旦止めてまた補佐官の顔を見る。ちょっとだけ首を傾げて、何かを言葉にしようとして飲み込んだ。その光景を見て彼女は少し悩んだ後、小さく笑ってからもう一度首を横に振る。
    「あー、もしかして気にしてる?さっきのセリフ。あれね、そんなつもりで言ったんじゃないの。あのー、そのね。ちょっと前にね…。」
     へへ、なんて少年みたいな笑い方をしてからテーブルの上にあるクッキーを一つ口に放り込む。ポリポリと食べながら美味しいと呟いて、そのまま珈琲を飲む。美味い。そんな気持ちでナナシに振り返ると彼は相変わらず手で払う仕草をした。
     そして、意を決したように補佐官は喉を鳴らして、
    「スタッフの子と、ボードゲームしててね…。けど、運が悪くてさ…。借金まみれになってね…。そのゲーム、結婚システムみたいなのがあってね。上手く、その結婚マスに止まるとキャラクターと結婚できるんだよ。それで、ちょうど金持ちがね…いてね…。」
    「…金目当ての結婚ですね。どうなんですか、それ。」
    「いやほら、どっちみち結婚するボードゲームなんてそんなもんじゃない!?勝つ為に金がいるよ!?」
    「その言い方、他の奴らにしないでくださいね。悪影響なんで。」
     う、っと詰まりながらも彼女は段々覇気をなくしながらクレヨンに笑いかける。自分で言ってることがまあまあ恥ずかしくなってきたのか、視線はあっちへこっちへと泳いでいる。
     けれど、クレヨンはそんな彼女を見てまたクレヨンを手に取る。しかし、また書こうとして、ちらりと補佐官を見た。
     そんな仕草を見て、彼女はまた小さく唸る。頬に手を当てて、何か思考を巡らせた後ニッコリ微笑んだ。
    「うん、だからしないよ。別にみんなを気にしてとかじゃなくて。私が此処にいたいから、クレヨンと一緒にいたいから。まぁ、もし万が一結婚しますーって話になっても、そもそも私が出ていく必要はない。そもそもそいつがこい。婿になればいいと思うね。」
    「…まず、オタクの人間嫌いが治ってないと無理では?」
    「はっはーー!!ですよねー!だから、クレヨン!安心して!!むしろ、クレヨン達の方が覚悟したほうがいいよ!!こんなね、すっとこどっこいがね!!ずっと此処に居座るんだからね!だから」
     ナナシに正論を言われ、最早笑いながらこれからも傍にいる発言をしようとして、補佐官は言葉を宙に放り投げた。
     クレヨンに抱き付かれて、宙に舞った言葉をどうしようかと思ったけれど、優しい温もりがあるのだから、まぁいいかと頷いて背中に手を回す。
     さっきとは違って震えてないその身体は、いつまでも温かい。全身で語られるその言葉は何よりも優しいのだ。
     残念ながら語彙力の引き出しが乏しい補佐官は、今の感情を流暢に色んな言葉で語ることができず、ぼんやりとよくある言葉でしか表現できなくて。色んな色のクレヨンを沢山使える彼女の方がよっぽど素敵だな、なんて考える。
     その上で、補佐官は小さく微笑んだ。
     ─幸せ、と色付けた。








    「補佐官、そういえばこの前、声掛けられたって言ってたけど、大丈夫だった?」
    「え?あー、なんか言ってたけど完全にスルーしたから記憶から排除されてたね。むしろクレヨンよく覚えてたね?」
    「ちょっと困ってたから気になってたの。何かあったら言ってね!一緒に逃げるよ!」
    「優しい!クレヨン優しい!どっかのお兄さんは、は?アンタが?へぇーー?って疑いの瞳で見ていたのに!!もう、私はクレヨンと結婚します!!永住します!!」
    「はい!さんせーー!!」


     なんて、声が治ってからするようになって。
     それを嬉しいとどっかの優しいお兄さんに言ったら、彼は笑ってくれた。
     『昔から、そうだった気もするけどな。割と普通に話してたよ、二人して。』
     そうだったかな。
     そうだった気もする。
     そうだったら嬉しいな。
     色んな“そうだった“を詰め込んで、今日も毎日が進んでいく。
     悲しい過去も辛い日々も、笑顔に押し込んでいた思い出も、色んな色が塗り替えしていく。
     ピンクに、虹に、もっともっと沢山の色に。
     一つ一つが、溢れて。

     きっとこれからも。
     ずっといつまでも。

     365色のクレヨンが、彩っていく。


     ─クレヨン。

     
     その音が、いつまでも。
     色で、溢れかえりますように。












     クレヨンと一緒にいる幸せが毎日に溢れるというのが、私の幸せです←

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