新春、紅梅の匂い立つ、満月の夜だった。即位百年を記念した行事も今日で一段落して、珠晶は肩に掛かる重たい荷物を、漸く一つ降ろした様な心持ちだった。大体、自分が祝われる為に何故こうも様々なことの采配をしなくてはならないのか。記念として下賜する品の決定から、どの使節を掌客殿のどの房室に通すかまで、全ての最終決定権は珠晶にある。確かに客人の序列や記念の品々に関しては、多くの利権と思惑の絡む処だから、誰とも知らぬ官に勝手に決められてしまっては困る。とはいえ、これでは自分が自分を祝って居る様なもので、主賓と供応役を一遍に担っているのと同じこと。嬉しさよりも多忙への恨みに心が傾いていた。みんな忙しいのが嫌なのに、他人を平気で忙しくさせるのね、と百年前と全く変わらない、筋の通った我儘が首を擡げる。
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