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    kanipan55035874

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    kanipan55035874

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    ふみいおとおせいお
    全然振り向いてくれない💚にプライドを捨てて挑もうとする🧡と🩵の話

    プライド捨てろ!(もしかして、男として見られていない……!?)
     ちょうどその時、雷がピカ!と光ってゴロロ…と鳴り響く。ふみやを襲った衝撃はまさに落雷のようで、心と体を嫌に痺れさせた。とてもじゃないが立っていられなくて、その場にガクッと膝をつく。シェアハウスのリビングの真ん中で。
    「ンあ、あぁ、あああ……」
     両手で頭を抱え、呻く呻く。
     そのとき初めて、ふみやは「悔しいなぁ」と思ったし、「どうしてだろう」とも思った。過去の自分が一気に胡散臭くなって、信頼が崩壊する。己が起こしたありとあらゆる言動の芯と言うか、核と言うか。それが変壊していって、全く別なものが構築されていくような。
    とにかくその瞬間にふみやの思想は粉々に破壊された。

     簡単に言えば依央利にフラれた。……フラれたと言うか、その土俵にすら立っていなかった。
     ふみやは日ごろ、依央利がめんこくて、愛おしくて、大事にしたくて、あと恋人になってほしくて……とにかく必死にアピールした。
     依央利には荷物持つよ、とかそう言うのは通じない。ならば言葉で攻めるまで。ことあるごとに「かわいい」とか「優しい」とか、そう言う言葉をかけては抱き寄せたりなんだり。ふみやはこれを「心理的奪取のダンス」作戦と称した。
     空っぽを満たすのはとても簡単である。ふみやは依央利の、何もない心の中に入り込んで、その真っ白い壁をオレンジ一色に染め上げようとペンキを構えていたのだ。
     さてそろそろ依央利もときめいてきたころかな……と鼻の下を擦る。7人分の洗濯物を干す依央利に後ろからギュ!と抱き着いて何かそれっぽいことを言おうとした矢先、

    「ふみやさんって結構そういうノリしますよね」
    「……そういうノリ?」
    「もしかして無自覚ですか?なんかかわい~」
    「え、依央利、俺なんかしてる?」
    「してますよ~、急に抱き着いたり腕を掴んできたり……なんか高校生のノリって感じ。懐かしいなぁ。さるちゃんもよくこうやってちょっかいかけてきたっけ。つっついたり変に蹴ってきたりさ。あ、そっか。ふみやさんってこの前まで高校生だったから……ふみやさんが学ラン着てるとか想像できないや」
     あはは!と軽く笑って、依央利はふみやの腕を解き、何もなかったかのようにまた洗濯物を干し始めた。

    今日はからりと晴れた青空で、どこまでも透き通るようで、ふみやもこのまま青空にスっと溶けていきたい気持ちになる。

     男子の悪ノリって思われてたってこと?
     それってつまり、なんとも思われてなかったってこと?
     気持ちが伝わってないどころか、土俵にすら上がれてないってこと?
     ってかガキ扱いだった。
     可愛いって、眼中にないってことじゃん。

    「わ、あぁ……ああああ」
     大撃沈。
     ふみやのプライドとか、自尊心とか。全部が木端微塵に砕け散った。
     「依央利も自分のことを少なからず意識するようになっただろう」という自信が真上から押しつぶされたのが堪えた。蓋を開けてみれば好きだったのは自分だけで、相手にとってはじゃれてくる子犬のようなもの。ウンコで笑う男子高校生と同じ。
     とてもじゃないが顔を上げられない。今自分がどんな表情をしているのか分からないが、絶対に誰にも見られたくなかった。
     こればかりは幸いで、ハウスにはおそらくふみやと大瀬しかいない。依央利は買い物に行った。大瀬はどうせ部屋から出てこない。
     今日はもうずっと部屋に籠ろう。本当に一人になりたい。そう思って、のそり、象が起き上がるように重い頭を上げる。
    「あの、」
     裸足のつま先が見えた。心配そうにしゃがんで顔を覗き込むのは大瀬である。
    「ど、どうした、んですか」
    「っあ~、マジか」
    「唸っている声が聞こえたので」
    「そんなに?」
    「はい。具合悪いんですか、休んだ方が」
    「うん。悪い。つらい。心が」
    「……話、クソでよければ聞きます、聞くだけで、なにかできるとかはないですけど」
     差し伸べられた手のなんと温かいことか。
    風邪のときのお粥、偏頭痛のときのロキソニン。ふみやは「シェアハウスしてよかった」と強く思いながら、その手に縋ったのだった。




    「……」
    「正直に思ったことを言ってほしい」
    「カスですね」
    「んん……」
    「何て言うか、驕ってますよね。いおくんはコレ言っておけば靡くだろう的な、そんな傲慢さが透けて見えます」
    「めっちゃ言うね」
    「正直に言えと言われたので」
     これまでのことをすべて話した/聞いたあとの第一声である。
     気がつけばふみやは床に正座していたし、大瀬はソファにふんぞり返っていた。
    「優しいとかかわいいとか、それ以外に何か言いました?」
    「特には……」
    「いおくんはかわいいも優しいも綺麗も、全部言われ慣れてます。ほぼレシートです」
    「俺の言葉はレシート以下、と……」
     新卒の顔でメモを取る。
    「あと、ふみやさんって真面目にお付き合いしたことないでしょ」
    「大瀬だけには絶対言われたくない」
    「うるさい!」
    「おおコワ…」
    「告白したことは?」
    「ない」
    「デートの計画立てたことある?」
    「相手が行きたいってところについて行ってた」
    「LINEの返信は?」
    「えー……気が向いたら」
    「好きって言ったことある?」
    「それみんな言われたがるよな」
    「……」
    「……」
    「流刑、かな」
    「なにっ」
    「ユダも裸足で逃げ出します」
    「ガンジーの対義語みたいな…」
    「よく今まで刺されませんでしたね」
    「2回未遂😉✌️」
     顔の横でチョキを作る。ぺち…とウイングもして見せた。大瀬はそのチョキを掴んで左右に割いた。
     ふみやというのは鯉のいる池に投げ込まれたパンの様で、常に入れ食いだった。
     これまで関係を持った女の子は2桁超え。この数、長く続かないと言うのがいちばんの要因である。短いスパンで女の子が入れ替わり入れ替わり、回転寿司のようだった。
     彼は言われるまま、「付き合って」と言われたから付き合ったし、「別れてほしい」と言われたから別れるを繰り返していただけ。彼はいつも受動的で流されるがまま。
    いつも好きになるのは相手だった。(ふみやは初めて自分から人を好きになったのだ)
    「アナタ、人を好きになったことがないんですね」
    「まあ、ね」
    「恋人を生殖行為のカモフラージュと思ってますか」
    「そこまで捻くれてはないよ。でも、ちゃんと好きだなって思ったのは依央利が初めてだよ」
     そう言って、白いシーツがはためく庭を見る。ふみやの目がきゅっと細くなって、無表情だけど優しい顔になる。目線の先で洗濯物に埋もれる依央利の面影を思っているのが大瀬にはわかった。
    「……いおくんにはもっとこう、直接的な言葉がいいと思います。好きだよって言ってあげたほうが」
    「えー……それはちょっと恥ずかしい」
    「何なんですか」
    「好きって言ってもらうのって贅沢だったんだな」
     ここでようやくウン十人の女の子の思いが伝わったのだ。ふみやは眉毛をヘタ…とさせて今までの身の振り方を鑑みて誤魔化すように笑う。自分が情けなかった。テーブルに後頭部を乗せて天井を見る。
     大瀬はたくさん喋って疲れたので、静かにソファに座った。そしてふみやの仰け反って浮かび上がった喉仏をジっとみていた。
     大瀬は、ふみやの喉仏には悪魔が住んでいると思っていた。言っていることはいつも不審で不気味だし、するりと人の心の隙間に入ってくる。声を発するたびに蠢く喉仏が、どうしても「仏」に見えなかったのである。
     しかしまぁ、それもただの骨だった。口が上手いように見えて一丁前に口下手で、単純な作りをしていたのだ。
    「でもさ、」
     喉仏が上下する。それに合わせて大瀬の目線も上下した。
    「大瀬もフラれてたよね」
    「ぶっ」
    「1週間くらい部屋から出てこなかったときあったよね。アレ、フラれたんでしょ」
    「……」
    「何で言われた?」
    「……自分は大きな猫みたいって言われました」
    「おお〜笑」
    「隠れて構ってもらいたがったり、割とスキンシップが多いところが猫みたいです〜って」
    「勝った、俺まだ男子高校生〜」
    「……」
    「……3回みたら死ぬ絵LINEに送るのやめて。めっちゃ死ぬじゃん」
    「そうですよねクソ吉は豚小屋の、真っ先に共食いの対象にされる薄汚れたブタ畜生ですから」
    「めっちゃ言うじゃん」
    「ブタ吉なので」

     さて大瀬。彼もまた依央利がめんこくてしょうがない一人だった。
     遡ること1週間ほど前。
    「なんか大瀬さんって猫みたいですね。人前でベタベタしてこないところとか。なんかかわい〜。これで捺印してくれたらもっとかわいいんですけど」
     大瀬は急に死にたくなった。べったりと依央利の背中に寄りかかって、王様の顔で絵を描いていた時のことだった。

     あ、ぜんぜん。ぜんぜんいおくんに気持ち伝わってなかった。

     その事実が突然横から殴ってきたものだから、大瀬は一瞬あらゆる動きを止めて……むくむくと湧き上がってきた希死念慮に飛びかかった。
     ここで飛び降りたり首でも吊ってしまえばいおくんに変な気持ちを負わせてしまうかもしれない。
     大瀬はただ掠れた声で「クソ吉なんで…」と言って背中を丸めた。ちょうどその時、洗濯機が鳴って依央利が離れて行ったので、くしゃくしゃに歪んだ顔を見られずに済んだのだ。
     
    「え、ただベタベタしてただけ?」
    「いおくんは僕の特別だよとは言いました。と言うかブタ吉からこれ以上言われても困るだけでしょ」
    「特別、ねぇ…」
    「何ですか」
    「さっきのアドバイスってもしかして体験談?」
    「傷口抉るの上手ですね」
    「まあね。ま、仲良くしようよ。俺たちもう仲間だろ。チーム友達、チーム友達」
     ふみやは下手くそに踊り、大瀬は「チーム友達 やめたい」と検索した。
    「単純に好きだよって言えたらなぁ」
    「それはちょっと恥ずかしいですよね」
    「俺だって、男なんだけど……?」
    「少女漫画じゃないんですから」
    「これはダサいよな」
    「あはは」
    「わはは」

     つまるところこう言うことだ。
     本当に好きなら好きと言えばいい。
     男として(恋愛対象として)見られていないなら「俺だって男なんだけど?」と言えばいい。
     自分本位で想いが伝わっていると思うからダメなのだ。行動や言葉の解釈を相手任せにするからダメなのだ。自分はアナタのことをこう思っています!好きです!と声を大きくしないと伝わらない。
     ただ彼らはこれをしない。恥ずかしいから。ダサいと思うから。その根っこには相手にキモいと思われたくない、嫌われたくないという防衛本能が働いている。それを乗り越えての恋愛なのだが、大瀬はまともな人間関係からないし、ふみやには歪な一方的な成功体験しかない。
     二人はおおよそ高校生くらいで経験する恋のやり取りを一歳経験していない、と言うことである。



    「……ってこと。わかった?」
    「テラ様」
    「はいテラ様…」
    「全くこのおネンネちゃんたちは……」
     帰ってきたテラくんは、リビングで蠢く二人にこのように説明した。
    「恋ってのは相手との戦いじゃなくて自分の羞恥心との戦いなの。ダサいって思ってるうちは常に負けてると思いな」
    「今日のどんな言葉よりも重みがある」
    「本物は違いますね」
     二人はキリ…と正座して新卒の顔でメモを取る。テラは数学ヤクザの声色で続ける。
    「恋愛初心者の君たちにとって最も重要なことは何だと思う?はい伊藤くん」
    「経済力です」
    「違う。はい湊くん」
    「清潔感です」
    「違う。正解はプライドを捨てることです」
     どこからか引っ張ってきたホワイトボードにプライドと書く。テラは眉間に皺を寄せた険しい顔でプライドにバツをつけた。大袈裟に首を振って髪をかきあげ、「これはすごく難しいことだよ」と続ける。
    「恋って平等じゃないからね。好きになった瞬間、振り向いて『もらう』側になるからね。そこで上下関係ができちゃう。常に自分が下である内でやりくりしなきゃなんだから、ロクでもないプライドなんか捨てておかないとやってけないよ。自分から好きって言うのは確かに照れるかもだけど、これやんなきゃ何も伝わらないんだからさ。当たって砕けてって、覚悟決めないと」
     そこまで言うと、彼はひとつ息を吐いて二人の反応を見ずに台所に行って水を飲んだ。こんなに長く、語気を強めて喋ったのは久しぶりだった。
     ふみやと大瀬にとって、テラの言葉はものすごく腑に落ちるものだった。
     確かに、今まで何となくそう言う直接的な言葉を避けていた気がする。だって面と向かって好きって言うの、なんか恥ずかしいし。
     二人はバツの悪そうな顔でポリポリほっぺたや眉間を人差し指でかいた。自分の現実を急に突きつけられて、急に受け入れなくてはならなかったのだ。何もかもに追いついていない。
    「ん……」
    「ンン……」 
     小さく「ん」と言うだけだった。
     いつの間にか随分と時間が経っていたようで、強烈な西日がリビングヘと射しこむ。窓に背を向ける形の大瀬とふみやは逆光で二つの大きな影になった。膝をついてだらりと力無く座り込む二つの影は、ベクシンスキの怖い絵画のようにも、情緒のある青春の1ページのようにも見える。 
     はてさて、この男どもはどうやって立ちがるのか。ごく、とテラの喉が鳴る。

    「ただいま〜って、うわ、何?」
     ……大きな荷物を抱えて依央利が帰ってくる。
     先に動いたのは大瀬だった。
    「いおくん」
     重い荷物を抱えて赤くなった手を握って、真っ直ぐに目を見た。大瀬の顔には力が入っていて、鼻の頭がくしゃりと歪んでいる。
    「いおくんってどう言う人が好きなの」
     ほとんど吐き捨てるような勢いだった。さらに一歩前に距離を詰める。
    「全然伝わってなかったけど、僕はいおくんが好きだよ」
     こう言う時に思い切りがいいのは大瀬の方である。
     テラは「行った……!」と思わず膝を叩いた。そしてふみやくんはどう動く…!?と唾を飲み込む。
     ふみやは立ちあがろうとバランスを崩し、トトト、と前によろめきながら
    「お、れも!俺も好き、大好きなんだけど!」
    と情けなく、そして年相応に言い放つ。
     テラは腕を組んで冷蔵庫に寄りかかり、ふーん、やればできるじゃんと静かに頷いてみせる。そして片目を閉じて依央利を伺った。
     さあどうする。ここまでされて、さすがに何も感じないと言うことはない。大瀬に手を握られ、ふみやを年相応にしたメスカマキリ。
     どうする。どうする依央利。

    「え、何?ありがと…?」
    「ん……?」
    「は?」
    「え、……ありがとう」
    「ん?ん?」
    「え?」
    「……それだけ?」
     思わずテラが口を挟む。依央利はキョトンとしたまま頷いた。黒塗りの目を丸くして少し首を傾げてみせる。
    「何急に?なんか母の日みたいで恥ずかしくなってきたんだけど。ま、いっか。奴隷はせっせと働きます。今晩はピロシキとボルシチですよ」
     そして何もなかったかのようにテラの横を通り過ぎて忙しそうにし始める。
     手際よく動き回る後ろ姿を何か信じられない光景を見る目で見ていたテラはふと思ったことを口にした。
    「依央利くんって恋人いたことあるの?」
    「えー?何ですかもー……そうですねぇ」
     はたと手を止めて少し考える素振りを見せたあと、依央利は「いましたよ」と淡白に返す。
    「付き合ってほしいって『お願い』されたらとりあえず片っ端から付き合ってましたよ」
    「……自分から告白したとかはないの?」
    「そもそも付き合うってよくわかってないんですよね。だって恋人になったら対等になっちゃうじゃないですか!それって僕的にはかなり無しというか。普通に嫌です」
    「……あそう」
    「じゃ、ご飯できるまでもうちょっとかかるので待っててくださいね」
    「うん」
     テラは静かにリビングを出る。

     そうだった。本橋依央利はこう言う男だった。
     平等を嫌い、不平等を掲げる。不公平にこそ燃える。
     恋は資本主義である。行動した者だけが先へと進めるのだ。なお、本橋依央利を除いて。彼は一人だけ古代ギリシャの価値観で恋愛をしているようなもの。いつも前提は「奴隷である自分」。
    「そりゃ伝わらないよね!」
     鏡のテラに向かって笑って見せた。



    「依央利、俺も男なんだけど」
    「いおくん」
    「おい、こら」
    「あの、ちょっと」
    「はいはい後にしてね。座ってて」
    「……」
    「……」
     軽くあしらわれるたびに二人の自尊心は深く傷つく。 
     それでも諦めない。場所を変え言葉を変え行動を変え、いつか「僕も」と返してもらうその日まで。
     捨てたプライドを笑って撮りに行くその日まで。




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