次の約束「あれ?えっと…」
「お探しなのは俺のほうだろうな、久々知先生」
「こっちが鉢屋先生か。双子なんですか?」
「え、どういうこと?」
雷蔵は相変わらず静かに微笑んでいるが、三郎と兵助に面識があることに八左ヱ門と勘右衛門は驚きを隠せない。
「最近から、近くの塾でバイト始めたんだ。兵助って名前を聞いた時に『もしかしたら』と思ったけど、やっぱり同じ人だったんだな」
「俺は理科しか教えていないけど、鉢屋先生は英語も国語も教えているから出勤日数が多い分よく見かけるし、生徒からも時折話を聞くんだよね」
世間は意外と狭いんだな、なんて話で盛り上がっていると、スマホの音が鳴った。その音に、同じ高校出身の3人の表情が変わる。
「…おい、あいつからだろ。」
「…」
「まだ切れてないのか」
「今回はどんな内容なの?」
「あのー、あいつって…」
険しい顔の三郎、心配そうな顔の雷蔵、何とも言い難い表情の八左ヱ門に、勘右衛門がおずおずと話しかける。
「八左ヱ門の元カノだ。腐れ縁で、中学校入学前からくっついたり離れたりを繰り返しているらしい」
「家も近所だし、腐れ縁ってやつなんだろうけど…」
「いっつも『ハチ、ハチ』ってうるさかったよな。犬かよって」
三郎のこの言葉に、兵助の表情が曇る。
「…で、アイツは何だって?」
三郎が続ける。
「…今度のゴールデンウイーク、こっちに遊びに来たいから泊めてくれないかって…」
「んなもん駄目に決まってんだろう。そもそも、アイツの我儘で別れたんじゃないのか」
「そうだけどさぁ…」
「これまでの付き合いも、親同士も仲がいいから断れないとか言うんだろ。お前はいつもそうだ」
「三郎、ストップ」
雷蔵がたしなめる。
「八左ヱ門的にはどうなのさ?その子のこと。まだ思うことがあるの?」
勘右衛門が質問する。皆の視線が八左ヱ門に集まる。
「高校卒業を気に地元を離れるから、今度こそ終わりにしようって言われたんだ。それに、同じ方面に進学する奴と付き合うことにしたから、って」
「それなのにこのザマだ。さっさと断れよ」
「ちょっと、三郎」
「八左ヱ門はどうしたいの?」
雷蔵が三郎をまたたしなめ、勘右衛門が更に八左ヱ門に問う。
「…俺は、新しい道を歩みたい」
硬い表情で八左ヱ門が言った。
「じゃあさ、その子が来たいって言ってる日に、俺らでどこかに出かけちゃえばいいじゃん」
「名案だな、勘右衛門。俺はこのゴールデンウイークは特に予定は入れていない」
「いいねぇ。僕、行ってみたいお城があるんだ。そこでお花見もしたい」
「雷蔵が迷うことなく言うなら、行き先はそこに決まりだな」
「じゃあ俺、旅のしおり作る!兵助も行くよね?」
「あ、うん、行くよ。おやつ作って持って行っていい?」
「豆腐はおやつに入らないけど大丈夫?」
こうして、五人で出かけることが決まった。