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    飛鳥(Gemini 10)

    @asuka11289

    安赤ハピエン小説。関係性が好き。

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    飛鳥(Gemini 10)

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    豆腐の日。10月2日。
    「コーヒーの日」の続き。

    柔らかな想い「ボウヤ、豆腐というのは自分で作れるものかな」
    「は? ……中に何か仕込むの?」
    「物騒だな。純粋に興味がある」
     それがあまりにも楽しそう……いや、幸せそうな顔なので、コナンは察した。
    「降谷さんにプレゼントしたいんだね」
    「さすがだな。昨夜食事をしに出かけて、彼が冷や奴を嬉しそうに食べていたのを見てな」 
    (それ、赤井さんと一緒なのが嬉しかったんじゃねーの)
     降谷の赤井に対する信頼は絶大なもので、共に潜入していた頃の関係は聞かずともわかる。前から互いに執着が過ぎるとは思っていたが、潜水艦の時の「ライ」「バーボン」で確信した。「もちろんだよ」って何だ。「組織随一」って最高の褒め言葉だろう。
    「それで、手作りしようと考えたんだね」
    「ああ。花やチョコレートもいいが、季節外れだしな」
    (花……チョコ? あー……そういうこと)
    「降谷さん、きっと喜んでくれるよ。あの人、何だかんだ言って赤井さんにはめちゃめちゃ素直だからさ」
    「だといいがな。……ふむ、まずは材料を買いに行くか」

     スーパーで降谷と出くわしたのは、特段不思議なことではない。赤井とそろって今日と明日は休みだそうだ。
    (もともと休みだったんだろうけど……公安でいろんな噂が飛び交ってそうだな)
     素顔の赤井と出くわして、目が潤んでいる降谷。コナンの存在を忘れ去っている赤井。
    (大体、二人とも休みなら降谷さんちに押しかけそうなもんだけどなあ。それをあえて引くのが大人ってことなんだろうか)
     それが赤井の策略だとしたら、降谷は見事に嵌まっている。昨夜から会いたくて仕方がなかった、と顔に書いてある。頼むから野菜売り場でキスとかハグとかはしないでくれと、小学生は心から祈った。
    「降谷くん」
    「赤井……」
    「君に聞きたいことがある」
    「はい……」
    「絹と木綿と、どちらが好きかな」 
    「……はい?」
     降谷の目が点になったのを初めて見た。この人でもこんな顔をするのか。
    (なんつーか、さすが赤井さん)
    「豆腐の話だよな? 絹……かな」
    「了解。そうだな、君、明日の予定は?」
    「モーニングの時間帯はポアロで、あとは暇です。何もなければこっそり庁舎に行くか、未解決事件の調査に出ようかと」
     いや休めよ、風見さんに怒られるぞ、と少年は言ってやりたかった。何なら未解決事件は引き受けるよと口を挟もうかと思った。
     ……が、意外な展開に、今度は自分が目を点にする番だった。普段より幼い表情になった降谷が、こんなことを言い出したのだ。
    「もし良かったら……明日、うちに来ませんか。昨日の続き……っていうわけでもないけど」
    「いいのか」
     こく、と頷くのがかわいらしい。いつぞや風見の腕をひねり上げた時とは別人だ。
    「もう子供みたいな真似はしないって……余裕な振りをしたけど、ダメだった。あなたのことになるとね」
     我慢がきかない、と続いた声は、真っ昼間のスーパーに響かせてよい種類のものではない。壮絶に色っぽい。青と緑の瞳が妖しく見つめ合う。
    「物足りなかったのは俺も同じだ」
    「赤井……」
     少年は逃げ出したくなった。
    (メシ食っただけじゃねーのかよ!? 展開早すぎ!)
     自分が聞いてはいけない会話だ。どう考えてもキス止まりではない。キョロキョロしながら離れようと試みたが、この二人が見逃してくれるはずもない。
    「コナンくん、何探してるんだい?」
    「あ、えっと」
    「俺の必要なものはそろった。ボウヤも何か買うんだったか?」
    「いや、あの、お邪魔かなーって。でもさぁ、そういうの、あんまり人前でしないほうが」 
     大人二人は、顔を見合わせてきょとんとした。

     赤井は明日の午後一時に訪問することを約束し、コナンと共に居候先に戻ってきた。材料を出し、豆腐の試作を始める。
    「赤井さん」
    「ん?」
    「本当は、失敗作でもいいから作って、今日のうちにも降谷さんとこに行きたいんじゃない?」
    「否定はしない」
     赤井は、まずは豆乳を使う簡単な作り方に挑戦している。これが成功したら、大豆からも作ってみるつもりだ。
    「一日も……一時間だって離れていたくない、って顔してる」
    「ボウヤにはお見通しか。だがまあ……待つのは慣れているよ」
    「え?」
     待てないからああなってそうなったって話じゃないのか? 
    (いや……もしかしたら赤井さんの潜入時代に、既に関係があったのかもしれない。そうでもないと、あの執着にも赤井さんの態度にも説明がつかない。……となると)
    「赤井さん、まさかっ」
    「何を慌てているんだ。別に、無理やり迫ったり迫られたりはしていないぞ」
    「え……」
     手は休めず、ニヤッと笑いかけてくる。エプロン姿が妙に似合う。
    「ボウヤも年頃だからな。興味があるのはわかる」
    「え、いや、その」
    「期待に添えなくて申し訳ないが、昨日は話をしただけだ。いくら時間があっても足りない。彼がもっと話したいと思ってくれているのは、目を見ればわかったよ。それを口に出せずにいるのもな」
    「紛らわしい会話すんなよ……」
     脱力した小学生を機嫌よく眺めながら、赤井の豆腐作りは順調に進んでいく。

     降谷が笑顔になれることなら、何でもしてやりたい。彼は自然と自分を笑顔にしてくれる存在だ。触れたら壊れてしまいそうなほどの、柔らかくて真っ白な想い。闇を潜り抜けてなお、汚れることも、変わることもなかった。
    (ゆっくりでいいさ。あとは彼の自覚の問題だからな)
     それにしても確かに、今日スーパーで見せた顔はかわいすぎた。あまり人前でしてほしくはないが、その表情を引き出せるのは自分だけだという優越感に浸っていたいのも事実だった。
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