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    pon69uod

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    2018年頃、ぷらいべったーより再掲

    喧嘩をするAS至誠館のほづかなことの始まりは些細なことだったように思う。
    「火積くんのバカバカバカーッ!朴念仁!鈍感!!むっつりスケベ!もう知らないっ!」
    三つ目の悪口に固まってしまったらしい火積を背に、かなでは全力で走り去った。走って、走って、走って、もう大丈夫だろうというところで立ち止まって初めて、火積が追いかけても来ていないことに落胆した。
    どうしてこう、うまくいかないのだろう。
    夏の大会を乗り越えて育んだ絆は、友情を超えて恋人同士のそれとなった。火積は顔のわりに随分と純な男で、知り合った頃からずっと、かなでの行動に初々しい反応を返してくれていた。好きだと告げれば驚いたように見開いた目をゆっくりと伏せて照れて見せ、飛び付くようにして抱きつけば息を飲むようにして動きを止めた後、恐々と抱きしめ返してくれる。そう、火積は何も変わっていない。変わったのは、かなでのほうなのだ。
    かなでは、「好き」とひとつ言う度、ぎゅっとその体を抱きしめる度、火積への想いがどんどん強くなっていっている気がするのだ。より具体的に、色濃く鮮やかに、かなでの中での「好き」が固まっていくような感覚。けれども火積のほうはどうだろう。火積の性格はよく知った上でのお付き合いをしているつもりだ。漫画やドラマに出てくるようなロマンチックな台詞を言ってくれるだなんて期待はしていない。けど、だけれども。思い返せば火積の方から、「好きだ」とか「愛してる」だとか、言ってくれたことがあっただろうか。火積の方から手を繋いでみたり、抱き締めたり、そんな恋人らしい行為をしてくれたことがあっただろうか……ーーなんだか、無いような気がしてきた。こんなにも恋をしているのは、もしかして自分だけなのではないだろうか。
    (火積くん、優しいから……告白が断れなくて付き合ってくれてるだけなのかも……)
    しょんぼりとその場にしゃがみこむと、アスファルトはちょうど昨日降った雨のせいか、ひんやりと湿っぽい。ケータイの着信も、メールの受信もゼロ。なんだかますます悲しくなってきて、かなではとうとうしくしくと泣き出してしまった。
    と、その時である。
    「……あんた、案外足が速いんだな……って、泣いてんのか!?」
    はい、泣いてます、貴方のせいです。そう言おうと開いた口が、ぽかんと、そのままの形で固まった。
    大きな袋。季節外れのサンタクロースよろしく、火積は一抱えほどもある大きな袋を持って、困ったように立っていた。
    「その……むっつり……は、ともかく……朴念仁だの、鈍感だの……正直、思い当たるフシしかねぇ。」
    俺はこんなだからよ、と申し訳なさそうに語る火積をみていると、なんだかむくむくと謝りたいような気持ちが膨らんできた。どうしようもない。だって惚れている方が最初から負けているのだ。こうやって、探しに来てくれただけでも、もう十分お釣りがくるような気がするほどに。「言い過ぎた、ごめんなさい」と言って、またぎゅっと抱きついて、照れて慌てる彼を見るだけでも幸せじゃないか。そうだ、そうしてしまおう。しかし、それでは火積の持っている袋が随分と邪魔だ。ちらりとそちらに視線を送れば、気がついたらしい火積が不自然に目を反らした。
    「その……これ、は、」
    がさりと音を立てたその袋が、かなでの目前に晒される。
    「あんたに、やる。」
    紙、紙、紙。飾り気のないシンプルなもの、ファンシーな絵柄のもの、シックな色合いのもの。統一性のない封筒にかかれた同じ宛先。『小日向かなで様』。かなでに宛てたらしい手紙が、いくつも、いくつも溢れた。
    一通、手に取って開く。
    『弁当、旨かった。作ってくれて、ありがとう。嬉しかった。』
    開く。
    『手を繋ぐの、初めてだったから緊張した。あんなに力が入ってちゃ、痛くなかったか?次は、もう少しゆっくり来てくれると、ビビらないで済むかもしれねぇ。』
    開く、開く。
    『帰り、別れ際に言おうと思って、今日も言えなかった。全然、その……彼氏、らしいことしてやれなくてごめん。』
    『家に着いたら、これを言えばよかった、あれも言いたかったって思い出すのにな。なんで顔を見たら、何も言えなくなっちまうんだろう。情けねぇ。でも、楽しそうに話してるあんたは良いと思う。その……上手く言えねぇけど、』
    何度も何度も消した跡のある手紙。きっと毎日、毎日、かなでが何かをする度に。火積は、どんな想いでこの手紙を書いていたのだろう。ちまちまと、机に向かう広い背中を思うと、なんだかもう、愛しくて堪らなくて、かなでは思わず火積の胸に飛び込んだ。
    「ひどいこと言ってごめんなさい。あのね、私、やっぱり火積くんが好き。大大大、大好き!」
    「……っ、」
    返ってこない『大好き』の言葉も、ぎこちなく添えられた手も、前と変わらないけれど、かなではもう、知っている。きっと今夜の手紙には、「俺も悪かった、好きだ」の文字が、何度も消されながら書かれることだろう。
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