Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    SueChan_Factory

    @SueChan_Factory

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 💙 🎉 🎀
    POIPOI 67

    SueChan_Factory

    ☆quiet follow

    新茶ホムの朝

    モーニングコールで目覚めさせてどこか懐かしいような旋律に男の目蓋がピクリと反応する。まだはっきりとしない意識の中、全身を包み込む柔らかな音色。ゆっくりと目を開けて、瞬きを数回。少しずつ演奏者の姿が鮮明にその瞳へと映しだされていく。それはつい数時間前までベッドを共にしていた数学教授であった。しばらく微睡みでこの音色に浸るのも悪くない。そう思っていたのに。
    「おや、お目覚めかネ」
    ピタリ、音が止まった。先ほどまで豊かな彩りに溢れていた部屋が急な静けさを取り戻し、無機質な空間へと置きかわる。
    なんだ、もったいない。もう少しその音色を聞いていたかったのに。
    そう思っていたはずの男の口から出たのは、しかし別の言葉だった。少し掠れた声が空気を伝う。
    「キミがヴァイオリンを弾けたとは。意外だな」
    枕に半分顔を埋めてくふふと肩を揺らせば、絵描き筆のようにしなやかな動きがピンと張られた糸の上を滑り、奏でられた音階は男の耳を右から左へと抜けていく。
    「…多少齧る程度だヨ。55シリング…だったっけ?その弾き心地がどんなものか気になって少々拝借してみたが、ふむ…まぁ、悪くはないな」
    「それはそうだろう。何しろ私の自慢の一挺だからね」
    「ならもう少し扱い方を考えた方がいいんじゃねぇの」
    渋い顔を見せながら数学教授はあご当てから顔を離し、ヴァイオリンと弓を丁寧に机の上へと下ろす。名残惜しそうに長い指が弦を軽く弾くのを男はただ何も言わず黙って見つめていた。

    ふ、とぶつかる視線。途切れた会話と僅かな沈黙。
    そういえば朝の挨拶をまだ交わしてはいなかったことを思い出す。
    「教授」
    男の艷やかな唇が形どる。素敵なモーニングコールのお返しとして歌うように。ただし、甘ったるい歌声は掠れたまま。わざとらしい咳払いで誤魔化したってもう遅いけれど。
    小さなため息と一緒に一歩、二歩。
    それがこぼれた笑みに変わるまで三歩、四歩。
    ぎしり。ベッドが重いとちょっぴり悲鳴を上げた。
    「モーニングティーは?」
    「熱めのやつを頼むよ」

    それから、おはようのキスも一つもらえるかい?
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😍💖💖💖💖❤👏😍👏😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works