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    ひなげし

    @sleepwhitepoppy

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    ひなげし

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    背中を痛めてしまって、たみおくんがマッサージしてくれるお話。
    同棲描写ございます。後半、怪しげですのでご注意下さい。

    甘やかして、背後から。 やってしまった。元々、力は無い方だから気を付けてはいたのに、最近たみおくんが側に居てくれる所為か、頼りっきりで自分の非力さを忘れていた。職場で背中の筋を痛めた。それも思いっきり。もうやだ、おばあちゃんみたい。息を吸うだけで、ズキズキと痛むし、声を発するのも振動からか辛いので、電話を取っても弱々しい声しか出せない。思考がぼんやりと天井へ昇って溶けてしまいそうな感覚。まだまだ、やらなければならない事は残っているというのに、意識が深みに嵌って抜け出せないでいる。そんな不審な様子を見て、同僚から声を掛けられた。
    「重い物運んだら、肩甲骨痛めちゃったみたいで……」
    なるべく誤魔化したくて、はにかんではみたものの引き攣ったそれは逆効果だったらしく
    「えー! 顔色悪いじゃん! 大丈夫? 残りの仕事、明日に回して今日は早く帰りなよー!」
    なんて要らぬお節介を焼いてくる。おまけに声が大きいから事務所中に知れ渡り、帰らざるを得なくなってしまった。時刻を見ると、普段の退勤時間よりも二時間程早い。
    (まあ、これくらいの時間ならいっか……)
    上長に許可を得て、そそくさと帰り支度を済ませ帰路に着く。早くたみおくんに会いたい。確か今日はお休みだと言っていたから、お家に居るかもしれない。
    「ただいまー」
    扉を開けながら、玄関を覗き込む。
    暫くすると、ぱたぱたとこちらへ向かって来る足音。ああ、足音だけでもなんて愛しい気持ちで心臓がきゅうっとなってしまうんだろう。
    「おかえり。早いね……ってどうしたの!?」
    「え……何が?」
    言われるまで気付かなかった。壁に掛かっている鏡に映る自分の顔を見て驚愕する。疲れ切って窶れた表情の女が無理くり笑いながら佇んでいて、最早ホラーだ。なんだかもう、悔しくて悔しくて、どうしようもなくなって思わず目の前のたみおくんに抱き付く。
    「仕事で重い物持ったら背中の筋、痛めちゃったの……あんまりにも痛そうにしてたから早く帰りなって……言われて」
    大人げなく涙声で訴えている時も、何も言わずに、唯、抱き締め返して背中をゆったりと摩ってくれる。そんな優しさが今は心に沁みて更に涙を誘う。首筋に顔を埋め、大好きな彼の匂いを胸の隅々まで行き渡る様に思いっきり吸い込む。
    「ふっ……擽ったい。じゃあ今夜はしっかり痛みを和らげないとね。まず、ぬるま湯にお入り。血行を良くしたら、俺がマッサージしてあげる」
    言われるが儘、お湯に浸かる。
    (そう言えば最近はシャワーで済ます事が多かったな。偶にはこういうのも良いかも)
    水面に揺らめく自分の身体を眺めながら、首を回してみた。
    「いっ……! たぁ!」
    首筋から背中にかけて電流が走るかの様な激痛。まだこれっぽっちも良くなっていないじゃないか。ガッカリしながらふと思う。こんな姿、たみおくんに見られでもしたら絶対喜んで追い討ちを掛けて来るだろう。それだけは避けなきゃ。お風呂から上がり、ドライヤーをしようと腕を上げた瞬間、またあの痛みが襲う。数秒の硬直すらも、彼は見逃さなかった。
    「ほら、痛むんでしょう? 今日は特別ね」
    ひょいと私の手からドライヤーを奪い取ると、背中に回り込んでブローしてくれる。元々、人に髪を触られると眠たくなるタチだけど、たみおくんの柔らかな手つきは今までのどんな感触よりも心地良くて天国への眠気を誘う。うとうとしているのがバレたようで、
    「ほーらぁ、じっとしてないと危ないでしょう?」
    眠りへと誘うまじないみたいな声で注意される。そんなの、余計に眠くなるというのに。
    後もう少しで寝落ちしそうといった所で、ドライヤーの音が止む。ずぅっとされていたかった。永遠に。
    「はい、終わり。次は湿布貼ってあげるから、背中見せてごらん?」
    なんだか急に恥ずかしくなりながら、痛い所を指で押さえて知らせる。ひんやりとした湿布が迫って来ているのを肌で感じ、身震いしていたら
    「……いいこ。……いいこ」
    赤子をあやす仕草でそっと囁かれて、頭を撫でられる有り様にカッと顔が熱くなってしまう。熱りとは正反対な冷たさが背中にぴとりと貼り付く。
    「ひゃっ……! もう、子供扱いしないで!」
    必死に訴えるけれど、特段気にも留めていない風でベッドへ横になるよう促される。
    「寝て」
    渋々、枕に頭を預けようとした途端今日一番の悲鳴。
    「いっ……!?!? たたたあぁーっ!!」
    これ以上心配させたくない、そんな気遣いも考えられなくなる程ビリビリと痛む。反射的にみっともなくベッドで転げ回り、髪なんてもう振り乱してボサボサだ。
    「うっふふ……! ああ、笑っちゃあいけないか。支えてるから、うつ伏せになって?」
    横たわる私の肩を掬い上げ、反対の手でお腹を持ち上げて痛みが響かないようにしてくれているのが丁寧な所作で有り有りと伝わって来る。優しくって、また涙が出てしまいそう。うつ伏せになると、お尻の辺りにずしりとのし掛かる重み。
    「マッサージしてあげる。軽くするけど、痛かったら言ってね」
    「本当に何から何までありがとう……」
    情けない、普通逆だろう。地続きの日常で、近い将来たみおくんが疲れ果てて帰ってきたら、今度は私がドロドロに甘やかしてやるんだ。優しい人になりたい。
    「んっ……あぁ〜、そこぉ……きもちぃぃ」
    絶妙な指圧で、じんわりと筋を解してくれるものだから、ご主人様にお腹を見せて警戒心を失った犬みたいにリラックスしてしまう。
    「たみおくん上手〜、ふぁっ……直ぐ良くなりそう。これでお金取れるよ〜」
    「…………」
    「たみおくん……? 代わろうか?」
    「振り返らないで……!」
    珍しく声を張り上げる様子に驚いて、制止の声を跳ね除け背後を見遣る。
    そこには、ベッドの上だけでのたみおくんが半熟の眼差しで耐えながら跨っていた。


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    ひなげし

    DONEキメ学軸の自鬼小説。以前、相互様が描いて下さったイラストを基に放課後の他愛ないお話を書かせて頂きました。狂蠱ちゃん、むら鬼ちゃん、そしてヒナギクの日常。
    キメ学自鬼小説 『放課後アソーテッドスノー』 ──ゴールド、グリーン、ピンクとアクア。キャンバス疾る平行線、交差するのは角を曲がったあのお店。




     普段の授業なんてものは正直、まともに受けたためしがない。頭の中で、執筆中の構想を練りながら適当にやり過ごす。窓際の一番最後の席。考え事をするにはもってこいのこの席で、学生らしからぬ不健全な妄想を企て頭に花を咲かせる。締切も近いし、早く仕上げなければならない。そんな様子に気付いたのか、先生が時折指名して来るけれど何ら問題はない。文字を考えるのが私の仕事のようなものだから、黒板の問いを読み解いて上手く言葉を紡げば良い。今日も悔しそうに着席を促す先生の顔を、内心嘲笑してやりながらスカートを整えつつ席に座る。この下らない授業が終われば、やっと自由の身だ。やっと本当の私になれる。窓の外を見ると、グラウンドが白く染まって銀色の非日常があった。年に数回、降るか降らないかの土地柄だから物珍しさに視線が勝手に吸い取られていく。幸いにも、しんしんと降り積もる雪は止んで何とか放課後集まれそうだ。ホームルームで担任が「足元に気を付けるように」なんて当たり前の事を言う。もう少しまともな言葉を考えられないのか、いや、仮にそうだとしたらこんな職には就いていないか。悪態を吐いて相変わらず窓の外を眺めていると思いの外暇潰しになったらしい、チャイムが鳴って生徒達が一斉に下校し始めた。読み掛けの本を机から引っ張り出して鞄に入れながら席を立つ。コートを羽織ってマフラーを巻いていたらクラスの女子数人に、お茶でもどうかと誘われた。生憎今日は先客が居る、こんな雪の中でも会いに行きたい程の先客なのだ。目の前の彼女達には悪いけれど丁重にお断りし、いつになるのやら分からない“また今度”をして教室を後にする。冷え込んだ廊下は、普段よりも賑わっていて歩きづらい。部活動のバックを背負った生徒がチラホラ見えて、成る程流石にあのグラウンドでは中止になったのだと悟る。一階の下駄箱まで辿り着き、自分の扉を開けると色取り取りにラッピングされたお菓子やら雑貨やらが御出ましになって中々靴を取らせてくれない。
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    ひなげし

    DONE自鬼小説。狂ヒナで書かせて頂きました。
    狂蠱様とヒナギクの出会いから、合わせ技(混成血鬼術)が生まれるまでのお話。
    ※前半、魘夢さん出てきます。後半、狂ヒナでかなり触れていますのでご注意下さい。
    自鬼小説『重なり』 いつか崩れていくとしても、重なり合う、僅かに開いた隙間から。




    「ねえ」
    いつもの声が聞こえて振り返る。
    私は相変わらず霊園で出会した餌を苗床にして、のらりくらり喰い繋いでいた。自分の狩場でも無い癖に。
    「あら、魘夢さん。私の元にいらっしゃるという事は、御身体が寂しいのかしら?」
    「…………お前は本当に頭の中がお花畑で愚かだねぇ。違うよ。今日はお願いがあって此処に来たんだ」
    普段ならば、特訓と称して媾い合う頃だ。
    私は他の鬼とは少し事情が違っている。鬼の長であり全ての始まり、“あの方”から直々に血を戴いてはいない。“あの方”の寵を受ける鬼は特別に配下を作る事を許されており、配下にされた者は術や容貌、仕草や考え方に至るまで主であるその鬼に与えられる事となる。上弦の鬼であれば自身の血を一時的に“あの方”の血へと昇華出来るが、それ以外の階級の低い鬼は不可能な為、人間に直接そのまま流し込むのだ。それは言ってしまえば、“あの方”の血が極端に薄く支配される範囲もごく僅か、それ故に主である鬼は配下に対して自身の嗜好を一定量植え付ける事が出来る。但し、鬼としての力も脆弱だから各々特訓が必要なのである。
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